キーサリー戦役《中編》
帝国軍との戦いです。
アストレラ様を撤退させた俺は『隠密』を使いながら撤退しているカルディナス軍の陣まで急いだ。
しかし、上空から監視している『眼』の画像で帝国軍の部隊100名ほどがカルディナス軍の方に向かって進軍している。別動隊の様だ。
俺は先にそいつらを潰す事にした。
先ずは【エナジードレイン】で全員を指定し、【暴走する理力のスペクターワンド】を使った『千仞』で指揮官を含めた先頭の10名程を底無し沼に落とす。
「わぁ!!何だ??」
「た、助けてくれ!!」
周囲を見回しても俺は『隠密』を発動している。続けて『千仞』を連射してどんどんと底無し沼へ落として行く。
『千仞』は撃ってきた方向が分かるバレットと違い、何処から攻撃されているのかが魔法に通じた者が居ないと分からないのだ。この部隊にはそれが居ない。指揮官は最初に沈めているので残った烏合の衆では俺を感知出来無い。
パニックになったこいつ等はバラバラに逃げ出そうとするが『千仞』を撃ちまくって逃げ道を塞いだ場所に上手い事引っ掛かってソコに落ちている。
後20名程になった時にそこら中に魔法銃を撃ち始めた。
俺は盾を構えて魔法障壁も張りながら『千仞』を撃ちまくって残りも全員沈めた。
俺は全員の死亡を確認した後で千仞を解いて奴らの魔法銃を全て回収した。何丁かは壊れてたが、他は何とか使えるかも知れない。
俺は1丁を構えて発射してみる…がうんともすんとも言わない…まさか何かしらプロテクトが掛かってるのか??これ造った奴は本当にスゲェな…。ってか、この銃を間近で見てコレは俺と同じ”転生者”が造ったのではないかと…それまでは“そんな気がする”ぐらいの感じだったが、実物を見てほぼ確信の感じに変わっていた。何故ならこの銃は完全に“種子島”を型どっている銃だったからだ。コレだけ見事にトレースされていればそう思わざるおえない。ワザとかな?
だとしたらプロテクトは何か?指紋?音声?いやいや、そんな難しい物は出来ないだろう。
とすると…弄くり回すと銃の持ち手に埋め込まれた魔石を触ると動力が作動した。何だよぉ……プロテクトじゃ無くて単なるスイッチだったわ…魔力が貯まると引き金が引ける位置に戻る仕組みだ。チッ…全然簡単じゃねーか!!
撃ってみると俺の予想通り撃ち出されたのはバレットだった。しかもかなり強力な威力だ。それを可能にしてるのは長い銃身に仕込まれた二つの魔法陣だ。一つはバレットの発射速度を上げる魔法陣。そして、もう一つはバレットに高速回転を与えてる魔法陣の様である。
敵兵の持ち物を探ると魔石のストックが多い。つまりは魔石で撃てる様にしてる訳だ…んん?ちょっと待てよ……この魔石を入れるトコ…俺の魔法障壁の魔導具とクリソツじゃね?
そうか……判ったぞ!この魔法銃を造った天才君は俺の魔導具の残念製作者かよ!!なるほど…確かにヤツなら間違いなく天才だ。けど世界は広いようで狭いな!
『眼』を呼び寄せて腕輪とこの魔法銃を鑑定させた。
『魔法障壁の腕輪』
レベル︰C 属性︰無し
魔導具師アードリー=ブラムが製造。魔石を使って魔法障壁を張る事の出来る腕輪。最初は魔石のみで動かす様に設計されたが、燃費が悪い為に魔力でも使える様に改造された。簡単に使用出来ない様かなり複雑に魔法陣が組まれており、使用者には繊細かつ複雑な魔力操作が要求される。魔法障壁の強度はミスリルの盾の強度に匹敵する。その為燃費が悪く魔石では10秒程しか使用出来ない。
『魔法銃』
レベル︰C 属性︰土属性
魔導具師アードリー=ブラムが製造。銃身は鋳造製。魔石の魔力を増幅させ充填しバレットを撃ち出す。バレットを撃ち出す際にバレットの威力を増幅させる魔法陣とバレットを回転させる魔法陣を銃身に完備。バレットの威力は3倍、射程は4.5km。
こりゃあスゲェ威力だわ……こんなもん良く作ったなおい……。製作者はアードリー=ブラムか……この名前は覚えておこう。しかしコイツはローレシアの人間のはずだが、何故帝国に居るのだろうか??
取り敢えずカルディナス軍に銃と魔石は全部持って行くとしよう。俺は銃と魔石を魔導鞄に放り込んで先を目指した。
それからしばらく走ってやっとカルディナス軍に合流する事が出来たのである。
俺は銃と魔石を魔導鞄から取り出してから団長達の居る天幕に向かった。
「ラダルか??アストレラ様は?」
「宮廷魔導師団は全て退却させましたが、前衛の軍は壊滅的で、王国軍本隊もかなりの被害を負いました」
「なるほど…分った」
「それから、此方をご覧下さい」
俺は魔法銃を出して皆に見せる事にした。
「此方に来る途中に帝国軍100名程と遭遇、全員を討ち取り帝国軍新兵器を奪取しました」
「何だと!コレが帝国軍の新兵器か?!」
俺は撃ち方の説明をして射撃をしてみせると皆は驚きの声をさせた。
「外に奪取した魔法銃を置いてありますのでそれを使って見て下さい」
「しかし、100名も倒したのか?どうやった?」
「闇魔法の『隠密』を使って近付き『千仞』でひたすら底無しに沈めました」
「……何と言うか…相変わらず凄いモノよのう…」
何で団長は引いてるの?ゴンザレス隊長とタイラー副長は何笑いを堪えてんの??
……解せぬ。
「所詮は素人兵の集まりですから、司令官を先に倒せば大した事はありません」
「何?素人兵だと??」
「はい、この銃さえ使えば農民などの一般兵でも充分な戦力になります。宮廷魔導師よりも長い射程の魔導兵と同じです」
「コレは…とんでも無い物を帝国は作り上げたものだな…」
「本当にとんでもない魔法銃を創り出しましたね……なお、この魔法銃の製作者はアードリー=ブラムと言う魔導具技術者です」
「なっ……どうして製作者の名前まで知っているのだ??」
「それは俺の持っている魔法障壁の魔導具と同一の魔石を組み込む回路がこの魔法銃に組み込まれていたからです」
「何と……そのような物を手に入れていたのか?」
「この腕輪の魔導具はローレシアの街で手に入れました。製作者のアードリー=ブラムはローレシアの魔導具技術者です。どう言った経緯で帝国に行ったのかは不明ですが……。ウチの隊長は俺の魔法障壁の威力を知っていますから、この魔導具技術者アードリー=ブラムのレベルの高さは分かってもらえると思います」
ゴンザレス隊長は俺の言葉に頷いた。
「この魔法銃は戦争の形を変えてしまうかもしれません。下手をすると騎士の時代を終わらせる程の技術なのは間違いありません」
皆は無口となった。この新兵器は確かに戦のやり方を根本から変えるモノなのだ。
俺の『溶岩弾』の最大射程は2kmくらいだ。【暴走する理力のスペクターワンド】を使ってやっと6kmである。魔導兵でさえ3kmがやっとである。
でもコレは4,5kmの射程を持っている。つまり魔法兵と弓兵の需要は無くなる事を示している。更に騎馬隊もコレには勝てない。つまりこれを持った魔法銃歩兵だけが居れば良いのだ。
「さて、この後だが…もはや撤退以外の道は無さそうだな。どうだ?」
皆頷いている…今回は撤退して直ぐに対策を打たねばなるまい。
「殿は俺達4番隊が務める」
ゴンザレス隊長は当たり前の様に言った。それに反対したのは2番隊のベイカー隊長である。
「装備の面からも俺達の方が適任だろう?」
確かに重装歩兵ならば生き残る可能性は高いか…いや、この装備では駄目だな。
「お前達の装備はミスリルが少ない。敵の攻撃が貫通する可能性がある。その点正攻法じゃない俺達なら上手く交わせるだろう。それにタイラーが既に殿を勤める為の撤退用の策を用意しているからな」
タイラー副長はその言葉に頷いた。
「なるほど……では殿はゴンザレスに任せる。だがゴンザレスよ絶対に戻って来い…良いな?」
1番隊団長がゴンザレス隊長にそう言った。ゴンザレス隊長はニヤリと笑って
「美味い酒を用意しといてくれ」
こうして1番隊から3番隊まではダイラード伯爵を連れて急ぎ撤退した。
俺達は副長の指示の元、撤退の道程を確認する。
「先ずはこの地で迎え討ちながら時間稼ぎをする。そしてある程度時間が経ったらそのままこちらの道で撤退する」
すると歩兵の1人が副長に異議を唱えた。
「副長、我々の撤退する道にあるこの【転移の森】は危険です。所々に転移の罠が仕掛けられた森ですよ!」
「勿論知っている。その事を見越して案内人を何人か用意しているから安心してくれ。彼らはこの森を猟場にしてる狩人だ。罠の位置はお手の物だよ」
ほぇ〜流石は軍師、それも用意済みなのね…。
【転移の森】は古い昔に遺跡の城があったとされる樹海の森である。遺跡の城はもう無くなったのだが、それを守る様に配置されていた転移の罠が残っているという厄介な場所である。転移の罠にかかると何処かに飛ばされて戻って来た者は居ないので、ここら辺の猟師達には通称“帰らずの杜”とも呼ばれている。
「帝国軍の奴らはこの森の罠の位置は知らない。俺達は痕跡を消しながら来れば良いだけだ。そこら中に土魔法の跡があれば目眩しになるよな?」
そう言って俺の方を見てニヤリと笑う。俺は華麗にスルーしたが、まあ俺が殿の最後尾をやらされんのね…シクシク…。
もうヤケクソだ!!良いですとも!やってやろうじゃないの!!
お読み頂きありがとうございます。




