偵察と足止めの依頼
次の街に行ったラダル達がシウハに依頼を頼まれる話です。
それから二ヶ月ほどはこの街に留まっていた『武商旅団』だったが、突然に次の移動が決まった。
「随分と急だね?何か良い情報でも掴んだのかい?」
俺はタヒドに話を振った。
「頭目は各地に情報屋を囲ってやすからねぇ~。次の街の鴻蘭はココよりもデカい街なんで恐らくは戦の準備が有るんじゃないかと」
「へぇ〜、どうして分かるんだい?そんな事」
「そりゃあ、デカい街には物資が集まって来てるんですぜ、物が集まりゃ物価が下がりまさぁ。普通ならそんな物価が安い所でチマチマ商売しねえっすよ。そこで更に商売になるって言うなら戦の準備しか考えられねぇっすね」
「なるほどね……確かに理にかなってるかもね」
「まあ、商売の事はアッシに任せて下さいよ!ラダルの旦那!!」
「う〜ん……任せるのは良いけど上がりを誤魔化すからなぁ……」
「そ、そんな事はもうやらねぇっす!!神に誓いますぜ!」
「そう?……じゃあそんな都合のいい神様に誓わないでも良いからさ、今度、誤魔化したら針千本飲ますからね」
「は、針千本??」
「大丈夫?顔色悪いけど……」
「だ、大丈夫でさぁ!」
「それなら良いけど。まあ悪い事を考えなければ儲かる様にモノは出すから」
タヒドは何か一生懸命アピールしてるが、俺は右から左聞き流す。戦の準備でどのくらい儲かるのかも気になるし、何処との戦なのかも気になるなぁ。
それから直ぐに出発となったのでそのまま俺達も馬車に乗り込んで移動を開始する。
『武商旅団』の馬車は全部で8台である。俺が思ってたよりも少ないのだが、それはココの商人連中が魔導袋を全員所持している事が関係している。
この戦乱の真っ最中、馬車に荷物を積むなんて事をしてたら馬車の数もとんでも無く多くなってしまう。それだと維持費だけでも途方も無く掛かってしまうのだ。
そこで魔導袋を持って仕入れた物をそれに入れれば馬車も少なくて済むしそれを守る傭兵の数も少なくて良い。噂だとシウハはかなりの量が入る魔導袋を20袋以上持ってるらしい。
しかもこの8台の馬車の内、2台は外見が豪華だが中身は空っぽである。商人が3台に乗り込み、後の3台が傭兵達。そして2台は囮用の馬車である。
パッと見が豪華な空っぽの馬車を走らせてそちらに敵を引き付けて本隊が逃げれる様にしているのだ。
ちなみに囮用の馬車には傭兵が2人乗ってるだけで馬車自体が物凄く軽いので、本気で逃げると相手が追い付けないのだ。だから、敵を引き付けるだけ引き付けて、本隊が離れたら一気に加速して逃げ切ると言う作戦である。
まあ、囮用の馬車に乗る傭兵は俺達より金が良いらしい。そりゃあ命賭ける訳だからね!
それから3週間程かけて鴻蘭に到着した。その間、襲って来た魔物や盗賊がかなり多かったので結構稼がせて貰ったよ。
中でも盗賊が隠し持っていやがった武具の類を見つけた時には小躍りしたよ。やっぱりお宝タイムはたまらんね!
アシュのおっちゃんはニヤニヤしながら『十三』とお宝を仕舞ってる俺を生温い目で見てたけどな!
俺はすぐさまタヒドに盗賊のお宝を売りに出させた。この売れ行きによっては懐にある向こう側で仕入れた武具を半数売ってもいい。
それで儲けた金でここの物資を買うのだ。
ココは輸送のハブになってる街だから物資の相場が安いからだ。
しかし、何を買うのが正しいのかはタヒドに聞くのが良い。奴も儲かった方が自分のリターンが多くなるのも解ってるはずだからね。もちろん俺も『眼』を使って調べるのだけどさ。
シウハはこの街のお偉いさんと商売をしている様だ。2、3日してから帰って来ると俺とアシュのおっちゃんを呼び出した。
「ラダル、随分とタヒドを使って稼いでるらしいじゃないか?」
「シウハに比べたら小遣い稼ぎの様なものだよ。それで何の用?」
「二人でウチの若い者と一緒に偵察に行って欲しいのさ。別途賃金は弾むよ!」
「まさか偵察だけなのかい?」
「フフフ……流石にそれだけでアンタらを使わないさ。お前達にはその拠点を適当に攻撃して来て欲しいのさ」
「適当にって……どのくらい?」
「相手がしばらく動けない程度かしらね」
「ふーん……全滅させなくても良いのかい?」
「そこまでは頼まれちゃいないよ。まあ、やるのはお前達の勝手にすれば良いが、そこまでの金は出せないよ!」
「分かった。適当にやっつけとくよ」
「じゃあ早速行っておくれ。おい!ザルス!」
「お呼びで……」
いきなり出て来てびっくりしたぜ……いるのに全く気が付かなかった。カルディナスの忍者服部君を思い出したよ……まだまだすげえのが居るなぁ。
「この二人をさっき話した場所に連れておいき!」
「かしこまりました……ついて来い」
ザルスと言う無愛想な男に案内されて一週間程かけて砦が見える場所までやって来た。遠いよ!!しかも無口過ぎ!
「その砦が目当ての場所だ……俺が偵察して来るから、その後攻撃しろ」
「分かった」
久しぶりに喋ったザルスはそのまま砦の方に向かった。俺は『眼』を砦に向かわせて色々と調べさせた。
すると結構な物資が溜め込まれているのが分かった。なるほどね……コレを本隊に移動させたくない訳だ。なら話は早いな……コイツらをある程度やっつけたら、この物資を少し俺が頂いちまおう。流石に全部は無理だが良さそうな物をガッチリお持ち帰りだ!
俺は『眼』に詳しく物資を選別させた。すると物資の部屋に魔導袋が20個位ある。そしてその部屋の中に不思議な物を見つけたのである。
(おいおい……コレって……棺桶じゃね?)
《どう見ても棺桶なの》
透視眼で見てるので間違い無いが、棺桶の中身が透けて見えない。どういう事?
《遺跡の棺桶なの。だから中身が見えないの》
(お前の透視眼も大した事無くね?)
《失礼な物言いなの》
しかし、中身が見えないのはちょっと怖いな……変なもん入ってなきゃ良いんだけどね。
俺達は綿密に計画を練って襲撃の準備をした。
2、3日後にザルスが戻って来た。随分と遅かったな……何を調べてたのやら。
「俺はこのまま戻る。後はお前らの仕事だ」
そう言うとサッサと戻ってしまった。おいおい……偵察して来た内容も言わねぇのかよ……しかもホントに愛想の無い奴だね!
俺は魔導鞄から『十三』を出してアシュのおっちゃんと計画を話す。
「それじゃあ行こうか」
決行は深夜になってからだ。それぞれの位置について時間まで待つ。
作戦としては、先ずは見張りが交代した直後を『十三』に狙撃させてから俺が『隠密』で潜入する。
俺はそのまま【エナジードレイン】を砦の連中に発動してそのまま待つ。
そして、1時間後位に兵士達がヘトヘトになった頃合いに巨大化したキラとアシュのおっちゃんが表でド派手に大暴れさせる。その混乱に乗じて俺は馬車だの馬だのを逃がしたり壊したりして、そのまま物資の部屋で宝探しをするって寸法だ。
んで、お宝をゲットしたらそのまま皆んなでトンズラする。
逃げる道筋も考えてあるので【エナジードレイン】を食らってヘトヘトの敵には簡単に追い付かれない筈である。
しかもこのダメージは簡単には抜けないから足止めには丁度いいのだ。
コレでお宝も手に入って足止めも出来て一石二鳥である。
さて、あの棺桶をどうするかなんだよなぁ……まあ、遺跡の物らしいから価値はあるだろう。中身は見ないでシウハにでも売っちまおうかな?
さあ、作戦開始の時間だ!上手くやってお宝ゲットだぜ!
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