美少女を助けるのは主人公の役目なのだ
ここは悪徳領主の領地にある地下室。
悪徳領主しか知り得ないこの隠された部屋に紺色の髪をした美少女、マナは幽閉されていた。
マナは彼女の父が悪徳領主の策謀に嵌められてしまい、そのせいで悪徳領主によって強引に連れ攫われてしまった。
そして、これから自分の身に起こる出来事を思うとマナは辛すぎるあまり涙が溢れ出てしまう。
そうして、マナが涙を堪えられずに泣いていると、
「やっと、あの面倒な国王を納得させることができた。これで、私の方も気兼ねなく楽しめると言うものだ」
ニヤニヤした笑みを浮かべる悪徳領主が彼女が幽閉されている部屋に入ってくる。
悪徳領主は身長が低く、とても太っており、その姿は鏡餅と瓜二つだ。
顔もとても醜く、髪は一切の手入れが施されていない。
そんな悪徳領主を見たマナは、
「ひっ……」
彼の舐め回すような視線に激しい嫌悪感と恐怖を覚え、声にもならない掠れた音が喉から漏れ出てしまう。
そんな彼女を見た悪徳領主は下衆い笑みを浮かべながらマナの方へ近づいてくる。
「さてさて、久しぶりの少女だ。思い存分楽しませてもらうからな?」
そう言いながら近づいてくる悪徳領主の鼻息は荒く、興奮を抑えきていない。
そんな悪徳領主を見たマナは彼から逃れようと後方へジリジリ下がる。
しかし、彼女の手足には枷がはめられており、思い通りに体を動かすことができない。
そのため、少しずつ悪徳領主に追いつかれていってしまう。
「い、嫌……助けて……お父さん……」
マナは不安のあまり聞こえるはずのない助けの言葉を吐いてしまう。
そんなマナに対し、
「残念だが、ここは私以外の人物は誰も分からないところだ。いくら叫んだところで助けは来ないぞ?」
悪徳領主は助けなどどう足掻いても来ないと涙を浮かべるマナを嘲笑うように答える。
その事実を叩きつけられたマナは絶望してしまう。
このまま悪徳領主に辱められるくらいなら自死を選んだ方がいいとまで考える。
しかし、今の彼女は身動きを取れない状況であり、自死さえもできない状況だ。
マナがジリジリと悪徳領主から逃れようと後ろに下がり続けていたが、ついに壁に辿り着いてしまう。
これ以上、後方へ下がることはできない。
もうおしまいだとマナが諦め、目を瞑った次の瞬間、
「おいおい、俺の国で何好き勝手してるんだ?」
地下室の天井を何かが突き破って襲われそうになっているマナの前に現れる。
それは創であった。
自分以外の者が知るはずもない場所に何者かが現れたことに悪徳領主は驚きを隠せない様子であり、混乱しているようだ。
そんな悪徳領主の胸ぐらを掴み、創は自分の目線まで彼を持ち上げる。
それに対し、
「お、おい!!貴様!!一体誰に対して、こんなことをしてると思っている!?!?」
悪徳領主は創に対して、傲慢な態度で応える。
どうやら、悪徳領主は創のことに気がついていないらしい。
それもそのはずだ。
現在の彼は認識阻害の魔術を使用しており、彼のことをよく知っている者にしか気づかれないようにしている。
では何故、創はわざわざ認識阻害の魔術を使ったのか?
それには理由があった。
その理由とは、この悪徳領主が自分に対する忠誠心を図ると言うものだ。
創は認識阻害の魔術を使っているものの、そこまで強力なものではなく、とても軽いものだ。
そのため、創へ強い忠誠心を抱いている者や、彼と仲がいい者ならば、すぐに見抜けるほどだ。
しかし、この悪徳領主はこの認識阻害の魔術を見抜けていないことから、創への忠誠心はあまり高くないことが分かる。
それならば、悪徳領主に対して慈悲をかける必要もない。
そんなふうに考えていると、
「わ、私の身に何かあったら、国王は黙っていないぞ!!それでもいいのか!?」
悪徳領主がワーワーと何かを叫んでいる。
それに対し、
「あっ?国王は俺なんだが?」
創は国王は自分であると答える。
確かに、この悪徳領主はサルサリアという国の貴族だ。
しかし、サルサリアは神国アヴァロンに所属する国であり、権力で言うと、創の方がサルサリアの国王よりも高い。
そもそもこんな片田舎の国王など創の権力の前ではチリにも等しい。
そんな創の返しに、悪徳領主は理解ができていないようであり、呆けた顔を浮かべている。
そんな馬鹿面を晒している悪徳領主とは反対に、マナは驚きを隠せない表情を浮かべている。
その表情から、創はすぐに彼女が自分の正体に気がついていることが分かった。
だが、まずは目の前の問題から解決する方が先だ。
そうして、創が視線を悪徳領主の方へ戻すと、
「き、貴様は何を馬鹿げたことを言っている!!この国の国王は貴様のような下劣な愚民などではない!!」
悪徳領主が創へ向けて罵詈雑言を吐き捨てている。
いかにも悪徳領主らしいセリフに煽り耐性の低い創はブチギレて相手を殺そうとするが、深呼吸をしてここを落ち着かせる。
最近、思いのままに悪人を殺し過ぎているせいで、連邦議会からお叱りを受けたばかりであった。
このまま好き勝手に暴れると今まで変わってきた政治を全て創にやらせるとまで脅されているのだ。
政治など面倒なことはやりたくない創は何とか思いとどまることが出来たのだ。
そうして、思いとどまることが出来た創は悪徳領主に話しかける。
「それはこっちのセリフだ。田舎で俺の目に入りにくいからって好き勝手にしやがって。お前みたいなクソ豚がいるなんて俺は悲しいぞ」
「く、クソ豚だとっ!?!?一体誰に対してそんな口を聞いているっ!?!?」
「だから、それはこっちのセリフだっての。ほんと、馬鹿はどう足掻いても破滅の運命を免れないんだな」
創はそう言いながら認識阻害の魔術を解いた。
その瞬間、悪徳領主の顔が真っ青に染まる。
「本当はお前が俺のことに気がついて、今までのことを反省するようなら、神国アヴァロンの法に則って裁いてやるつもりだったんだけどなーあんな態度されちゃあ、反省なんて無理だって判断するのも仕方ないよな?」
「い、いえ……こ、これは……」
「いや、言い訳はいい。俺は他者の心を読むことができるからな。嘘をついたところで意味はないから諦めろ。まあ、この場で殺されなかっただけマシだと思うんだな」
創はそう言うと、悪徳領主を壁へ投げつけ、そのまま動けないように拘束する。
もちろん、耳障りな声が聞こえないように口もしっかりと塞いでいる。
そうして、悪徳領主を取り捕まえた創はマナの方へ近づくと、彼女の目から溢れていた涙をそっと優しく手で拭き取る。
「もう安心して大丈夫。今までよく頑張ったね」
創はそう言いながらマナの頭を優しく撫でる。
そんな創の優しさに当てられたマナは緊張の糸が解け、安心からか、再び涙が溢れ出てしまう。
そして、そのまま優しく頭を撫でてくれている創に抱きつき、大声で泣き始めた。
そんなマナを創は優しく抱き寄せ、彼女が安心するまで頭を撫で続けたのだった。
ちなみに、創くんはたくさん子供がいるのに加えて、女性の扱いがとても上手なので、少女の扱いはとても上手いです。