お守りの効果?
マザラン公爵子息アルベインさまは、コンラート殿下の側近としていつも殿下の影のように付き従っている。
だが基本無口な上に存在感を消すのもとても上手なので、いつもコンラート殿下に付き従っている割には普段はあまり彼を意識して見ることはなかった。
実は最初の頃は密かに結婚相手候補としてこっそり観察してみたのだが、どうにも何を考えているのかわからない人だという印象しか持てなくて、これは無理だなと諦めた記憶がある。
「でもあの人、あの眼鏡を取ったらなかなか綺麗な顔をしていると思うわよ」
「そうなの!? なんでアマリアさまはそれを知っているの!?」
思わず私が驚いて聞いた。
だって分厚い銀縁眼鏡の印象が強烈すぎて、何度も見ている顔なのに全く顔の印象が残らない人だったから。
「知っているというよりは想像力ね。あの眼鏡のフレームを細くしたら、殿下とは違ったちょっと冷たそうな雰囲気が魅力のなかなか素敵な男性になりそう」
なぜかそう言ってアマリアさまが嬉しそうに笑う。
笑うというか、にやにやするというか?
「でもあの眼鏡をかけている限り、素敵とはほど遠いじゃない」
「なのにどうしてエリザベスさまはアルベインさまとお話していたのかしらね。殿下の情報でも聞きにいったのかしら……?」
「さあ……?」
その日、私たちは首をひねることしか出来なかった。
エリザベスさまがこの後、熱を出したりしないといいのだけれど。
しかしそんなある意味平和な日々はあっという間に終わりを告げ、私たちの中に激震が走った。
「アルバート・シレンドラー少尉が、隣国の大軍を一人で返り討ちにして撃退の大活躍」
その知らせが王宮にもたらされたとき、私たちはのんびり朝食の後のお茶をしていた。
夜通し駆けてきた伝令が、とても誇らしげに知らせたと後から聞いた。
そしてその功績により、その人は大尉に任命されるだろうとも。
「アルバート……!」
その知らせを聞いたとたん、そう言ってうれし涙を流したのはフローレンスさまだった。
なんとその大活躍した人というのは、フローレンスさまの好きだった護衛の人、その人だったのだ。
それは一騎当千の活躍で、 あっという間に相手の指揮官を討ち取るとそのまま大暴れして敵を蹴散らしたとのこと。
もともと公爵令嬢の護衛にまでなるような人だから、相当な実力があったのだろう。
そしてフローレンスさまも見る目があったということね。
そう思ったら。
「きっとエスニアさまのお守りが効いたのですわ!」
そう叫んだのは、エリザベスさまだった。
お守り……?
そういえば渡していたわね……?
「そうですわエスニアさまのお守りのおかげです! ああなんと感謝したらよいか……!」
そう言ってフローレンスさまにはギュウギュウと抱きしめられたのだけれど、さすがに全てがお守りのおかげではないだろう。
「きっと実力がおありだったのです。お守りが少しでも役にたっていたのなら嬉しいですが」
「いいえお守りのおかげです!」
なぜか力説するエリザベスさま。
びっくりしてエリザベスさまの方を見ると、エリザベスさまは見たこともないうっとりとした表情で、
「だって、私にも奇跡が起こったんですもの……!」
と言いだしたので驚いた。
おお……?
それはもしかして、コンラート殿下と心が通じ合った……?
「まあ、それではコンラート殿下に愛を告白されたのですか?」
アマリアさまがちょっと驚いたような、意外そうな顔で聞いた。
その場のみんながそう思っただろう。
もちろん私もそう思った。
なるほどあの人も、エリザベスさまの熱い気持ちにとうとうほだされたのね。
それなら私もこれからは大手を振って、運命の人を探しましょう――
「いいえ。お相手はコンラート殿下ではないの。実は……実はアルベインさまに、この王太子妃選が終わったらマザラン公爵家にお嫁に来て欲しいと言われて私……私……! 恋に落ちてしまったの!!」
きゃああ~~!!
と恥ずかしいのか嬉しいのか、とにかく奇声を上げて顔を覆うエリザベスさま。
って、エリザベスさま……?
私は何か信じられないようなものを見た気がして、ぽかんとただエリザベスさまを見つめてしまった。
「あらまあ、てっきりエリザベスさまはコンラート殿下が好きなのだと思っていたのだけど……」
アマリアさまが驚いたように言った。
私とフローレンスさまとエレナさまもうんうんと激しく頷いた。
そんな私たちを見て、エリザベスさまは突然熱く語り出した。
「私もそうだと思っていたの! でもね? 彼もよく見たらとっても素敵な人で、しかもそんな人に情熱的に愛していますなんて言われたら……っ!! 彼ね? ずっと最初から私を見ていたんですって。もう私しか見えなかったんですって……きゃっ! しかも彼、素顔がもうとっても美しくて! 私、面食いでしょう? それで彼の顔がもう私の理想そのもので……! しかも情熱的な……ああダメそんなはしたない! でも私にはわかったの。彼が私の運命の人なんだって……!!」
なにやらエリザベスさまは唖然としている私たちを完全に置いてけぼりにして、顔を赤らめながらもひたすら一人で喋り続けていた。
しかも今までのコンラート殿下について語る口調とはなんだか様子が違っていて、今はどこからどう見てもフローレンスさまと同じような、まさしく恋する乙女という感じで……って、ええ……?
「ではコンラート殿下のことはもういいの?」




