王都の末路
そうして、王都へ向けて馬車で移動している一行であるが、窓の外に広がる景色を見て教皇とアドニアス6世は唖然としている。
何故なら、彼らの目の前にある王都は明らかに前のものとは大きく異なっていたからだ。
王城はまるで、この世の地獄を表現しているかのような建物へと変わっており、目を凝らしてみると、壁面には大量の人だった何かが覆い尽くすように磔にされている。
それだけでなく、王城の中心部からは肋骨らしきものと羽が生えており、天井には目と口から赤い液体が流れ落ちる美しい女性の頭が飾られている。
そして、この気持ちの悪いものは王城のみならず、王都全土に広がっており、まさに地獄と言った様子だ。
あまりにも残酷かつ異常な風貌に教皇とアドニアス6世が唖然としていると、
「相変わらず、天才的な美的センスですね。私も見習いたいものです」
窓から王都の様子を見ていたミーシャがとんでもない爆弾発言をこぼした。
あまりにも予想外の発言に教皇は理解することを諦め、先ほどの発言が脳のメモリーから消去された。
一方、アドニアス6世は彼女の異常な美的感覚に恐怖を覚え、怯え切った目で彼女のことを見ていた。
だが、ミーシャはそんな視線を全く気にしておらず、王都の様子をしっかりと観察している。
そうして、彼らは圧倒という間に王都へ辿り着く。
王都の入り口にある大きな門は目がくり抜かれた像の口となっており、相変わらず目からは赤い液体が溢れ出している。
そして、この像はスキンヘッドであるが、とても苦しそうな表情を浮かべており、苦しみで叫び声を上げている口から彼らは王都内へ入っていった。
王都の中へ入ると、相変わらず、グロテスクな建物が乱立している。
だが、アドニアス6世はそれよりも重要なことに気がついていた。
それは先ほどから国民の姿が一切ないことだ。
彼が王都を離れる前は確かに、人が大量にいたはずだ。
創に恐れて逃げたものがいたとしても流石におかしい。
あまりにも静かすぎる王都にアドニアス6世が嫌な予感から冷や汗をかいていると、
「どうやら、この王都にある方たちは醜い心の持ち主しかいなかったようですね。誠に残念です」
またもや聖女であるミーシャからとんでもない発言が飛び出す。
まさか、聖職者からこのような発言が飛び出すとは思ってもいなかったアドニアス6世は驚きを隠せない様子だ。
一方、教皇は少し真剣な眼差しでミーシャに話しかける。
「ミーシャ?流石に今の発言はいけない。ミーシャは聖職者なのだからね」
「ごめんなさい、お爺様。つい、口が滑ってしまいました」
「分かればいいんだ。それなら、先ほどの発言を撤回して、アドニアス6世に謝罪しなさい」
「それは出来ません。確かに、私の発言は軽率なものでした。しかし、私が言ったことは事実です」
ミーシャは軽率な発言をしたことは認めたものの、先ほどの発言を撤回することはしなかった。
何故なら、ミーシャが言ったことは真実なのだから。
そんなミーシャの態度に疑念を抱いた教皇は、彼女との話を続ける。
「何故、ミーシャは王都の方たちに対して、そのように思ったのかい?」
「それは彼らはあの方に見逃されなかったからです」
「それはどう言うことだ?」
「この建物の壁に磔にされている方たちは王都に住んでいた方たちです。彼らは見逃されなかったのです」
ミーシャの発言を聞き、教皇は眉間に皺を寄せ、アドニアス6世は頭を抱え、恐怖で震え始める。
そう、この創が生み出した建物の壁にはこの王都で住んでいたものたちが使用されている。
ちなみに、ミーシャは皆殺しにあったと言っていたが、実際のところは違う。
皆殺しにあったのは王都に住む大人たちであり、小さな子供たちは全て見逃されている。
基本的に、創は相手が憎き人間であろうが子供は無条件で見逃している。
なんなら、見逃した子供たちを遠回しに支援していたりもする。
そのため、正確には王都に住んでいた大人たちが皆殺しにされたと言うことだ。
ミーシャは少々言葉が足りなかったのだ。
そうして、ミーシャは場所の中でうずくまり、恐怖に震えているアドニアス6世に話しかける。
「貴方も覚悟しておいた方がいいですよ、アドニアス6世。貴方は民から搾取し、自分の懐を潤していたのですから」
お前は散々悪事を働いてきたのだから覚悟しておけと。
その言葉を聞いたアドニアス6世の恐怖心は、抑えられる領域を超えていた。
ミーシャからの脅しを聞いたアドニアス6世はこの場から逃げるために馬車から飛び降りようとした。
しかし、ミーシャの魔術によって体を縛られ、連れ戻されてしまう。
そして、ミーシャは逃げようとしたアドニアス6世との話を続ける。
「最後まで王としての責務を全うしなさい。それに、この王都には逃げ場などありません。大人しく、その罪を清算すれば良いのです」
ミーシャはアドニアス6世に己の罪を精算する時が来たのだと告げる。
その宣告を受けたアドニアス6世はこれから辿るであろう自分の末路を理解し、泣き叫ぶ。
流石に、いい歳したオッサンの号泣なんてものは耳障りなので、教皇の魔術によって口を塞がれてしまったのだった。