表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔法兵ラダルは魔力が少ない!だから俺に魔力を分けてくれ!!  作者: 鬼戸アキラ
第一章 転生魔法兵誕生
37/160

閑話 ラダルからの手紙③

クロイフ視点のラダルからの手紙の話です。

終わった……終わってしまった……。

帰りの馬車でこれほど気分が沈んだまま乗るのは何時ぐらいぶりだろうか……。外の景色を眺めながらただただ呆然と事実を認識しようとしてる自分が居る。


「お帰りなさいませ会頭!!」


店に帰ると店員達のハキハキとした挨拶を受ける。私はいつも通り皆に挨拶をすると自分の執務室に入った。

そして自分の椅子に座るとゆっくりと深呼吸した。


「ふぅ〜…終わったか…」


私はラダル殿から頼まれていた家族への手紙と貯蓄の手渡しと『ヘスティア食堂』への手紙と貯蓄手渡しが終了した…皆は悲しんではいたが、彼が生きていると確信してる様でもあった。その様な皆の健気な姿を見ているとついつい目頭が熱くなってしまったが……。


しかし、自分に何かあった後の事を他の者に託しておくなど、とても11歳の子供が考え付く事ではない…。最初にその話を聞いた時には驚いてしまったが、色々と説明を受けると至極真っ当な話だと思ってしまった。確かに兵士は何があってもおかしくは無いからだ。

愛する家族や親しい友人に…最期の言葉を遺す。ちなみに彼はこの手紙を何度も書き直している。

もしかして彼はこの未来を予想していたのか?などと勘繰ってしまうほどである。


それにしても惜しい事になってしまった…私も長い事商売に携わり、それなりの地位を築いてきた。だからこそ彼の商才には驚愕と尊敬の念を抱いていたのだが…。

彼の話は最初だけ聞くと突拍子も無い事が多かったが、内容を掘り下げて聞くと恐ろしく理論的な物が多かった。

あのハンバーガーを売り出す際、私は高級品として貴族中心に売り出す予定だったが、彼は「庶民が買えてこそのハンバーガーだ。時間の無い人や移動する人が片手で食べられるから良いんだ」と言われた時には衝撃的だったものだ。それでも私は半信半疑であったのだが、実際安い値段で早い時間からやると朝飯代わりに買う人が続出して想定を超える大人気となった。

また、彼はハンバーガーの真似をする店が続出する筈だと予言し、実際この街ではその手の店が増えて来た。そして、彼は収拾のつかない値下げ争いになりだしたら、直ぐに手を引けと言い出した。しかもポテトの余りはポテトの薄切りでしのいで逃げろと儲かってる今の状況で撤退の時期まで考えていた。

彼の言った『本来、利益は美味しいトコばかり全部食えませんから、頭と尻尾はくれてやると良いですよ』と言うこの言葉は私の中の商売に関する考え方を打ち壊すものだった。誰もが早く早くと動き始め、もう少しもう少しと粘ってギリギリの線を狙うものだ。しかしそれは損失と隣り合わせである……彼はそれを平然と“頭と尻尾はくれてやれ”と言ったのだ。それは生涯にわたって私の財産になる言葉だと思っている。


そう言えば…ウッドランドのヘスティア殿に出会った頃「ラダルは伝説のエルフじゃ無いのか?」と問われた事があったな…その時は彼の家族を知っている私には奇想天外な発想だと思ったが、彼女がその様に思った事は今なら理解出来る。

確かに11歳…出会った頃は9歳だが、その頃から言動に不思議な所があった。私の仕事を手伝ってくれているシーガー殿から「不思議な子をスカウトした」という情報が入ってはいたのだが、まさかその不思議な子が私の人生をも変えようとは夢にも思わなかった。

そして私は彼に出会って直ぐから今まで彼を子供として扱った事が一度も無いのだ。時にはまるで年長者と話してる様な感じさえある。それであの発想力だ…しかも彼は何度か「借り物の知識だし…俺自身は大した事はないんですよ」と良く笑いながら言っていた。一体彼は何の知識を借りていたのだろうか?


やはり彼を商人として強引にでも引っ張っておけば良かったのだ…兵士で居るから良いと彼は言っていたが、それでも強引に…それをしなかったのは私の最大の失策だと思っている。恐らく死ぬまで後悔の念にかられるだろう。

しかし、転移の罠にハマった者が帰って来た事が無いのは事実としても、死んだのかと問われたら誰も分からぬのだろう…だから望みは捨てたくない。


その時コンコンとドアがノックされ従業員が入って来た。


「会頭、宜しいでしょうか?」


「うむ、どうかしたか?」


「先程、ラダル様の魔導具倉庫の掃除中にこの様な物を見付けまして…」


従業員が持って来たのは私宛の手紙であった。


『コレをクロイフさんが見ていると言う事は俺に何かしら起こったと言う事です。

クロイフさんには副長から紹介されて以来大変にお世話になりました。心から感謝致します。

恐らくはうちの家族や『ヘスティア食堂』に例の物を渡してくれた後かと思います。お手数おかけして申し訳ありませんでした。

これから先も実家の養鶏場や『ヘスティア食堂』の面倒を見て頂けたら幸いです。

さて、私の倉庫の魔導具ですが、全てクロイフさんに譲渡致します。今までのご恩から比べると些少なモノで申し訳ありませんが何卒お受け取り下さい。

後、ハンバーガー屋の件は全てクロイフさんの方にお任せします。丸投げになってしまいますが、クロイフさんの事ですから上手くやってくれると信じています。

後、別の紙に新作と新たなお店の素案をまとめてあります。調理については『ヘスティア食堂』のマルソーさんに相談しながら挑戦してみて下さい。

クロイフさんには何度も商人にならないかとお誘いを受けましたね。正直言いますと迷った事もあったのです。でも、兵士としての自分が居るからこそと言う気持ちは中々変えられず、クロイフさんにはお断りしてばかりで申し訳ありませんでした。

最期にクロイフさんの様な立派な商人と出会えた事、そして色々な事に一緒に挑戦出来た事は俺の中でお金以上の宝でした。

本当にお世話になりました。ラダル』


そしてもう一枚の用紙には三つの新しいメニューの案と米を使った新しいお店の素案が詳細に書かれていた。


彼はいつの間にこの様なものを書き残していたのだろう…。

そして私の目からは大粒の涙がこぼれて来た…何十年ぶりに私は泣いたのだろうか…。

このレシピは必ず商品化させる。米を使った新しいお店も…そして戻って来た時にラダル様を唸らせてやりたいと思う。


だから私はラダル様の帰りを待つ事にしよう…そう、それが良い…ウチへの入婿の望みは捨てませぬぞ!


お読み頂きありがとうございます。

この次から第二章の始まりとなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ