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 アメジストについていった先は見知らぬ裏通り、なんとなく裏街道と呼びたくなるような。狭くて少々怪しい感じのする通りだった。


 初めて来た場所のはずだけど、迷いなく進んでいく。

 まだ昼なのに薄暗く、どことなくすえたような臭いが漂っていた。


 狭い建物の前でアメジストが立ち止まる。よく見なければ扉だとわからない入口に手をかけた。

 建付けの悪そうな音を立てて扉を開けると、中はもっと暗かった。


「……おやぁ? 新顔じゃないか」


 奥から声がして、私は思わずアメジストの背中に隠れた。

 やっと少し暗さに目が慣れて、部屋の様子がうっすらと見えてくる。

 ごく普通の木のテーブルとイス。そこに小太りの男の人が座っていた。後ろの方にはさらに部屋があるらしく、狭い入口が見えた。

 扉を閉めるとおじさんが立ち上がり、壁に掛けられたランタンのようなものの明かりをつけるとまた椅子に戻る。でもまだ薄暗い。


「品物を見せろ。武器でも防具でもなんでもいい」


 その手の店だったのか。ぱっと見、部屋の中には武器も防具も見当たらないけど……。

 アメジストの言葉におじさん、この店の店主が座ったままこちらに身体を向けた。


「お客さん、金は持っているんだろうね? 冷やかしは困るよ。うちの魔動具はどれも一級品だからねぇ」

「金ならある。足りなければ引き出してからまた来てもいい。いいから早く出せ」


 アメジストが私のポケットから証印石を取り出して見せた。

 店主が頷いて、奥の部屋に引っ込む。少しすると大きめの木箱を抱えて帰ってきた。それをテーブルの上に置く。

 テーブルを挟んで店主の正面に行くと、木箱からいくつか出した物を並べ始めた。


「この短剣は切れ味を強化する術がかかってる。それとこっちは、地属性の付加された斧だ。切れ味は少し落ちる分、叩き潰すのに向いてる」

 店主が説明しながら並べる品物を、アメジストが時折手に取って眺める。


 何か欲しい物でもあるのかな。説明を聞く限り、魔術の使えるアメジストには必要なさそうに思えるけど。

 とはいえ謎の魔本を欲しがる奴だ。今までの感じから、魔動具にも興味はありそう。レアな掘り出し物とかを期待してるんだろうか。


 しばらくそんな時間が続き、一通り説明を終えた商品がテーブルに山積みになった。

「さ、どれにするんだい? 武器と防具両方買うとお得だよ」

 そう言って店主がにやぁと笑う。人を見た目で判断するのはよくないけど、なんだか胡散臭い笑顔なんだよな。


 アメジストが魔動具をひとつ手に取り、しげしげと眺め始めた。

 確か風の力で扱いやすくなっていて、敵を攻撃する術も出せるブーメランだ。


「1400カラトだ。防具も買うならもう少しまけるよ」

「そうだな……せめて魔力の補充ができれば許せるかもしれないな」


 ……ん? 何か今の言い方、魔力の補充ができないかのような。

 魔動具って、あの風車みたいな装置が作った魔力で動く道具だよね。それができないなら不良品じゃないの?

 アメジストの言葉に、店主は少し驚いた顔をした後、またあの胡散臭い笑顔に戻った。


「なぁに言ってんだ。魔力の補充ができなきゃ魔動具とは呼ばないだろ」

 そう言って部屋の隅を指差した。薄暗くて気付かなかったけど、自動販売機くらいの大きさの機械が置いてある。

 魔力補充装置らしい。……でもこんなの、傭兵ギルドに置いてあったかな?


 アメジストがその装置の前に立つと、店主が別の魔動具を持っていく。

「それは満杯だから、こっちの空のを使ってみな」

 魔動具を手渡し、装置の使い方を教えている。アメジストが渡された方を装置に近付けると、魔動具がウィーンと音を立てた。しばらくして音が止む。

 アメジストがボタンを押すと、棒のような魔動具の先端に火が付き、また押すと消えた。店主が満面の笑みを向ける。


「これでわかっただろ? うちは立派な魔動具店ですよ」

「ああ、わかった。粗悪なまがい物だとな」


 店主が笑顔のまま固まる。

 私の隣に戻ってくると、アメジストが渡されたまがい物?をぽいっと机の上に投げ捨てた。


「ちょっとお客さん、おかしな言いがかりは……」

「使用回数は十回程度。その後は壊れたとでも言い訳するのか? 補充というならせめて、装置にもっと魔力を漂わせておいたらどうだ。まぁそれすら見えないから騙されるんだろうがな」

「……!?」

 店主があからさまに怯んだ顔をする。私は思わず首を傾げた。


「たった十回で終わり? ずっと補充してあげればニセモノだってバレなさそうなのに」

「違う。今のは魔力を補充したのではなく、術具に設定された制限を解いただけだ。はじめに込めた魔術を十回分程度に分割して鍵をかけ、それを一つずつ解除する仕組みだ」

 へえー。それはセコいようなむしろ手が込んでいるような。

 でもなんでわざわざそんな面倒な仕組みを作ったんだろう? 疑問が顔に出ていたのか、アメジストが続ける。


「魔動ギルドとやらの技術は高く、管理も厳重だ。瘴気機関で変換した魔力は、正規品以外には使用できないだろうな。あらゆる意味で、粗悪品しか作れないような魔術士には逆立ちしても盗めない技術だ」


 ……ああ、あなたも試してましたもんね、盗魔力。(確信)

 それにしてもここまでアメジストが褒めるなんて、魔動ギルドってすごい組織なんだな。


「ふ、ふざけたことばかり言いやがって! 帰れ! 二度と来るんじゃねぇ!」

 あ、おじさんキレた。でも悪事を認める気はなさそうだ。

 アメジストが振り向くと、店主が「ひっ」と息を飲んだ。あの氷点下の瞳で見下ろされているんだろう。


「黙ってて欲しければ情報をよこせ。四日前、赤髪に青い目の子供が来ただろう。そいつは何を買った?」

 はじめて聞く話に驚いて隣を見上げた。ラズがここに来たの? ってなんで知ってるんだ?

「ふん! なんでそんなこと教えにゃならん。さっさと帰……」


 パキン。パラパラ……。


 軽い金属音が部屋に響く。見ると、アメジストがさっきのブーメランを解体していた。

 バナナ形の本体部分が縦半分に割れて、中から出て来たカプセルみたいな部品を片手で握りしめる。拳のまわりに一瞬、ゆらりと炎のようなものが見えた。

 それを本体に入れるとすぐに元通りの姿に戻す。だけど今度はブーメラン全体が炎を纏っていた。


 アメジストが手を離すと、それが勢いよく私達の周囲をブオンブオン回りだした。部屋が少しだけ明るくなり、暖かくなる。

 炎のブーメランが、目を白黒させている店主の周囲だけをしつこく回り始めた。


「火属性を追加し、風の方も足しておいた。回数は百回分だ。情報料としては十分だろう」

 なんか勝手に魔改造してる。


「ひっ、ひいー! わかった、何でも話す! だから止めて、助けてえぇ!!」

 逃げても逃げても追ってきて、じわじわと回る範囲を狭めてくるブーメランにまとわりつかれながら、店主が半泣きで叫んだ。


 ブーメランが止まり、ラズが購入した商品を教わるやいなや、私達は店を追い出された。


「すごいね、アメジスト。優秀な警察犬みたい」

「…………」


 入る前から違法な物を売っている店だと気付いていたようなので、賛辞を贈る。イメージは麻薬探知犬だ。

 本気で感心して言ったんだけど、無視された。この世界には警察犬っていないのかな。


「アメジストさん。コハルさん」


 裏通りから戻ったとたん、声をかけられた。

 振り向くと真剣な表情のトルムがいる。……やけにタイミングがいい。尾行されてたのかな、もしかして。

 続けた言葉はおおむね予想通りのものだった。


「僕の依頼を受けていただけませんか」


 アメジストの返事を待たずに頷いた。だって私の感覚では、とっくに作戦は始まってる。


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