鴻蘭での出来事
鴻蘭での商売やザルスとの話などの物語です。
鴻蘭では持っている鋼の武具を全部売りさばく事にした。そして塩を持っている中から砦より持って来た分全部と、ギスダルの聖都で仕入れた物を半分だけを売る。
コレで魔導袋にかなりの余裕が出来る。
俺はタヒドと一芝居打ちながら売り捌いて行く。
「どうだ?中々の物だろ?」
「こりゃあ良い鋼の剣だ!よし、銀4で買おう!!」
「銀4!!ありがたいねぇ~」
そして、その後ろから俺が普通の格好をして近付いて声を掛ける。
「お兄さん、俺にちょっと見せてもらえる?」
「坊や、商売の邪魔しないでくれるか?」
「ああ、ウチの父が向こうで交渉して居るのだけどその剣がかなり良い物に見えたので……」
「ほれ、見てみ!」
俺は舐めるように見回してタヒドに耳打ちする。
「ひっ!4.8!!本当に??」
「このくらいの価値はあるよ!素晴らしい剣だね!」
「旦那ァ……すいませんコッチのお坊っちゃんが4.8だって言うので……」
「ち、ちょっと待ってくれ!ウチは5出すから!」
このやり方で銀6まで引き上げて売ってやった。他の槍や盾や鎧等もコレでガッチリ売ってやった。金貨50枚を超える売り上げとなる。
そして、もっと凄かったのは塩である。
俺が盗賊から巻き上げた樽2つの塩でさえ1樽で金貨115枚の値で捌けたのに、俺が持って来た質の良い塩は倍の値段で売れた。それを35樽も捌いたので金貨7875枚
……白金貨7枚と金貨875枚で売れた。つまり塩だけで白金貨8枚と金貨100枚になった。武器よりも全然高く売れた事になる……塩恐るべし。
「ひゃあ!!凄いおお商いになりやしたね!!」
「武器より塩がこんなに売れるとは……向こう側でもっと仕入れてくれば良かったよ……」
「何か本当にラダルの旦那が向こう側から来た気がしやすね!!」
「本当だから!」
「それにしてもコレだけ儲けたら遊んで暮らせますぜ」
「まだまだ、儲けないと。次の場所では何を売ろうかなぁ~」
「まだ行先が決まっちゃいやせんからね……」
「まあ、最悪ココで買わなくてもポーションが唸るほど有るしなぁ」
「一生付いて行きやすぜ!ラダルの旦那!!」
「あのなー、旦那旦那って、俺はまだ12歳の可愛い盛りだからね!」
そう、俺は12歳なんだぜ……ギスダルの途中で誕生日を迎えてたのをすっかり忘れてたんだぜ……。
「またまた!冗談キツいッスね!!」
「冗談かと思うだろうが本当の事だぞ。ラダルはこう見えても12歳だからな」
こう見えてもって、どう見えてんですかね?!
「……ウソでしょ?」
「おい、そのトーンでマジ顔するのやめい!!本当だよ!ちくしょう!」
「そりゃあ……なんつうか……お気の毒さまで……」
ふーん、随分な言い草じゃないの。後でアタマカチ割ったろかな!
まあ、そんなこんなで儲けた訳だが、シウハはまだ行先を決めていないらしい。 情報が入って来ないのか、時を待っているのか?
俺は武具屋や魔導具屋などを回ってみたがあまり良い物は置いてなかった。
仕方が無いので俺はキラを連れて鴻蘭から少し離れた場所にある森に入って魔物狩りをしていた。と言っても俺はほとんど魔物を狩らずに自分の修行……金槌をゆっくりと振ったり、魔力操作の修行などが主だ。キラは喜んで魔物を狩っては美味しく頂いている。
《誰か居るの》
(ああ……月影の魔術師様だな。何か用かな?)
キラが警戒したので気にせず狩りをして来いと指示する。
すると、月影の魔術師ことザルスが俺の前に姿を現した。
「何か用?」
「……随分前から気付いてた様だな」
「当然。戦った奴の匂いは忘れないからね」
「ほう……闇魔法を操るだけはあるな」
「まさか、もう一戦やりに来たの?」
「まさか……そこまで戦闘狂じゃないさ。この間は実力を見るのも兼ねてだったからな。アレを狙ってたとは思わなかったが……どうやって調べた?お前は動いていないのは知ってる」
「ふーん、それが気になってたのか。なら俺も気になってる事が有るからそれを教えてよ。あの壺の事さ」
「……良いだろう。アレは遺跡で見つけた壺さ」
「やっぱりか……もう一度見せてもらっても?」
ザルスはその壺を俺に見せる。
《変わってる壺なの》
突然『眼』が話し出したのでザルスが警戒度を跳ね上げた。『眼』は俺の頭の上に現れた。
「コレが俺の『眼』だよ。遺跡の物らしいが謎が多い。自分の意思も持ってる」
「コイツが……そうかお前の隠し玉はそれだったか……」
「まあね。これで納得したかい?月影のおっちゃん」
「……おっちゃんとは……まだこれでも25なのだがな」
「えええ……ウソでしょ??」
アシュのおっちゃんと同じくらいだと思ってたよ!老けてんのか?苦労してんのか?
「歳の事はお前に言われたくないな……」
「ハイハイ、そうですか……」
言うだけ言って聞くだけ聞いたらそのまま挨拶もせずに行っちまった……なんて奴だ!
「おい、今のは見たな?」
《もちろんなの》
『引力と斥力の壺』
クラス︰A 属性︰闇
相手の魔法を取り込んだり、取り込んだ魔法を発射したり出来る壺。壺自体のクラスを超える魔法を取り込むには使用者の闇属性の深度が必要。たとえ取り込めても20秒しか保持出来ず、放出後は30分ほど機能を停止する。闇魔法の使い手のみが操る事が出来る。
へぇ〜、こんなアイテムが遺跡にはあるのか……使い用によってはかなりの武器じゃね?まあ、コレを見せたという事は他にも隠し持ってるんだろうな。食えない奴だねぇ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「シウハ様……」
「どうだった?面白い物でも見れたかい?」
「『眼』と言う奴を持っていました……形は四角ですが……」
シウハは眉をひそめた……少し考える様な仕草である。
「形は四角だと言ったね?」
「はい、しかも喋り方や声も違います」
「じゃあ、あの丸い奴とは違う種類という事かねぇ……」
「恐らくはそうでは無いかと思われます……如何致しましょうか?」
「とりあえず様子見だね。もしあの丸いのと仲間なら例の棺桶の中身も見ずに大人しくコチラに引き渡す筈がないからね」
「……確かに……では監視のみで?」
「それで良いだろう。しかし面白いヤツらだねぇ~。坊やはあの丸いのと似た様なのを飼ってるし、もう一人……アシュトレイって奴……ありゃあ只者じゃあ無いよ。満更、山脈の向こう側から来たのは絵空事じゃないかも知れないよ?フフフ……」
「流石にそれは無いでしょう?私でさえ無理だったものを……」
「そうだねぇ……但し他にも仲間が居たとしたら?」
「……それならば……しかしそれでもかなり難しかと」
「どちらにしろ良い人材ではあるからね。存分に働いてもらうよ……フフフ……」
「ところで次の行先は?」
「ああ、ついさっき魔影からの繋ぎがあったよ。次の商売は黄龍の首都の雷土だよ。もう皆には伝えてあるから明後日には出立だよ」
「かしこまりました……」
「フフフ……アイツらが来てから楽しみが増えたねぇ〜。退屈しないで済みそうだよ。お前もそう思わないかい?」
「私は……平穏無事ならば良いですが……」
「フン、どうもお前はそういう所が面白さに欠けるね!」
「……それでは失礼……」
シウハはため息をつきながら煙草の火をつけた。
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