閑話 ファブルの下僕となった男
閑話です。ファブルの下僕となった男の話です。
次より第三章が始まります。
「クソっ!!ワシが一体何をしたと言うんじゃ!!」
ワシはアデリーナムの村長として村をまとめ上げて来た。それも祖父の代からずっとである。
そしてワシの代でやっとある程度の財も築いて来た。
それをあの男……ボルトムが「村長が財を自分の物としてるのはおかしい。村の財産では無いか」などと言い出しおって……。
そこで奴を村八分にして村を追い出してやろうと画策した。
ところがやってみると村人達の今までの不満がボルトムに集中する事となった。この不満は本来ならワシへの不満じゃ。そしてやり方はどんどんとエスカレートして行き制御不能になってしまった。ワシは静観した……ボルトムに全ての悪意を向けさせれば村の者たちのワシへの不満の解消になると考えたからじゃ。
しかし……ボルトムは一身に受けた悪意からワシだけでなく村の者たち全てを怨み、村を滅ぼそうと魔人の下僕となりおった!
恐ろしい程の魔力……村の者たちは恐怖しワシにどうにかしろと言ってきた。元はと言えばお前達がやり過ぎたのが原因だと言うのに!だが、このままでは村人全員がボルトムに殺される……もちろんワシも含めてじゃ!!冗談では無い!今までの苦労が全部水の泡となってしまうでは無いか!
そんな時に先触れがやって来たのは……。
「二日後にデュラハンスレイヤーの一行がこちらにやって来る!村を挙げての歓待をするのだ!」
コレは……天の助けなのか……かのデュラハンスレイヤーの二人が近衛騎士団とこの村にやって来る!!これを使わない手は無い!彼等にボルトムの始末をさせれば万事解決するのじゃ!
やって来たデュラハンスレイヤーの二人……片方は子供か?大剣を担いでる方は強そうである。
ワシは一世一代の芝居かがったやり方で、デュラハンスレイヤーに助けを求めた。コレで全てが上手く行く……そう思っていたのに……。
「そもそも何故村八分などという愚かな事をしたんですか?」
「それは……村の掟を守らないあの……」
「それを根気よく面倒を見るのが貴方の役目ですよね!?」
このガキは事もあろうかワシを詰めて来おったのじゃ!
「あなたがそういう立場の人間を庇わずに皆で責め立てればこのような事になると思わなかったのか?俺も貧しい農民の出だが、村に馴染まない者を村八分にしたなんてうちの村では聞いた事が無い。何故ならうちの村の村長が体を張ってそういう者を守っていたし、そういう村長を見て村人達も考えを変えて根気よく面倒を見ていたよ。つまりはアンタの職務怠慢だろ?それをしなかったのに今更俺達にケツを拭けってか?いい加減にしろ!このドたわけが!!ゴルァアアア!!」
ワシは心底震えた……このガキに殺されるんじゃないかと思うほどだった……。
大剣の男が抑えてくれなければワシは殺されていたかもしれん……。
「とにかく俺は協力しない。むしろその男に協力したいくらいだ。俺はこの村には一切世話にならない。村の外で寝る!以上!!」
こう言ったガキはそのまま村を出て行ってしまった……。ふざけおって……フン、ガキが役立たずならもう一人にやらせれば良い。
「お願い致します!どうかあの魔人の下僕を殺して下さい!!」
「……正直、気は進まぬ。ラダルの言う通りあなたのやり方はどう考えてもおかしいからな」
「そ、それではこの村全員が殺されても良いと言うのか!!」
「……村長、あなたは何か勘違いしていないか?オレはこの村を救う云われなど無いのだぞ」
「は?」
「オレとラダルはデュラハンスレイヤーとして州王様に招かれて、州都に向かう為に立ち寄っただけだ。この国の人間でも無いし、この村を救う義務も無い。それをキチンと理解しているのか?」
「そ、それは……」
「まあまあ、アシュトレイ殿、ここは私の顔に免じてお許し頂けないだろうか」
「ローレス殿……貴方がそう言われるなら鉾は収めましょう……但し、村長の望みを聞くかどうかはしばらく考えさせて欲しい」
「それは構いませんよ。村長、今回の事はお前の村の問題だ。お前達で解決するのが筋では無いか?それを頼むのであればやり方を考えた方が良い」
コイツらは何を言ってるのか!ワシにあんな化け物になったボルトムに立ち向かえと言うのか??
その後何度かボルトムのいる場所で戦闘らしき音が聞こえて来た……あのガキがボルトムとやり合ってるのか?……フフフ……それならば両方共にくたばれば良いわ!
するとあのガキが山から降りてきた。話があると言う。近衛兵のローレスと話をしだした。
「どうされました?例の男と何度もやり合っていた様ですが……」
「村長に提案が有ります。聞いて欲しいのですが」
ワシに話じゃと?聞きたくもないが州王様の客人を無下にも出来ぬからな……。
「正気を逸しているようだ説得は無理だった。だが相手の実力は分かったので“何とか出来る”がどうする?」
「それは何とかしてもらえれば……」
「じゃあ“何とか”しよう。“報酬は頂ける”のだな?」
フン、結局報酬目当てか……それでもボルトムさえ何とか殺してくれれば問題は無い……。
ところがあのガキはボルトムを生きたまま連れて来おった!!コレでは話が違うでは無いか!!しかも報酬を飛んでもない額を要求して来おった!!
しかも近衛兵のローレスまでもグルになって!!
だが、確かに何も決めて無かった……そうか……ワシはこのガキに嵌められたのか!!
その後は散々脅された後で家にあった財を殆ど持って行かれてしまった。
その後は村の者たちからのワシへの中傷が始まった……ボルトムに向いていた悪意がワシに向かって来たのだ。
ワシは家からも出れなくなった……今度はワシが標的にされたのじゃ……。
「あのガキ……ふざけおって……」
殺してやりたい程の憎しみなど思った事も無かったが、今はあのガキに対する憎しみと殺意で一杯だ……そして、手のひらを返してワシを詰る村人達もだ!クソっクソっクソっ!!
“全員死んでしまえば良い!!”
《ならば手を貸してやろうか?》
「は??……な、何者だ!?」
《ボルトムに力を貸した者と言えば判るだろう?》
「ひ、ヒィ!ま!魔人!」
《手のひらを返してお前を責める村人達は憎いよなぁ……元はと言えばアイツらがやり過ぎたせいなのになぁ》
「……そ、そうだ……ワシは悪くない……」
《それにあのガキ……アイツがお前を嵌めたんだぞ?悔しいよなぁ》
「あ、あのガキ……ワシを嵌めおって!!」
《お前の全てを奪ったあのガキを許せるのか?》
「……許す訳が無いだろう!許せるか!」
《殺してやりたいほど憎いよなぁ……》
「あ、ああ……殺してやりたい……憎い……」
《お前にオレの力を貸してやろう……そうすればお前の思うままだぞ?》
「ワシに……力を……」
《オレの力を貸す対価は……お前を責める村人達の魂だ……村人達も憎いだろう?》
「そ、そうだ……ワシを馬鹿にしおって……」
《ならば誓え……【呪怨】のファブルに永遠の忠誠を誓うと……》
「ふ、ファブル!傀儡王の!!」
《ん?またその名か……誰がつけたか知らぬが……我が名は【呪怨】のファブルである……さあ、誓え!》
「……ワシは……ルファトは誓う……【呪怨】のファブルに永遠の忠誠を!!」
そして、ワシの世界は真っ赤に染った。
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