ラダル、棚ぼたの悪巧み
ラダルの銭儲けのお話です。
その日は適当な場所で野宿となった。
ブリジッタさんはともかくロザリアもテキパキとテントを設営していた。手馴れてるなぁ。
「そりゃあ、私が仕込んだのだからこの位出来て当たり前よ。この旅では野宿の方が多かったからね」
話を聞いたらブリジッタさんに自慢されてしまった。ロザリアも何故かエッヘンって感じで俺を見てる……何コレ?
俺達もテントを張って例の結界の魔導具を使ってたらブリジッタさんがやって来て
「あら、似た様なの使ってるのね?結構高かったでしょ?」
と言ってた。持ってんの?マジか?
あ〜そう言えばクロイフさんが貴族用だとか言ってたもんな……。
「俺は占領した街に魔導具屋があって、ソコのを丸ごと頂いたからタダだよ。かなり高いって話は聞いてる」
「はあ?タダって……占領……兵士だった話はホントだったの?」
「嘘は言わないよ。この魔導鍋もコンロも水筒もタダのヤツだからね。あっ、コッチのは買ったヤツだけど」
「……ラダル君、魔導鍋多くない?」
「ラダルは料理好きだからな。薬草を上手に使って何作らせても美味いから料理人にもなれるんじゃないか?」
「へぇーそうなんだ!人は見かけによらないわね」
「まあ、料理は任せなよ。今日はキラが狩ったジャイアントスパイダーの足で鍋にするよ〜!!」
「ニャア〜」
ロザリアは眉をひそめたがブリジッタさんは流石に冒険者だけあって「アレ美味しいのよねぇ〜」とか言って嬉しそうだった。
俺はジャイアントスパイダーの足をよーく洗ってから適当な長さに切って、野菜と一緒に茹でながら味付けの塩と胡椒を入れていく。
スープに出汁が出て来たら薬草を順番に入れていくと香りが立ってくる。味見をしながら隠し味の甘露の雫と塩で調整を入れて少し煮込むと出来上がり。
俺は皆の分を取り分けて、その後にキラの分を出してあげる。
「あら!これ美味しいわね!」
「うむ、いつも通り……いや、美味しくなってるな……」
「多分隠し味の甘露の雫が効いてると思うよ。沢山入れるより少しだけ入れる方が良いみたいね」
「ほう、あの精霊から貰ったとかいうアレか。いや、ホントに美味いぞ」
「はあ?精霊??」
「コレ精霊から貰ったヤツなんだ。甘い物は貴重な品だからね」
「このパンも美味いわね!」
「それは遺跡で見つけたパンの箱の出来たてパンだよ。まだまだあるからね」
「ニャッ!」
「キラ、パン欲しいの?なら一斤全部食べな」
俺は鞄から新しくパンを一斤出してあげる。スープはオカワリを出して食べさせる。
ロザリアは最初警戒していた様だが、今はバクバク食べているので気に入ったのだろう。
ブリジッタさんは食べ終わると満足した様子で俺に話しかけてくる。
「なるほど……ねぇラダル君、私と冒険者パーティー組まない?」
「お気持ちだけ。俺達は帰らないと行けないからね」
「そう、残念だわ……気が変わったら言ってね」
ブリジッタさんが本気なのか冗談なのか良く解らん誘いをかけて来た。
まあ、料理が余程気に入ったのだろうけどね。専属のコック枠かな?
「見張りはどうするの?」
「見張りはウチの『眼』がやるから大丈夫。安心してお休み下さい」
《我に任せるの》
「あら、便利ねぇ。『眼』ちゃん、私と一緒に来ない?」
《我は主と行くの》
「あらあら……何か私ったら、振られっぱなしね!アハハハ!!」
俺はいつものトレーニングをキラに邪魔されながらも頑張ってやってから眠りに着く。アシュのおっちゃんは大剣を持って瞑想をしていた。大剣に魔法を付与出来る事が判ってから常にやっている様だ。俺も盾に魔法を付与出来るから今度やって見るかな。
こんな感じで魔物をキラが倒して食べながら俺達は野宿10日間連チャンしながら進むと人が大勢居る場所に出た……。
こんな所に村があるとか聞いてないぞ……?
いや……コレ村じゃ無くて商人とかのキャラバン隊が集まってるんだ!
「コレは……お前達、此処で何をしてるんだ?」
「ああ……この先にサイクロプスが居るから進めなくてな……戻っても仕入れの関係で逆方面じゃあ商売にならねぇんだ」
「お、おい!そっちの姐さんは“紫電のブリジッタ”じゃねーか??」
「あら?、私の事を知っているの?」
「その紫の髪の美人冒険者なんてそうは居ないからな!!」
「あら!美人冒険者だなんて……流石商人さんはお世辞がお上手ねぇ〜」
と言いながらも満更じゃないブリジッタさんを生温い目で見ていると、他の商人が俺を指さしてこう言った。
「こ、この坊や……確か“デュラハンスレイヤー”じゃねーか!?」
「コッチの大剣持ちの兄さんも“デュラハンスレイヤー”だよな!?近衛騎士団に連れられてるのを観たぞ!!」
何か商人達が勝手に盛り上がってるのだけど……何なのこれ??
「そうか!サイクロプスを倒しに来てくれたのか!?」
「うおおおおぉ!!デュラハンスレイヤーと紫電のブリジッタがサイクロプス退治に来てくれたぞおぉぉぉ!!」
な、何か凄い事になってる気がする……別にサイクロプスを倒すのはお前らの為じゃないんですけどね!!
……ん?いやいや待てよ……こんな所でタダ働き(依頼料はちゃんと貰ってますけど!)なんて馬鹿らしいな……。それならいっその事商売にしたろか!
「オッホン!困っている商人の諸君!我らデュラハンスレイヤーと紫電のブリジッタがサイクロプスを見事倒して見せよう!そうしたら礼は弾んでもらえるのだろうな!?」
「い、いくらでも出す!!とにかく早く倒してくれ!!」
「オレも払うから!!」
おぉぉぉ……キタキタ、すげぇ反応。こりゃあひと稼ぎ出来そうだ。ウヒヒヒ。
「よーし!!お前らの気持ち確かにこの“デュラハンスレイヤー”のラダルが受け取った!!サイクロプス退治は俺達に任せておけ!!フハハハハ!!」
「うおおおおぉ!!!!」
もうライブ会場みたいな盛り上がりで気持ちがいいな!アシュのおっちゃんは何か頭を抱えてるし、ブリジッタさんとロザリアは生温い目でこの状況を見ている……何でや?
熱狂的な商人達に見送られて俺達は渓谷方面に向かっていく。
「……ラダル、アレはやり過ぎじゃないか?州王様に報奨金もたんまり貰ってるし、今回の依頼料も貰えるんだぞ?」
「チッチッチ……おっちゃん、商人たる者稼げる時にしっかり稼がないと。後からお金で困っても誰も助けてくれないよ。お金なんてナンボ有っても良いですからね!」
「……ラダルはいつから商人になったんだ?……魔法兵だろうに……」
「カッカッカ!!細かい事は気にしないの!どうせサイクロプスは倒すつもりなんだからさ!ついでに頂いてもバチは当たらないよ!」
「アシュトレイ……ラダルはいつもこんななのか?」
「いや……こんなに酷くは無かった筈だが……ただ、向こうでは食堂を経営させたりしてたらしいから商売に関しては素人では無いな」
「……へぇー食堂ねぇ……まあ、あの料理を食べたらその食堂は繁盛してたと思うわね」
「もちろん食堂は繁盛してたよ。何せ料理人が俺の師匠のお母さんだったからね。ハンバーガー屋は2店舗経営させてたし……デカい商会の会頭からは兵士を辞めてウチに来てくれって良く言われてたよ」
「ふ〜ん……じゃあラダル君はいずれは商人になるの?」
「まあ、選択肢の一つではある。でも魔法兵も辞められないんだなぁ〜コレが。多才だとホントに困っちゃう」
「自画自賛もここまで来ると逆に気持ちがいいくらいだな。まあ、確かにラダルは多才だと思うが……」
「でしょ?あ〜体が二つ三つ欲しいわぁ」
《3つも有ったら主は魔物になってしまうの》
「正直今でもごく一部の人には人間扱いされてないですけどね!!」
そんな感じで商人達からお金を貰える話となった。棚ぼただけど儲かってしょうがないなぁ〜。ウヒヒヒ。
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