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拾弐 獏

「あー、見て見てお母さん! 獏だよ獏ー!」

 

「あら本当」

 

「でも、なんだかふらふらしてる……」

 

 野良犬が町を歩くように。

 野良猫が町を歩くように。

 野良獏も町を歩く。

 上質な餌を求めて。

 上質な人間の夢を求めて。

 

 しかし、人間の夢を主食とする獏は、現代の日本において急激に数を減らし始め、絶滅危惧種に指定されている。

 日本人の慢性的な睡眠不足は、日本人が上質な夢を見る機会を減らし、結果として獏から上質な餌を奪ってしまった。

 お腹を鳴らせた獏が、道で眠る野良犬や野良猫の周りをうろうろし、その夢を食べている姿もたびたび目撃されている。

 

 かつて伝説の動物とさえ言われた獏は、道を歩く野良動物の一匹という扱いになってしまった。

 

 

 

 それが変わり始めたのは、メディアによって新たな研究結果が報道されてから。

 

「ニュースをお伝えします。××大学の研究で、獏に夢を食べられた人間は、夢を食べられなかった人間と比べて、レム睡眠とノンレム睡眠のリズムが整い、睡眠の質が三十パーセント向上するということがわかりました。今後政府は、日本人の睡眠の質を高める策として、獏のペット販売を推進するとともに、獏の適切な飼育方法に関する知識を普及していく方針です」

 

 オーダーメイド枕や高級マットレスによる睡眠環境の向上。

 スマートウォッチによる睡眠の質の分析。

 空調管理、アロマの香り、ヒーリング音楽など。

 日本人は慢性的な睡眠不足であるがゆえ、睡眠の質を向上させることについての興味関心は高い。

 獏は、そのための手段の一つとして、再び脚光を浴びた。

 

 獏のペット需要は大幅に高まり、犬、猫に続く、三番目にメジャーなペットとしてその地位を確立し始めた。

 

「この子を迎えてから、睡眠の質が劇的に変わったんです!」

 

「いやー、やっぱり時代は獏ですよね」

 

「餌が私の夢なので、餌代もかからなくてお財布にも優しくていいですね! でも、ちょっと夜更かしをしようとすると、早く寝てくれーって怒ってくるのは時々困りますね」

 

 街頭インタビューでも、好意的な意見が目立ったが。

 

「彼女が獏を飼い始めてから夜寝るのが早くなっちゃって……。夜の営みがとんとご無沙汰なんですよね……」

 

「獏を診てくれる動物病院がまだまだ少ないので、病気になったときに困りますね。車じゃないと行けない場所にあったり、料金も犬や猫よりはるかに高いんです……」

 

 一方で、否定的な意見もちらほらと現れている。

 

 この獏のペットブームが今後も続いていくのか、はたまた一過性のもので終わるのか。

 

 獏の未来は、分岐点を迎えている。

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