オートロック破り
仁さんとは夜の世界で知り合った。
それ以来、こうしてツルんでいる。
遊ぶ日もあれば仕事をする日もある。
今日は後者、仕事のほうだ。
「仁さん、今日の仕事はなに?」
時々ついタメ口になってしまう。
それだけ仁さんは誰にでもフレンドリーで
優しくて面倒見が良くてとても親しみやすかった。
先輩だけど兄貴のような。
「ん、あぁ今日はね、人捕まえるの」
「捕まえるって?」
「金をさ、持ち逃げした奴がいんだよ」
誰の金?なんの金?持ち逃げしたのは誰?
疑問は浮かぶが余計なことに口は挟まない。
「ふーん。で、今どこに向かってるんすか?」
「ヤサだよ。ソイツの。マンション。まだそこ拠点にしてるか分からないけど」
「へぇ」
「はるってさ喧嘩できんの?」
「まぁ多少は」
「はは、いいね。もしかしたらボコボコにして連れて行かないといけないかもしれないから」
この人は怖い人なのかそうじゃないのかよく分からない。
表面上はとても面白いお兄さんなのだ。
でもイカれてるのだけは確かだ。なんというか常識を全てぶち壊していくような。
「あー。なるほど」
車は先程の田舎道から街の中心部のほうへと向かっている。
普段通り乱暴な運転だったが、その普段通りが逆に俺を安心させた。
数十分くらい車を走らせると仁さんは車を停めた。
どうやら目的地に到着したらしい。
へぇ、このマンションがそうなんだ。
「はる、降りるぞ」
「へいへい」
車を降りて仁さんの後に続く。
歩きながら相手のヤサを確認する。
外観は結構綺麗なマンション。
高さもそこそこありそうだ。
恐らくエレベーター付きだろう。
2人で玄関前に立つ。
「ねぇ、仁さんこれってオートロックじゃないの」
「オートロックだね」
「どうすんの?適当に部屋番押して、鍵失くしたんですとか言って入れてもらう?」
「そんなことしないって。何事も目撃者は少ないほうがいい。まぁ見とけオートロック破りを見せてやるから」
仁さんはそう言うと郵便受けを物色し始めた。
「あ、はる。405号室の郵便受け見とけ。」
「405?なんで」
「405が今回のターゲットの部屋だから。チラシとか溜まってるようなら長い間不在、つまりもうここには居ない可能性が高くなる。念の為確認しといて」
「わかった」
言われるがまま405号室の郵便受けをチェックする。
チラシや請求書なんかがパンパンに入っている。
仁さんの言葉通りならこれは居ない可能性が高そうだ。
ズボラなだけの場合もあるだろうから確定ではないんだろうけど。
「仁さん405号室チラシでいっぱいだよ」
「一足遅かったかもな」
そう言う仁さんの手元には1枚のチラシ
どうやら出前を頼む訳ではなさそうだ。
「いいか、はる。だいたいオートロックってさ、外からはロックされてるけど中から外に出る時は自動で開くだろ?」
「ん、あぁ確かに」
「あれってさオートロックドアの内側に人感センサーがあるわけね。大抵はドアの上側」
「うん」
「そのセンサーにこのチラシをこうやって」
仁さんはそう言いながらドアとドアの隙間にチラシを差し込むと上下左右にヒラヒラとチラシを動かした
ウィーン。あ、開いた。
「な?」
どうよ?といった具合にこちらを振り向く仁さん
こっち見るんじゃねーよ
「ちなみにセンサーが別の位置に付いてたりするとこの方法が使えない場合がある。そんな時はドアの電源ボックスを探す。」
「あードアの電源自体を落とすんですか?」
「そう。電源ボックスは外にある場合と中にある場合があるけど。電源さえ落とせば手動でドア開けられるから」
「どこでそんな知識覚えてくるんですか」
「まぁプロだから」
そう言って仁さんは笑いながらマンション内へと入って行く。
俺はこの背中が好きだった。