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『気持ちは嬉しいけど……。“正直貰って困ったプレゼント”は?』

『魂。』


 ――たとえばそんな質問に、そんな珍回答をする日がいつか訪れるのだろうか?


『鞄にでも入れておけ。なくすなよ』


 とか無造作に、ぽいっと手渡してきそう。


 魂ってどうやって保管すればいいの? 扱いは貴重品ですか??

 なんか専用の金庫とか必要だったらどうしよう……。


 あり得ないことだけど。もしも万が一、本当に魂を捧げられてしまったらどう対応すればいいのか。魔王と一緒にいると悩むネタですら異次元だ。



「ヂュヂュン!?」

「ヂュピッ!?」


 少し離れた木陰で休憩していたヂョルヂュとヂョセフィーヌが、突然悲鳴を上げた。

 二匹目がけていきなり火の玉が飛んできたのだ。それが見えない壁に弾かれて消える。アメジストの障壁だ。


「なにっ!? めちゃくちゃ弱そうなくせに、おれの《不麗無ふれいむ》を弾いた!?」


 私よりも2、3歳くらい年下だろうか。少し先の茂みからとび出してきた少年が、驚きに三白眼のつり目を見開いた。

 それから首だけ動かし、別の木陰にいた私達を睨みつけてくる。 


「魔物を連れた怪しい奴らめ……っていつまでイチャイチャしてやがる、このクソカップルがっ!!」


 だ、誰がクソカップルだ!!?


 ちょうど私はお昼を食べ終え、アメジストは書庫から戻ってきたところだった。

 続きが気になっていた小説を出して、片手に魔本、片手にサンドイッチ(アメジスト作。)を装備して読みふける。

 ふと気付くと、またじーっと凝視されていた。


 片手が動き、私の頬に付いていたパンのかけらを摘まむ。食事中に本を読むのはよくないよね。

 その手が無表情の口元へと運ばれるのをぼんやり眺め――我に返った私は、腕にしがみついて阻止した。

 させるかよぉ!! そういう関係じゃないと許されないやつーー!!!


 何が面白いのか。それをわざと食べるフリをしたり、奪おうとする私を避けたりして、完全に遊ばれていたところだった。

 「カップル……?」と不思議そうに呟いていたアメジストがようやく私を降ろして立ち上がり、少年を眺めるとつまらなそうに言う。


「見習いか。火属性しか持っていないな……。お前に用はない、失せろ」


 少年の服は方術士がよく着ているものだった。ただしかなり着崩している。

 今私達がいるのは方術山の外れの方、その山を少し上ったあたりだ。

 南側には街のような場所があったけど、この北側にはない。代わりにいくつか修行場があると聞いた。この子もここで修行する方術士なのだろう、魔王の見立てでは見習いらしいけど。


「ちょっと、その態度はまずいって。この子には無理でも、適任者を紹介してもらわなきゃいけないんだから。えーと私達、怪しいけど怪しい者ではないです。実は知り合いが呪われちゃって。方術士さんに助けてもらいたくて来たんだ」

「呪いだぁ~?」


 胡散臭そうに私達をじろじろ眺め回す三白眼少年。

 ヂョル、ヂョセ……どちらかが手紙をくわえ、二匹でぴょこぴょこ跳ねながらこちらに避難してきた。アメジストの後方まで来ると一息つく。

 この子達の性格は実に穏やか、他のスズメ魔物と同じなのは食欲くらいだ。


 それを見ていた少年がフン、と鼻を鳴らし、腕を組んでふんぞり返る。


「弱い者いじめはシュミじゃねぇ。お師匠にも叱られちまうしな。……あんたらを信用したわけじゃねーが。このカルシン様が、話くらいは聞いてやんよ」



   ◇◇◇



 先導するカルシンに大まかな事情を語り終えると。視界に大量の白いけむりが映った。


 大小さまざまな岩が転がる斜面を川が流れていく。

 その先を目で辿ると、青白く濁った泉がもうもうと湯気を立ち昇らせていた。


「おお~! 温泉~!」

「なんかエロいことおっぱじめたら叩き出すからな、クソカップル」

「だから誤解だって言ってるでしょうが!!」

「エロ……?」


 そういう関係じゃないと何度も言ったのに、この口悪お年頃少年め……!

 訂正を無視し、川の傍で立ち止まると私達に向き直る。


「もしここの問題を解決できたら、お師匠に会わせてやってもいいぜ」

「問題って?」


 お師匠様は光属性の使い手だという。アメジストいわく術との相性なんかもあるらしいけど、適任者なら有り難い。

 ちなみにマガタの知り合いだと言ったら全く信じてもらえなかった。いくら魔物連れの怪しいコンビだからって……。


 ふんぞり返るカルシンに聞き返すと、しゃがんで川に指をつける。

 ぱちっ、と音を立て、指先で小さな火花が散った。


「こんな風に、触るとなぜか発火する。水温なんかは別段変わってないんだけどな。おれは火と相性いいからこの程度じゃ火傷もしねぇけど、さすがに全身つかる気にはならねー」


 数カ月ほど前から時折こうした現象が起きはじめ、日に日に悪化していき、ここの源泉を引いている宿も休業を余儀なくされているとか。

 ……温泉旅館っ!? それはぜひ泊まってみたい。

 そのためにもどことなく硫黄、じゃなくて異変のにおいがするこの問題を解決しなければ。(いやフローラの呪いを治すのが先だけど……!)


 私には近付くなと念を押し(過保護)、しばらく川の周囲を調べていたアメジストが振り向いて言う。


「このあたりの魔素に異常が起きているようだな」

「ま、まそ……?」


 その診断にカルシンが首を傾げる。初めて聞いたって反応だ。

「魔力の素と書いて、魔素。精霊は人と違って、魔素を使って魔力を作るんだよ」

 最近習ったばかりのにわか知識を披露する。カルシンの首の捻り具合が増した。


「おそらく水源の方に原因があるのだろうが……。コハル」

 戻って来ると、私の頭に片手をかざす。

「転移を複写した。俺が戻るまでここで修練していろ。万が一に備え、今日中に習得するように」

 えぇ……無理ぃ……。


 ついでに障壁も張り直し、無理ですと目で訴える私の髪をぐしゃぐしゃかき回してから、一人で山道を進んでいった。


「嘘だろ。まじで解決できるってのか? ……あ、待てよっ」


 隣でカルシンが呆然と呟き、慌ててアメジストの後を追う。

 一人取り残された私は、スパルタ教師の無茶な課題に大きくため息を吐いた。



 ほんのり硫黄のかおりが漂う中、しぶしぶ転移の特訓(イメトレ)に励む。


 気分転換に川で足湯とかしたい。異常さえ起きてなければ、きっとほどよい温度で気持ちよさそうなのにな~。


 やや日が傾いてきた頃。それまで岩の上で私を応援したり(たぶん。)のんびり昼寝をしたりしていた二匹が、ピタリと動きを止めた。

 まんまるおめめに怪しげな光を灯らせ、魔物じみた舌なめずりを始める。


「「ヂュル……ヂュルル……」」


 ……おや? スズメ魔物の様子が……?

 ってこれ、モカデナイを狙ってた時のやつだ。生息域じゃないのに、まさか近くに虫系魔物がいるの!?

 障壁があるとはいえ。なんでアメジストのいない時に来るんだよ~!?


 お、落ち着け。こういう時はなにか数を数えるといいって話をどこかで……、いや落ち着ける気がしない。

 今こそハルポートを成功させて、華麗に脱出だ!!


 私は鞄から楽園ペンを取り出し、全力で集中した。

 あの独特な視界がブレる感じ、ついでに両手を広げたアメジストの姿を脳内で強くイメージする。

 その間もヂョルヂュとヂョセフィーヌの魔物化は止まらない。(元々魔物だけど。)

 ついに二匹が翼を広げ、岩を蹴ると飛び上がった。


「「ヂュルっ……――ピギャアアアァ!!!」」


 わ~! 転移様、はやくはやく!

 一瞬で逃げるために一瞬でお越しください!!


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