表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/100

拾伍 山おらび

 世は空前の登山ブーム。

 雑誌の特集で、山ガールという新たな概念を作り出し、登山を過酷なものというイメージから気軽に楽しめるものというイメージに刷新し、新たな登山客の獲得に成功した。

 登山客の増加と共に、登山用品メーカーだけでなく、総合スポーツ用品メーカー、現場作業や工場作業向けの作業用品メーカーまで、数多のメーカーが登山用具販売に乗り出した。

 より可愛く、よりスタイリッシュな登山装備を売り出した。

 運動もできて、お洒落も楽しめる登山は、国民的な趣味へと駆けあがった。

 

 それに加えて、三密を避ける時勢への突入。

 山という解放空間は、三密が避けられるうえ、一人でも家族でも行ける場所として、すっかりお出かけ先の主流となった。

 

「きれーい!」

 

「ほんとだー!」

 

 山頂にたどり着いた二人の登山客が、山頂からの景色をうっとりと眺める。

 高い高い高層ビルがまるでミニチュアのように小さく見え、人も車も点が動いているのがかろうじて見えるくらいだ。

 普段見慣れている町も、高さを変えればこうまで変わるかと、息をのむ。

 

 そして後ろを見れば、ひたすらの山々。

 表表紙と裏表紙で雰囲気をがらりと変えるコミックのような面白さに、二人は感動を隠せない。

 

「やっほー!」

 

 高揚した気分は、ついついその言葉を口にさせる。

 

 やっほー。

 

 やっほー。

 

 やっほー。

 

 声は、山々にぶつかって跳ね返り、コダマとなって戻ってくる。

 ソロからオーケストラに変わる様は、突然場面の変わる劇のようで、二人を楽しませた。

 

「じゃあ、私も。ヤイヤーイ!」

 

 ヤイヤーイ。

 

 ヤイヤーイ。

 

 ヤイヤーイ。

 

 

 

 山おらびは、習性に従って叫び返した後、二人の前に現れて、その命を奪い去った。

 

 山頂に倒れた二人の死体の横には、『ヤイヤイと叫ばないでください』と書かれた看板が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ