酒好きドワーフの里
ドワーフの里でのお話です。
ロザリアの特訓も終わり、洞窟を出た俺達はそのままアリドー大森林を抜けてヅーラ渓谷を目指す事になった。ここのドワーフも凶暴だと聞いている。
やはりアリドー大森林と同じ様に方向感覚を狂わせる結界が張ってある。俺達は『眼』に案内させながら周囲に居る魔物を狩っていた。誰得かは顔中真っ赤にしたキラを見るといいだろう……洗うの俺なんだよね……。
そんな中いきなりドワーフの方から此方にやって来た。
「おい!!お前ら!!」
突然やって来たドワーフに警戒して俺達は構えている。
「酒寄越せゴルァアアア!!!」
「やかましいわ!!ウォラアアア!!」
俺はバットアックスの刃じゃない方でぶん殴ったが、吹っ飛んだ割には効いていない様だ。やはり酒というドーピングのせいかな?
再び襲いかかって来るドワーフにブリジッタさんの雷撃がヒット!!痺れて動けなくなった。
「何なの……いきなり……」
「酒寄越せって……どんだけ酒好きだよ……」
俺達はそのまま縛り上げて俺が持っていたアワモリを目の前にぶら下げて質問したら洗いざらい全部吐いてくれた。ドワーフ簡単過ぎ!!
ドワーフはやはり泉の水を守っているらしい。と言うのも泉の水は飲み物や作物栽培だけでなく武具を造るにも使うし、大好きな酒造りには欠かせないそうだ。
エルフの件を知っているドワーフはとにかく泉の水を守る為に凶暴化してる様だ。
俺はこのドワーフにウッドランド産のアワモリを少し飲ませてやった。
「どうだ?美味いだろ?」
「こ、こ、こりゃあ美味い!!もっと飲ませろ!!」
「この酒が造れたらどんなに良いだろうなぁ〜」
「はっ!!つ、つ、造れるのかっ!?」
「教えてやっても良いんだけど……お前ら態度悪過ぎだからなぁ……」
「いやいや!!酒を……その酒を造れたら何でもする!!約束する!!」
「ホントに??嘘ついたら針千本飲ますよ?」
「は、針千本!??」
「どうよ?ドワーフ?酒は欲しくないのか?あ?」
「わ、わ、分かった!!俺が話をつけてくる!!だから放してくれ!!」
放してやるとドワーフはのっしのっしと森の中に消えた……と思ったら直ぐ戻って来た。
「アレ?……」
アレ?じゃねーよ!コントかよ!!
どうやらコイツも方向感覚を狂わせられてるらしい……アホちゃうか?
「方向感覚やられてんじゃねーのよ!!」
「あ……いけねぇ……」
とドワーフが何かを取り出している。
「何それ?」
「結界避けの魔導具さあ、使うの忘れてた……」
ガチでコントじゃねーか!!大丈夫か?コイツは??
その後、しばらく待ってるとさっきのドワーフが六人ほど髭ボーボーのおじいちゃんを連れて来た。
「美味い酒を飲ませると聞いてな!美味くなかったらわかってんだろうな!?」
「美味かった時は分かってんだろうな?!」
「早く飲ませろ!!」
ワーワーやかましいのでアワモリを飲ましてやった。するとワーワー騒ぎ出して、もっと寄越せと言い出した。全く最初の流れと一緒じゃねーか!!
「コレを造れるとしたら、どうだ?」
「な、何??造れるのか??」
「お前達、米作れる?」
「米??」
「米が作れたら酒を作れるぞ。どうする?」
「作る!!!」
「じゃあ村に案内して?米作り教えるから!」
「分かった!!ついて来い!!」
髭ボーボーのドワーフはのっしのっしと歩き始めた。
そして……また元の場所に戻って来た……コイツら本物の馬鹿なのか?
馬鹿に魔導具のスイッチを入れさせてやっとドワーフの里にたどり着いた。
意外と広いドワーフの里はどうやらワインを専門で栽培してるようだ……ぶどう畑が広がっている。この気候で育つ品種があるのか……。聞くとエール用にポップや大麦も作っているという。更に大麦でウイスキーも仕込んでるらしいよ。流石だな。そこら中でワインを飲んでる奴がいるので酒の臭いのする里だわ。
俺は酒蔵が沢山ある区画に案内された。そこで酒造りを専門でやってるドワーフ達に泡盛を試飲させてから、インディカ米の栽培の話をする。概ね良い感触である。
酒蔵を見させてもらうと新しい酒を造るためにとドワーフの杜氏?が造ってた黒麹があったので、それで仕込めば大丈夫だと話す。インディカ米は俺のストックから分けてやる。ここの気候なら良い泡盛が出来るはずだ。
一通り説明などが終わるとドワーフの長から偉い感謝された。
俺はエルフから話しを聞いてやって来たと話すと「エルフには渡さんぞ」と言ってるから、「そうしろ。アイツらじゃあここを守れないし」と言うとウンウン頷いてたよ。
「此処にはまだ真ん丸の『眼』は来てないか?」
と、ウチの『眼』を見せると驚いていたが、まだ来てなかった様だ。
「ソイツが水を汚染するから気を付けて……と言っても泉が見当たらないけど……」
「隠してあるから平気だ!!」
「アイツ建物内にも転移して来るから気を付けてね。油断してはダメだ」
「それも大丈夫だ。安心しろ!」
「そか、それなら良いけど。ところで武具とか作ってるの?良いのがあれば買いたいんだけど」
「お前なら良いだろう!それならコッチ来る!」
ドワーフの長は俺達を武具や魔導具を製造してる場所に案内してくれた。
ドワーフは人間とは直接接触せずに、人間に似せたオートマタを造ってそれで細々と商売させてるらしい。かなり精密に出来ていたので驚いたなあ……凄い技術だわ。
俺は魔導具を見せて貰い数点の魔導具を購入した。
先ずは魔導オーブン。この大きさと火力ならピザも楽々と焼ける。そしてテント用の結界の更に範囲が大きい物を購入。コレなら馬車ごと隠せる。後もうひとつはシャワーテントだ。今までは魔導水筒の頭にシャワーヘッド着けて浴びてたけど、コレなら簡易シャワー室となるから便利だ。下に桶でも置けば足湯代わりにもなる。
また、職人に俺の持っていた数点のオートマタを見せると珍しい技術が使われてるとかで全部欲しいと言うので、全部他の魔導具数点と気になったオートマタ一体と交換した。
ブリジッタさんはミスリル製のレイピアとガントレットを買っていた。軽くてとても気に入った様だ。
ロザリアはミスリルの糸を編み込んでる丈の短めなワンピースとパンツにグローブ。腕にはめる小さな盾、膝当てとブーツを買っていた。そしてもう一つ、ミスリルワンドも買っていた。魔力が通り易いので魔法発動に使う様だ。
そして……アシュのおっちゃんは……言わなくても分かるよね?ここで言ったら負けだと思うわ……因みに三本も購入してたよ……。買い過ぎだろ!!
俺達はそのままドワーフの里を出る事にする。ドワーフの長は泊まって行けと言ったが、先を急ぎたいのと長居をする事で真ん丸に気づかれるのを恐れた為だ。その際に小瓶で泉の水を数本貰っておいた。
「また来るといい」
「コッチの二人は来るかもだけど、俺達は山脈の向こうの更に先の故郷を目指すから来れないかもなぁ〜」
「何?じゃあ千年洞窟を目指すのか?」
「えっ、千年洞窟を知ってるの??」
「当たり前、オレ達ソコからコッチ来た!」
「マジか!!千年洞窟ってどうなってるんだ?」
ドワーフの長に寄ると200年ほど前に山脈の向こう側から戦乱を避ける為に此方に逃げ出して来たらしい。千年洞窟では散々迷ったから出るまで50年も掛かったと言ってた……まあ、あの方向音痴じゃあそうなるわな……50年なら早かった位だと思うよ。
千年洞窟は魔物が多く住んでおり、迷路のような構造で悩まされ仲間も多数倒れたと言う。かなり通るのは厳しいと言っていた。でも通れる事が分かっただけでも良かったわ。
更に山脈の向こう側に黄色の旗の国があり、その国にあるブラーク山の麓にドワーフの里があるらしい。もし立ち寄るようならとプレートを貰った。これを見せれば中に入れてくれるだろうと。ありがたい……もし寄れる様なら立ち寄ろう。
向こうでは戦乱は長く続き過ぎて国中が疲弊しているという事だった。武装商団の話を聞くとドワーフの長が居た頃にはまだ無かった様だが、それに近い商人達が沢山居てキャラバンで回っていた様だったと言っていた。長い戦乱でそれなりの進化をしたと言う事なのか?
とにかく貴重な情報を貰ってありがたかった。もう来る事は無いだろうがドワーフには感謝しなきゃな。
お読み頂きありがとうございます。




