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拾捌 嘗女

 嘗女の嘗津川なつかわフユミ。

 裕福な家庭に、端麗な容姿で生まれた。

 十三歳の成人祝いには、父から一千万円を超える高級アクセサリーを贈られ、交際を申し込まれた回数が二桁に達していた。

 誰もが羨む生だろう。

 

 しかし、嘗津川には恋人がいない。

 二桁の交際の申し込みを全て承諾するも、全て破局していた。

 何故か。

 嘗津川には、癖があった。

 目の前の物を嘗めまわしたくなる癖が。

 二人っきりになった相手の手を取り、その手を嘗める。

 指先を咥えて嘗め、手の甲を嘗め、ゆっくり腕を沿うように嘗める。

 

 肩を嘗める。

 首を嘗める。

 顔を嘗める。

 耳を嘗める。

 髪の毛を嘗める。

 頭皮を嘗める。

 

 下におりて、胸を嘗める。

 お腹を嘗める。

 腰を嘗める。

 お尻を嘗める。

 ××を嘗める。

 太ももを嘗める。

 膝を嘗める。

 脹脛を嘗める。

 足の甲を嘗める。

 足の指を嘗める。

 

 満足しなければ二週目へ。

 

 そんな嘗津川の行動を、最初は受け入れようとした元恋人たちも、二度目三度目に限界を迎え別れてしまうのだ。

 

「少しは我慢しないと、そんなんじゃ恋人できないわよ?」

 

「うぅ……」

 

 嘗津川は、アイスクリームを嘗めながら、母からの叱咤で涙目になる。

 既に齢十八歳。

 交際を申し込まれた回数は三桁に届いた。

 しかし、一週間以上続いた相手は、未だにいない。

 

「はあ……いくら嘗めても怒らない人、どこかにいないかなぁ……」

 

 嘗津川は、寂しそうにつぶやいた。

 

 

 

 二年後。

 

 都内の片隅に、嘗められ専門の夜の店が誕生した。

 この店は、嘗められることに興奮する性癖を持つ人々の間に口コミで広がり、一部マニアたちから熱狂的な支持を受けた。

 

「首を! 首をお願いします!」

 

「首だけですか? 私……鎖骨も嘗めたいな……」

 

「よろしくお願いしまああああああす!!」

 

 嘗津川は、今日も嘗め続けている。

 嘗めたいだけ嘗めさせてくれる理想の結婚相手が見つかる、その日まで。

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