そして、青龍国へ
青龍国へ入り、シウハが依頼を受ける話です。
黄龍国を通過しながら一ヶ月が過ぎ、青龍国の街に向かう『武商旅団』は黄龍国の街である塞翁という街に補給も兼ねて立ち寄る事となった。
精霊との出会いの後でシウハに炎龍国の無舞に立ち寄りたいと言うと「お前達の都合に合わせるつもりは無いが、たまたま無舞には立ち寄る予定が有る」と言われた。但し、「青龍国での商売が終わってからだから半年より後になるだろう」と言われた……まあ、それは仕方の無い話だ。
精霊とのあの日以来タヒドは精霊から貰った『精霊のローブ』をいつも着ている。かなりのお気に入りの様だ……まあ、ソコソコの防御力も有るから、何か突然起こった時の保険と思えば悪くない。
そして俺はあの日以来『ミスリルの芽の鉢』に毎日1個魔石を喰わせて?ミスリル銀を2本手に入れていた。この調子で増やしていく予定だ。
ここ塞翁は小さな街だが、かなり活気がある街である。商人達の目当てはこの塞翁で売られる翁絹と呼ばれる反物である。翁蟲と言う満月の晩にだけ繭を作って蛹になると言う、
不思議な生態をした蟲がこの地にいるのだと言う。その繭で紡いだ糸は魔力を帯びており、反物にすると虫食いされないし傷が付きにくいと言う。
高値で取引されるので大商いになる事もあるらしい。今回は値段が高い時季らしくコレでも商人が少ないとタヒドが教えてくれた。
俺は一反だけ買う事にした。恐らくはここには戻って来ないし、買える時に買わないとと思ったからである。
「ココで一番良い物を見せて下さいな」
俺は大きな店ではなく、店は小さいがかなりの老舗という店に立ち寄った。店主は最初こそ訝しげに俺を見ていたが、俺が色々と見せて貰ってる内に何かを感じたのか、それからは丁寧に色々と教えてくれた。そこで俺はこの店主が一番良い物を買おうと考えたのである。
すると店主は奥の方から木の箱に入った物を持って来た。そして箱を開けると魔力が滲み出る様に反物から出てくる。今までの反物とは明らかにレベルが違った。
「買います」
すると店主は「しばらくお待ち下さい」と更に小さな箱を持って来た。
「縫製を頼む時にこの糸をお使い下され。この糸はこの反物と同じ糸じゃからのう」
「ありがとうございます!」
俺は代金に少し色をつけた。店主は断ったが俺が強引に手渡して来た。タヒドは俺のそんな面を見て驚いていた様だが、今の俺は商人としてでは無く個人の客として来てる。だから良い物は正当に評価するのは当然なのである。だから値引き交渉はしない。そもそも値引き交渉が必要な値段を付けてるような店で買い物はしない。
「コレの縫製は良い所に頼まなきゃだなあ。本当はこの街の職人が良いのだろうけど時間無いからね」
「しかし、ラダルの旦那も太っ腹な買い方しやすね!」
「良い物は正当な値段で買うべき、が俺の信条だから」
「安い方が良いじゃなくてでやすか?」
「商売の為に買うのと個人で買うのとは別に考えてるよ 」
「アッシには分からねぇです……」
「安く買う、それも買い方のひとつさ。どっちが良い悪いじゃ無いよ」
俺の考えはどうしても前世に引っ張られるからそう考えてしまうのかもね。
それから2日後に塞翁を出発した。それからの道のりは魔物が出るくらいで盗賊などは出て来なかった。そして青龍国の国境の街に到着した。名は『夏侯』と言う。
『夏侯』に入る際に少し待たされる。やり合ってる黄龍国から入って来るのだから当然である。
「待たせてすまんなシウハ。コレでも早くしてる方なのだがな……」
「いいえ。敵国から来たのですから……それにしても厳しいですね」
「一週間ほど前に大量の武器を隠し持って黄龍国に出ようとした奴がおってな、そのおかげでこのザマよ。余計な真似をしおって……」
「なるほど……それではその武器は?」
「うむ、シウハに頼もうと思っていたのはその事よ。その武器はお前に全て渡してもいい。その代わりだが……」
「物資を最前線に運べ……ですか?」
「ほう……流石はシウハだ、話が早い」
「まだ、お受けするとは言っておりませんよ」
「ん?受けないのか?お前らしくも無い……」
「もう少し掘り下げたお話をお聞きしたいので……」
「……やはり食えぬ奴よ。もう事情は理解しておるのだろう?恐らくは概ねお前の考え通りだ。それで……どうする?」
「武器以外に少々……」
シウハはその指揮官らしき男に耳打ちする。するとその男は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……この女狐め……分かった分かった!そっちは用意させて置く!但し、深龍に置いておくから取りに来るのだぞ!分かったな!?」
「フフフ……毎度ありがとうございます」
「では、直ぐに物資を搬入して急ぎ出立するのだ!」
「かしこまりました、将軍」
えっ……この人将軍だったの???
この国の将軍と直に話してやり込めるとは……どんだけスゲェのさ??驚きだね!すると将軍は俺とアシュのおっちゃんを見て……
「ん?この二人は見た事が無いな……新しく雇ったのか?」
「ええ、ウチの新人です。何でも山脈の向こう側からやって来たらしいですよ」
「はあ?何を何を言うかと思えば……馬鹿な事を……」
「フフフ……でも腕は確かですからね。もしかすると本当かも知れませんよ」
「全く……お前も酔狂な奴だな……お前達も良くまあそんな事を売り文句にしたものだ……」
「もう、何言っても信じて貰えないみたいなんでどうでもいいですけどね!」
「事実は変わらん。向こう側から来た事に嘘は無い。信じる信じないはお前達が決めれば良い」
「ほう、ならば証拠を見せてみよ」
「コイツは向こう側のギルド証だよ。他に見せてもコレで信じなきゃ同じだからね」
「此方の冒険者ギルドとは違うな……」
すると奥にいた男がいきなり声を上げる……何だ?
「将軍……これは深龍の冒険者ギルドに所蔵されてる昔の冒険者ギルド証にそっくりです!」
「何だと?どういう事だ??」
「そのギルド証はその昔、山脈の向こう側と繋がりがあった頃の物と言われておりました!」
「まさか……そんな馬鹿な事が……それもコイツらが何処かで手に入れたのやも知れぬぞ?」
「それにしては新し過ぎます……所蔵されてる品は100年以上も前の物ですぞ!」
「もう良いって……早く行かないと駄目なんでしょ?」
「しかし……き、君たちはそれで良いのか?」
「う〜ん……何年後かに向こう側から人がやって来たら、その時にあ〜アイツら本物だったんだで良いんじゃない?どうせその時には俺達はこの大陸にはいないからさ」
「だが、こちらに来るにはアマモの試練を受けねばならぬからな、そう簡単には来れまい」
「あ〜そうだね。ブリジッタさんとロザリアがこちらに来る事は考えにくいかあ。ウロボロスの骨を発掘してる真っ最中だしねぇ」
「うむ、理の護符が有ればこちらに来るのは可能なのだろうが……」
「理の護符??」
「アマモの試練を受けずに通るのならば、それを探して通るしか無いと聞いている。向こう側に行きたくば探すといい。場所は知らんがこちら側の何処かにあるらしい」
「理の護符……まさか、あんな物で……」
「おや?知ってるの?何でもそれで昔の商人は向こう側と繋がって居たらしいよ。コレは俺の勘だけど冒険者や兵士の類いはアマモの試練を受けないと駄目じゃないかと思うよ。理の護符を使えるのは戦えない商人とかだけだとね。さあ、シウハ、はよ行こ!」
そう!俺達はこんな所で立ち止まってる訳には行かんのだ!早く炎龍国へ行かなくては!
するとシウハが俺の方にやって来て耳打ちする。
「ウロボロスの骨とか言ってたね?その件後で詳しく聞かせてもらうよ……ココではダメだ」
「それなら早く行こうよ。ここに居てもしょうがないでしょ?」
シウハは将軍の所に戻り挨拶をした後、部屋を出た。そして俺達を伴ってある建物に入った。
「ウロボロスの話は本当かい?」
俺は広間に移動させてから魔導鞄の中に入れてあるウロボロスの背骨を出して見せた。相変わらずデカいよ!!
「こ、コイツは……」
シウハがザルスと絶句している。
まあ価値のある物だとは聞いていたが此奴らが絶句するほどの物とはね……。
「コレは洞窟の中にいた奴で俺達と向こう側の冒険者の二人で倒した奴の骨だよ。多分、向こう側ではこの骨の発掘を国家事業で行ってるはずだから商売にしようとしても無駄じゃね?」
「お前はコレがどれほどの価値を持つのか理解しているのか?」
「う〜ん……正直知らん。ただ、この骨をこちら側のどこかに居るドワーフに渡せば何かを作ってくれると聞いてるよ」
「ドワーフに?……確かに奴等なら……」
「ドワーフってどこかに居るの?」
《ドワーフの居場所なら炎龍国なの》
突然出て来た『眼』にシウハが驚いている。俺はシウハに『眼』の紹介をしてから『眼』に詳しい話しを聞いた。
《炎龍国にある霧の郷がドワーフの住処なの》
「霧の郷……確かにドワーフの伝説のある地域だ……」
ザルスは聞いた事がある様だ。
「ソイツは面白いね!霧の郷ならお前達が行きたがっていた無舞の近くだ。ココでの仕事を早く済ませてソコに行くとしようじゃないか!」
「随分と乗り気になったね。まあこの骨にそれほどの価値がある訳だ……」
「当たり前だよ!その骨の欠片だけでも遊んで暮らせるんだからね!本当ならその骨を取りに洞窟へ向かいたいくらいさ!」
「まあ、それは諦めた方が良いよ。向こうは枢機卿の妹と娘が報告したはずだから。もうとっくに発掘作業は始まってるよ」
「ん?枢機卿の妹って、ブリジッタの事か??」
「あ、そうか……アシュのおっちゃんは知らなかったんだね。あの二人は腹違いの兄妹なんだってさ。ブリジッタさんが勝手に自白してたよ……だからロザリアは姪っ子って事だね」
「そうだったのか……なるほどそれでロザリアの教育係をな……」
「その二人ってのがお前達の仲間だった奴らかい?」
「そうだよ。その二人と俺達はアマモの理の試練に打ち勝ったんだ」
それを聞いたシウハとザルスは何かアイコンタクトをしてた。まあ、俺達の事を話してた事があったんだろうよ。とりあえず今回の件ともう一つ商売を終えたら炎龍国に向かう事となった。
お読み頂きありがとうございます




