お守りの効果!?
この混乱した空気の中で、それでも一番冷静だったのはやっぱりアマリアさまだった。
素早く状況を見極めようとするその姿勢、さすがだと私は思う。
「そうね、コンラート殿下は、なんというか、憧れだったのね。偶像崇拝? っていうの? だってコンラート殿下にキスされても、こんなにドキドキしないと思うもの! あの美しい顔面が近くに来たらそりゃあちょっとはドキドキするかもしれないけど……でもそんな場面を想像してもこんな気持ちにはぜんぜんならないの……!」
「ということはキスされたのね、アルベインさまに」
「きゃあ! アマリア言わないで! 思い出しちゃうじゃない! きゃっ恥ずかしい! でもアルベインさまは熱い視線で本当に真っ直ぐに私を見つめるのよ。コンラート殿下はほら、エスニアしか見ていないじゃない? でもアルベインさまは……!」
エリザベスさまの興奮は止まらない。
だが聞き捨てならない台詞が聞こえてきて私はそれどころではなくなった。
「まって? そんなことないでしょ!? 殿下はちゃんとみんなと仲良くしているでしょ!?」
「エスニアさまは自覚がないのね? コンラート殿下はエスニアさまが見ていない時にもよくエスニアさまを見つめていらっしゃるわよ? それはもう私たちにはしない、なんというかとてもいい顔で」
アマリアさままでが呆れたようにそう言い出したのだが。
「いや本当にまって? それどんな顔!? 私の目には全員に同じ顔しかしていないように見えるわよ!?」
だって彼の外面仮面は完璧じゃないか。
その外面用完璧笑顔を崩したことなんてないじゃないか!
だが。
「エスニアさまが見ていない時の殿下の顔をエスニアさまにお見せしたいですわね……」
「アマリアさま、それは何が言いたいのでしょう……?」
「それはもちろん――」
「待って! やっぱり言わないで! でもそれは誤解! 勘違いだから!」
ちょっと! あの人なにやってんの!
どうせ奴は私の後頭部でも見ながらうっかり昔を懐かしんだりしていたんだろう。
そのせいで何も知らない彼女たちに誤解をさせているんだ。
なんて迷惑な……!
「時の王太子殿下は『神託の乙女』とあっという間に恋に落ちるそうですから、きっと今代の王太子殿下はエスニアさまに恋をされたのですわね」
「ってフローレンスさま!? いや誤解! それは誤解! もしかしたらちょっと仲よさそうに見えたかもしれないけど、それは誤解なの!」
ちょっと前世で十年ばかし一緒に暮らしていたせいなの!
とは言えなくて、私は口をパクパクさせながら必死にどう説明しようかと悩んでいた。
と、その時。
エレナさまが言い出した。
「私、安心しました。殿下がエスニアさまを選ばれて。そしてそんなエスニアさまとお友だちになれて私、とっても嬉しいですわ。実は私、ずっと悩んでいたんですけれど、これで心を決めました。私、アルフレッドに告白します!」
「待って!? アルフレッドって誰!?」
突然の展開に私は今度はぐりんと顔をエレナさまの方に向けて思わず叫んだ。
するとそこには頬を染めつつも断固とした意思を感じさせるような、私の初めて見る表情のエレナさまがいた。
「私の幼なじみでダルトン伯爵家の次男なの。親は次男なんてダメだって言って全く認めてくれなかったのだけれど、私、このエスニアさまのお守りがあれば叶う気がするの! ええ、きっと叶うわ! 私、やっぱりアルフレッドと一緒になる……!」
いつもは大人しいエレナさまが並々ならぬ決意の炎を目に宿らせていて、私は心から驚き、そして狼狽えてもいた。
「待って……それは単なるお守りで……効力がそれほどあるとは……」
「でもフローレンスさまのお守りも、エリザベスさまのお守りもものすごい効果があったじゃないですか。なら私もきっと叶うと思うの! だから応援して欲しい……! みなさまならきっと応援してくださるわよね……!」
「……もちろんです……けど…………」
他の三人がそれぞれ意気揚々と「ええもちろんよ!」「エレナさまが幸せにならないなんてあり得ないわ!」「一緒に幸せになりましょうね! エレナさま!」などと感動の場面を繰り広げている中、私は一人で茫然としていた。
王太子妃候補が、一気に五人から実質二人になってしまった。
他に好きな人がいる令嬢が王太子と結婚させられたら、きっとどちらも不幸になるだろう。
だからこの他の人に恋をしている三人は王太子妃にはならない方がいい。
となると。
アマリアさま……あなただけが私の希望となりました……。
すがるような気持ちでアマリアさまを見つめる私に気付いたらしいアマリアさまが、私を見て、くすっと面白がるように笑った。
「私、『神託の乙女』たちとコンラート殿下を絶対に二人きりにしなかったのは、アルベインさまの方針だったと思うのよ」
アマリアさまが、いかにも面白いというような顔でそう言ったのは、アマリアさまと二人でお茶をしているとある日の午後だった。
今までは五人一緒に仲良く行動していたのだけれど、最近は私とアマリアさまがよく一緒にいて、他の三人がいないことが増えていた。
なぜかというと。
実質「王太子妃候補」として残っている組と辞退組に分かれたからである。
そう、今コンラート殿下と親睦を深めるためにお会いしているのは私とアマリアさまばかりとなったのだ。
王太子コンラート殿下と「神託の乙女」が出会ってから、約一ヶ月が過ぎた頃だった。
って、いやいや私も辞退したいんですが……。
しかし残念ながら、明確な恋愛相手のいない状態ではそう簡単には辞退させてはくれないらしい。
私たちの状況はエリザベスさまからアルベインさまに漏れなく伝わり、その結果、王太子妃候補として妥当ではないと判断された三人とコンラート殿下との交流は極端に減らされた。
もちろん私はエリザベスさまに、こっそりアルベインさまには私も一緒に除外してもらえるようにお願いしてみたのだが、アルベインさまはそれを許してはくれなかったようだ。
「エスニアさまに心に決めた方が出来た時には、またお知らせ下さい」
そんな伝言が返ってきた。
悪かったわね!
だって恋なんてしたことがないのよ!




