『眼』、精霊にまた捕まる
『眼』が再び精霊に捕まる話です。
青龍国への旅の途中、食事時になると俺達の所にタヒドが飯を食いに来る様になった。どうやらパンの箱のパンが気に入ったらしい。
「このパンは何度食っても全然飽きやせんぜ!!」
「まあ、変なパン屋のパンより美味いからな。つかそれ有料だからな。後でまとめて金貰うから」
「ええ!!!そんな事言わねぇでおくんなせぇよ!」
「カッカッカ!まあコレでもかけてやるから頑張って稼げよ!」
と俺は甘露の雫をパンにかけてやる。タヒドはこの組み合わせが好きなのだ。
「ラダル、その甘露の雫……壺が増えてないか?」
「ああ、この間露店で空になった壺を見つけてね、甘露雫のを入れたら復活したんだよ。おかげで二つ目を手に入れる事になったんだ」
「ほう……という事はラダルが遭遇した様な精霊がこっちにも居るって事か?」
「あ〜多分そうだと思う。俺の器を何とか出来る人の居場所をこっちの精霊なら知ってるって言ってたからね」
「何か普通に精霊とか話しに出てきてやすね……」
「キラに出会ったのも精霊絡みだったからな。キラと戦ったからなぁ〜」
「ニャッ!」
「ひっ……き、キラ様と戦ったんで?」
タヒドは相変わらずキラが苦手でキラ様とか呼んでやがる。
「そだよ。キラに勝ったから俺の眷属になったんだ」
「ラダル……」
「け、眷属??」
「あ〜テイムなテイム!!」
「そうですよね!テイムですよね!」
思いっきり事実を口にしてしまった……まあ、今更だけどな。
「そういやぁ……精霊の話を聞いた事があったな……何処だったかな……」
「マジか?思い出してよ!思い出さないとパンの値段倍にするよ!」
「ちょ、ちょっと!有料の話まだ言うんですかい??勘弁して下せェよ!!」
「早く思い出してよ!」
タヒドは一生懸命思い出そうとしてるが中々思い出せない様だ。頭を抱えたタヒドがふと先の山を見た瞬間に「あっ……」と言った。
「あの山の麓でさぁ!」
俺はすぐさま『眼』に調べさせる。すると精霊の結界を見つけたと言う。
《間違いなく厄介そうなのがいるの》
「お前、精霊絡みになると毒舌だよな……」
《ろくでもない奴らだから仕方が無いの》
「そうか?前の精霊だって良い奴だったじゃねぇか。お前の偏見だろ?」
《アレは特別なの。普通はロクなのが居ないの》
『……先程から我の縄張りで失礼な物言いをしてくれてるな!』
「うおおおおぉいい!!何でまた結界内に入ってんだよ!」
《……たまたまなの》
『大変無礼な話で捨て置けぬ故この者を預かるとする。助けたくば此方に来ると良い』
「……この流れも全く一緒じゃねーか!!」
《コイツらは芸がないの》
『コイツら……ぶ、無礼な!』
「もういい加減に黙れ!火に油を注いでどーすんだよ!」
《主は上手いこと言うの》
『……とにかくこ奴の身は預かった。引取りに来るが良い』
「……もうそっちで好きにしてくれる?」
《主が見放したの》
『なっ、何て奴じゃ……』
「はいはい、行けばいいんでしょ行けば……」
《主は機嫌が悪いの》
お前らのコントのせいなんですけどね!ったく毎度毎度仕方のねぇ奴らだな!!
「ラ、ラダルの旦那……い、今の声って?」
あ〜ココにもう一人、全く事情が分かってねぇ奴がいたー!
俺が精霊の件と『眼』の件を教えると一緒に付いてくると言い出した。
「精霊なんて拝める事は滅多に有りやせんからね!!」
「アシュのおっちゃんも来る?」
「そうだな……オレも見た事が無いから行くとしよう」
「えー!アシュのおっちゃんも見た事ないの?」
「精霊を見れるヤツの方が少ないと思うぞ……」
へぇ〜そんなものかね?そんなにありがたいものなのかね?
俺達は『眼』のとっ捕まった場所まで向かう。
すると前と同じ様に結界を張っている。
「はよ結界を解いて」
『お、おう……』
そのまま進む。
「そろそろ魔物が居るはずだから気を付けて」
すると案の定蜘蛛の魔物が現れたが、巨大化したキラに直ぐにぶっ倒されて食べられていた。
『なっ!我の蜘蛛が……』
「ハイハイ……じゃあ『眼』を返して」
『あっ……はい……』
《えらい目にあったの》
「お前は自業自得でしょ?大体2回も同じ事するかね?バカなの?」
《主は毒舌なの》
「君には負けますけどね!!」
『ちょ、ちょっと……』
「もう分かったからいい加減に出てきてくんない?」
すると精霊が出て来た。今回は男性の姿だね。
「で、精霊さん。今回はどんな落とし前付けてくれるの?前の精霊さんは三つも精霊アイテムくれたよ!」
『イヤイヤ……そんなに簡単に……』
俺は『溶岩弾』を精霊のすぐ横を掠めて打ち出す。
「次は当てるから」
『ちょ、ちょっと待て!!』
「はーやーくーしーてー」
精霊は俺にローブの様な物を差し出す。
「おい、鑑定はよ!!」
《主は人使いが荒いの……》
「お前は人じゃねーし!!」
『精霊のローブ』
クラス:C 属性:精霊
防御力と魔法防御が少しだけ上がるローブ。
あまり質のいいものでは無い。
「精霊さーん、俺をナメてんのか?ああ!!??」
『ひぃ!!』
俺の貰った奴は全て役に立つ物だったが、この精霊はクズアイテムを出して来やがった。明らかに俺を舐め腐ってんな!ココでバンパイアロードの力を見せたろか!!
『す、済まなかったあああ!!!』
精霊は土下座をして謝っていた……この世界の精霊は土下座がブームなのか?
精霊が出して来たのは意外な物だった。
「鉢?……土は入って……砂か?」
小さい盆栽の鉢みたいだ。砂は銀色なのだが砂鉄のようにくっついて落ちてこない。不思議だ。
『ミスリルの芽の鉢』
クラス:A 属性:精霊
毎日1個の魔石を鉢に与え続けると、一週間に一度、親指程度の大きさのミスリル銀が生えて来る鉢。ミスリル銀の純度は自然界では存在しない100%になる。
「おお!凄いの出して来たな!こういうのだよ欲しいのはさ!」
「こ、コイツは凄ェ!大儲けの予感しかしねぇですせ!」
『ど、どうじゃ?驚いたであろう!』
「うん、驚いた。まだあるの?」
『は?』
「は?じゃなくて、まだあるんですよね?向こう側の湖の精霊さんは気前が良かったからなぁ……まさか、向こうの精霊さんより出さないとか無いですよね?」
『も、もちろん!向こうの精霊には負けぬぞ!』
そう言って出して来たのは指輪である。綺麗な七色の精霊石が嵌め込まれた指輪である。
『虹の加護の指輪』
クラス:A 属性:精霊
虹の精霊石の加護により、全ての属性の力が底上げされる指輪。属性が多ければ多いほど底上げされる。邪気を払い全ての状態異常に耐性を持つ。
「おお!!これまたスゲェ!!」
『コレはお主が持つと良いであろう。きっと役に立つはずじゃ』
と、精霊は指輪をアシュのおっちゃんに手渡した。確かにアシュのおっちゃんは属性多いしね!
「コレは……では遠慮なく頂戴する。感謝する」
『謙虚な所が他の者とは違って実に良いのう』
ああ、そうですか。がめつくて済みませんね……。
さて、そろそろ本題を聞く事にしようか。
「湖の精霊に俺の器を何とかしてくれる人物が此方に居ると聞いたのだけど、詳しくは此方にいる精霊に聞けと言われたんだ。何か知らない?」
『器な……うむ、確かに歪で薄い器だのう。恐らくはあの者であれば何とかなるかも知れんな』
「あの者??」
『海を越えてやって来た男でな、名前はレディスン=ホークランドと言う魔導師じゃ。今は炎龍国の“無舞”の辺りに居るはずじゃ。その者を頼ると良かろう。同郷の者なら良くしてくれるじゃろうて』
「同郷??って事はその人も転移の罠で来た人なの??」
『いや、かの者は海を越えてやって来た。お前達とは違うぞ』
マジか!なら海を越えて行く方法も知ってるじゃないか!こりゃあスゲェ情報だ!!
「ありがとう!助かったよ!」
『うむ、その者に会う事はお主にとって必然であるからな。その者がお主の師として与える物が多かろう』
「精霊殿、色々と感謝する」
『お主の懸念もその者に話すと良かろう。解決策を授けてくれるやもしれん』
「……心得た。重ねて感謝する」
《役に立つ精霊で良かったの》
『貴様は呪われろ』
《やっぱりろくでもない奴なの》
やっぱり『眼』と精霊は相性が悪い様だな……もうここまで来るとコントだろ。
「精霊様ぁ!アッシにも何か下せェよ!!」
『お前はそのローブで充分じゃ』
そのまま精霊は消えてしまった。タヒドはローブを貰って小躍りしてる。まあ、良かったな……。
そのまま俺達は『武商旅団』の居る場所へと戻って行った。
お読み頂きありがとうございます。、




