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壱 鬼

「そっちいったぞー!」

 

「おおー!」

 

 小学校の校庭に、元気な少年たちの声が響く。

 いつも一緒に遊んでいる十人組。

 一昨日は鬼ごっこ、昨日はドッヂボール、今日はサッカー。

 放課後はいつも、皆で遊んではしゃぎまわる。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 最終下校のチャイムが鳴るまで、ずっとずっとはしゃぎまわる。

 

「はー、そろそろ卒業だなぁ」

 

 帰り道、一人の少年が呟いた。

 

「なー」

 

「ついに中学生なんだなー」

 

「楽しみだなー」

 

 少年の呟きをきっかけに、次々と感想が口から出てくる。

 中学生。

 小学生から見れば、大人への一歩。

 少年たちは、学生服に身を包む未来の自分の姿を想像し、胸を躍らせる。

 

「ま、中学生になるって言っても、みんな同じ学校……あ」

 

 そして、一人のうかつな一言で感想は止まり、全員の視線が一人の少年へと集まる。

 十人組で、唯一私立の中学校への進学が決まっている少年へと。

 

「あ、いや、えーっと。ほ、ほら、大丈夫だって。そんな、遠くないし」

 

 うかつな一言を発した少年は、なんとかフォローしようとするが、おろおろとしてそれ以上の言葉を発することができなかった。

 代わりにリーダー格の少年がフォローするように、すっと前へ出て転校する少年の頭をぐりぐりと撫でた。

 

「大丈夫だ! 離れ離れになっても、俺たちが友達なのは変わらねえ!」

 

「……うん!」

 

 リーダー格の少年の明るい声と優しい瞳に、転校する少年は笑顔で答えた。

 

 翌日からは、さらに皆で遊んだ。

 最後の思い出を作ろうと、楽しい思い出をたくさん残そうと、なんでもした。

 なんでもしすぎて、最終下校のチャイムを無視して先生に怒られたが、それもいい思い出だ。

 

 そして迎えた卒業式。

 転校する少年は、笑顔で皆とお別れをした。

 皆で泣きながら、それでも笑いながら、固く握手して抱き合って、最後の別れを心に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

「さあ、まずは一人。お前の手でやるんだ」

 

「はい……父さん……」

 

 転校する少年は、ロープでぐるぐる巻きにされたリーダー格の少年に向かって、棍棒を振り上げていた。

 

「なんで……なんでなんだよ……」

 

 リーダー格の少年は、怒りと悲しみと恨みと絶望がごちゃ混ぜになった瞳で、転校する少年を見つめる。

 リーダー格の少年の目からは、涙があふれて出ていた。

 別れの時に流した涙とは、温度の違う涙。

 そしてそれは、転校する少年も同じ。

 涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、棍棒をリーダー格の少年の頭へと振り下ろした。

 

 ガン。

 ガン。

 ガン。

 

 何度も何度も振り下ろした。

 鈍い音が繰り返し響く。

 リーダー格の少年が息絶えるまで。

 

「う……うう……」

 

 その後、転校する少年は膝から崩れ落ち、その死体に泣きすがった。

 返事はない。

 

「よし、よくやった! それでこそ、俺の子だ」

 

 転校する少年の父――鬼は、泣きじゃくる我が子の頭をぐりぐりと撫でた。

 

「ねえ、あなた。まだ、この子には早かったんじゃないかい?」

 

「馬鹿野郎! もうこいつも十二歳。来年には成人だ。命について学ぶにはちょうどいいだろう。料理も、しっかり自分でやらせるんだぞ」

 

「……わかってるわよ」

 

 転校する少年は、泣きながらも全てをやり切った。

 リーダー格の少年だったものを切り刻み、時には叩いて潰し、時には塊のまま焼いて、見事な料理を一品仕上げた。

 仕上げた料理は即座に、食卓へと並べられた。

 食卓を囲うのは、転校する少年とその両親。

 

「いいか? 俺たちが当たり前に食べていた肉にも、心があり、人生があった。俺たちはその命を奪い、生きるためにいただいているんだ。その感謝を忘れるなよ」

 

「……はい」

 

「では、手を合わせて」

 

「「「いただきます」」」

 

 転校する少年――鬼の子は、命の重みを知り、また一つ大人になった。

 

 

 

 残る肉は、あと八個。

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