ラダル流、三方一両損
ラダルの策による「彼」「村人」「魔人」の三方一両損の物語です。
「おーい、上手く行ったぞ。予定通りに」
「……まさか……本当に上手く行くとはな……」
「当然でしょ。俺がやってんだからな」
俺は魔導具の拘束の腕輪を出した。
コレを装着させ俺の奴隷として村に連れて行く。
「……後は……貴様が裏切ら無ければだが……」
「ちぇっ……信用ねえのな〜」
「……簡単に信用出来る訳が無かろう……」
「どっちにしろ今更俺が裏切っても何の得もないだろ。それにこの拘束はアンタが外せるんだからな」
「……まあ、良いだろう……」
「くれぐれも手を出すなよ……そこだけが心配だよ……」
「……約束は守ろう。後は村長次第だが……」
「そこは心配無い。近衛兵の副長が証人になってる。もしひっくり返そうとした時は奴の最後。黙って従っても……」
「……?」
「……とにかく行こう」
俺が村までこの男を連れて行くと村人達は驚いた様な顔をして俺達を遠巻きにして見ていた。
「コイツは俺が拘束して俺の奴隷となってるからもう村には危害を加えられない。さて、報酬を貰うとしようか?」
「ち、ちょっと待て!話が違うぞ!」
村長が文句を言い出して来た。よしよし……ここまでは想定内だ。
「話が違うとは?」
「コイツを殺してないでは無いか!!」
俺は村長をシカトして近衛兵の副長であるローレスさんに向かって話した。
「ローレスさん、俺はこの男を殺すと約束してましたっけ?」
「……いや、してないな。ラダル殿は『何とかする』と言っただけで殺すとは一言も言ってない」
「そ、そんな!」
「さて、村長さん……報酬の件だが、この村の一年分の税収を頂くとしようか」
「な、何を馬鹿な事を言ってるんだ!!」
「報酬の件も貰うと言っただけで何も決めてはいないからね。ローレスさんそうでしたよね?」
「うむ……確かに報酬を貰う事は決定事項だが報酬に関しての内容は決まってないな……その上で合意が成されている。村長、コレは私が証人だ」
「そ、そんな馬鹿な……」
「さあ、村長さん支払って頂きましょうか?」
「そ、そんなもの払えるか!!」
……あ〜あ、このバカその台詞を言っちゃったよ。
払うも地獄払わぬも地獄ってね……。
「なるほど、ではこの村の村長は州王様の近衛兵の副長が証人となった決まり事を反故にする訳だ。州王様の客人……“デュラハンスレイヤー”としてのこの俺と決めた事を反故すると。分かった……ならば仕方が無い……この件は俺が直々に州王様に御相談するとしよう。村長、覚悟しておくが良い」
村長は真っ青な顔になった。
「そ、そんな無茶苦茶な!!」
「無茶苦茶?コレはそもそもお前が頼んで来た話だぞ村長……俺はそれを解決した……誰一人殺さない形でだ。そして約定も証人を立てて取っている。ローレス殿は州王様の近衛兵の副長殿だぞ?これ以上ない証人だ。それにもかかわらず貴様が反故にした訳だからな。違うか?村長?」
村長はガックリと膝を落として頭を抱える。コレで勝負アリだ。
「村長、もう一度だけ聞いてやる……払うか否か返事をしろ!!」
俺は魔力を込めて怒鳴りつけた。昔、ウッドランドでゴンザレス隊長がやったヤツな。何か懐かしいな……。
村長と村人達が腰を抜かしそうな勢いだ……。
「お……お、お支払い致します……」
「それは良かった。さあ払ってもらおうか?」
「す、少し猶予が頂きたい……」
「それはダメだ。俺は州王様に呼ばれているからな。それとも早く来て欲しいと近衛兵の方まで派遣された州王様の命に背くと?」
「そ、そのような事は……」
「では、早く持って来てもらおう」
村長はモタモタして居るのでまた怒鳴りつけたろか思ってたら、先にローレスさんの方が動き出した。
「おい、お前達!村長の家から金目の物を全て持って来るのだ!」
と、近衛兵に命令していた。おいおいマジっすか?とローレスさんを見るとローレスさんがアシュのおっちゃんとアイコンタクトをしてる。そうか、この二人もグルって事ね……アシュのおっちゃんやるぅ〜〜!
村長の家にはたんまりお宝が貯め込んであった。全部運ばれて来ると結構な数の多さだなあ。
俺は金やら財宝やら魔導具やらとあまり嵩張らない物を中心に全部魔導鞄に放り込んだ。嵩張るものは全部村長の馬車に詰め込んでそのまま持って行く。
「コレでは足りないが仕方ないので今回に限って勘弁してやる。俺のおかげで彼には全員殺されないぞ。良かったな、村長と村人の諸君」
村人達は怒りの目で俺を見ているが、俺は何処吹く風と平気な顔をしている。どうせ俺の筋書き通りになるならこの村は長くは持たない。これまでの罰が下るはずだからだ。
俺は馬車を奴隷の男に運転させる事にする。それはこのまま彼がこの馬車と中身の持ち主になるからだ。
俺の策はこうだ……先ず、村長に言質を取り報酬に関して内容を決めない事と彼の処分内容を決めない事をローレスさんに聞かせる。
そして彼を連れて行き、村長が揉める事を見越してぐうの音も出ないくらいに財産をむしり取る。
[彼は村人達を殺せないが、村長を出し抜いて財産を手に入れる]
[村人達は彼を殺せないが、“彼には”皆殺しにされない]
[魔人は彼が村人達を殺さないから、彼を奴隷に出来ない]
コレが俺の描いた三方一両損って事になる……と言うが実は一人だけ……魔人がまだ損しかないので片手落ちだが……。
俺達はそのままこの村を去った。
村人達が襲いかかって来るかと思ってたら全然やって来なかった。まあ、近衛兵も居るから無理だろうな。俺達だけで村人全員が来ても充分撃退出来るけどね。
そして……村から出て3日後……遂に待っていたソイツがやって来た……。
急に空が暗くなったと思うといきなり世界が止まって見えた……俺だけ動けるのか?スゲェな……結界の一種かな?
《おい貴様……良くも計画を邪魔してくれたな……》
「ふう……アンタが魔人さんかい?やっと現れたか……」
《ほう……オレが来るのを待ってた口ぶりだな?》
「ああ、待ってたよ。彼との契約を破棄して欲しかったんでね」
《……何を馬鹿な……コイツはオレの奴隷だ》
「もう彼は村人達を殺さないぞ。それでは貴方は困るのだろう?違うかい?なら他に鞍替えしないとなぁ〜」
《……お前、何を言ってるか分かってるのか?》
「はぁ……全部俺に言わせる気なのなら言う気はないよ。ただ一つだけ良い事を教えよう……今なら彼と変わらないくらいに恨みを内に秘めたのが村に一人いるよ」
《!!……貴様……そうか、分かったぞ……それがお前の描いた筋書きか?……フハハハハ!面白いヤツだな!本当にそれで構わんのか?その恨み最期はお前に向くぞ?》
「俺はただこの人を助けたいだけだよ。あの胸糞悪い村の連中はどうでもいいし、俺は平気さ、ヤツが来るなら返り討ちにしてやんよ」
《ほぉ……よし、良いだろう。ソイツとの契約は破棄してやる……ソイツが村人達を殺さないなら我も力を貸す意味は無いからな》
そう言うと魔人は彼から何かを抜き取った様だった。そして魔人は俺の方をまじまじと見つめてくる……マジでやめて欲しい……。
《……ほうほう……なっ!貴様!……あのレブルの力を持っているのか!……これは面白いな……》
「……俺には興味持って欲しく無いんですけどね!」
《変わった魔力の歪さ……その玉……それがヤツを喰ったんだな……そうか、なるほどな……》
「人の言う事全然聞いてねーし……つか魔人さんはレブルと知り合いなの?」
《まあ、そんなところだ。同じ魔人だからな話をした事くらいはあるぞ》
「えっ、レブルと話した事あるのか……彼は魔人としては強かったのかい?」
《もちろんだ、何せバンパイアロードなのだからな。我と同じく闇に仕えし者だった。だが奴は遺跡に取り込まれてしまったからな……それからは接点は無い》
「遺跡に取り込まれた??」
《馬鹿なヤツよ……遺跡にわざわざ向かって行ったのだからな。それで取り込まれたなど愚の骨頂よ》
「遺跡に取り込まれたって……魔人と遺跡は敵対してるって事?」
《敵対……まあ似たような物だが……お前ら人間とは違う》
うーん、何か歯に物が挟まった様な感じだな……。
「レブルは魔人だったなら貴方と強さは変わらないって事?」
《ああ、遺跡に取り込まれる前ならな。お前と戦ったレブルは100分の1にも満たぬ力しか出せぬだろうよ。不死の王たるバンパイアロードが遺跡で殺られるなど……つまらぬ死に方をしたものよ……》
アレで100分の1かよ……つかコイツはアレの100倍強いのか?……もうマジで帰って欲しいんですけど!!
「……そろそろ解放して欲しいのですけどね……」
《うむ、良いだろう。我もそろそろ限界だ。貴様を相手にするのはもっともっと強くなってからだな。今はヤワすぎる……つまらんな》
「イヤイヤ!!強くなってもやりませんから!!」
《フハハハハ!そう言うな!……貴様、名は?》
「覚えて貰いたくないので言いたくないんですけどね!……つかどうせ見えてますよね?」
《チッ……面白くないガキだな……まあ、今回は特別にお前の筋書きに乗ってやる。どうしてもあの村の連中の魂が必要だからな。貴様は早く強くなれラダル……オレを楽しませるくらいにな……フハハハハ!!》
そう言うと魔人はこの魔法なのか結界を解こうとしている。
そして消えざまに俺にこう言った。
《オレの名はファブル……【怨呪】のファブルである。覚えておくがいい……》
そして世界が動き出した。
俺の隣で馬車を運転してた男からの魔力が抜け落ちていた。いきなり魔力が抜けてビックリしている。
「こ、これは……」
「どうやら魔人との契約は破棄されたみたいだね」
「そうなのか……でも何故?」
「さあ……もう必要無くなったからじゃないかね?それよりもコレね」
俺は魔導鞄に入れてた村長から巻き上げた財宝類全部を馬車の中の箱に入れ込んだ。
「もう何も生まない復讐心は綺麗サッパリ捨ててさ、コレで新しい出発をすると良いよ。今まで苦労したんだからこのくらいは貰わないとな!カッカッカ!!」
「……スマンな……俺の名はボルトムだ。君の名は?」
「俺の名はラダル。遠い地から来た魔法兵だよ」
「ラダル……世話になったな」
「大した事ないよ。州都までは俺達と一緒に行こう。何せ沢山のお宝を持ってるんだからね」
「そうだな……そうしようかな」
……その後、ボルト厶はその財産を元に商売を始め、それと同時に孤児院を開設したと言う。『ボルトム孤児院』では“とある小さな魔法兵”の絵本が語り継がれる事となる。その絵本には、ある孤独な男が魔人に唆されて村人達に復讐しようとするが、小さな魔法兵がそれを止めさせ「復讐心は何も産まないよ」と諌められる話である。それは末永く孤児院のみならずこの州都で語り継がれる事になったのである……
事件から数ヶ月後、あの村では村長が村人達全てを惨殺するという凶悪な事件が勃発した。
[奴隷を失った魔人は村長という新たな奴隷を見付けて、村を滅ぼす]
コレが俺の描いた三方一両損。
魔人が驚くのも無理は無い……俺はあの村の人間を切って捨てたのだから。俺が助けたかったのはボルトムだけ……。それが達成出来ればそれで良い。俺はしがない魔法兵……正義の味方じゃないんだよ。魔人を手助けした様になるのは甚だ不本意だがね。
村長は逃げようとしたが、州王より派遣された大将軍の軍と激しい戦闘の末に首を跳ねられた。
その際に村長はこう叫んだと言う……。
『オレは必ず蘇りあの者に復讐する!!』
その後、村長の遺体は首と共に消えたという……。
その村長の名はルファトと言う。
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