白い夢
三題噺もどき―ごじゅうさん。
お題:白地図・時計・空
「……ん…
目を開けると、真っ白な世界が飛び込んできた。
空も、建物も、羽ばたく鳥も、全てが白。
いつの間に持っていたのか、手に握られていた地図らしきものも、白。
―それを持つ自分の手も、見下ろした先に見えた足も白。
全てがしろ、白、シロ、白白白―。
―いや、一つだけ色があった。
目の前にある大きな建物。
時計塔といえばいいのか。大きな白く細長い箱の上に針の動く時計が浮いている。
それの、短針と長針だけが、黒く塗りつぶされていた。
カチ、カチ、カチ―と、動き続けていた。
その秒針を刻んでいた。
(夢か……)
そんなふうに思いながら、ふと、手元の地図に目をおとす。
そこには、白い文字で、目的地と道のりが書かれていた。
その目的地が何なのか、どんな場所なのかははっきりとしないが…目印だけが置かれていた。
白に白なんて、見えるわけが無いのだが、ここは夢の中だ。
常識なんてものは使い物にならない。
そんなもの、あってないようなものだろう。
(これが、ホントの白地図ってね…。)
なんて、皮肉めいたことを考えながら歩みを進める。
とりあえずは動いてみようということで…。
多分、時計の針にだけ色がついているというのは、タイムリミットなどがあるからだろう。
それを忘れるなということなのか。
:
どれくらい歩いたか分からないが、なんとなくで道順に沿い、歩いていた。
そして、あともう少しで目的地―という所で、突如、世界に音が溢れた。
どんな―というのも分からないほどに、ただ脳を、頭を、揺さぶるためだけの音。
「―っ!?」
咄嗟に耳を塞ぐ。
顔をあげ、時計を見ると、長針と短針が、重なろうとしていた。
あれが重なることで、何かがあるのは分かっているのに。
だからこそ、何とか動こう藻掻く―が、音の圧力におされ、動けない。
「―クソ、また、間に合わなかったっ!」
(―また?)
自分の呟きに疑問を覚える。
(またって―?)
(そう言えば、どうして僕はわざわざこんなことをしているんだ―? )
そう思った途端、意識を引き剥がされる。
――――リンッ!!!!
耳元で目覚ましが鳴り響く。
反射的にそれを止める。
「うるっせ……」
頭の中では、鐘の音が鳴り響いていた。