ラダル、理の力の初歩を知る
ラダルがスペクターワンドの初歩を使いこなす話です。
いよいよ第一章の終わりが近付いて来ました。
盗賊団をボコボコにして駐屯地に帰る途中にテントの中で『眼』が俺に変な事を言って来た。
《主は何でスペクターをちゃんと使わないの?》
「使わないんじゃ無くて使えないの。ずぶ濡れにされてるでしょ?」
《それは理の力を理解して無いからなの》
「その理の力ってのが何だか解らないの!」
《何時も使ってるの》
「は?」
《主は何時も理の力を使ってるの》
「え?え?ちょ、ちょっと待て…何時も使ってるって…魔法の事か?」
《そうなの》
「魔法の力を知れってか?…う〜ん…ますます解らん…」
《如何すれば魔法になるかを考えるの》
魔法は…魔力だ。魔力は…魔素の集まり…魔素は…この世界の何処にでもある物…ん?魔素を集めて魔力になる、そして魔力を…集めて魔法になる…集める…そうか、魔法とは集束と言う事か。ならば増幅も…そうか!増幅は膨れ上がるんじゃない…更に集束する事なのか!逆に考えてたから暴走してたんだ!!だとすれば…何だよ…俺は何をやってたんだ…理の力で俺は『魔力玉』を作ったんじゃないか!
俺はテントを飛び出して川の方に走って行った。そして『暴走する理力のスペクターワンド』を構えてウォーターボールを作りソレを膨らませるのでは無く、更に集束させて行く…するとウォーターボールが集束に合わせてどんどん巨大化して行く。そしてそれを放った!!
『ドッカーン!!』の音と共に川面に大きな水飛沫が起こる!!
「よしっしゃ!!やったせ!!」
思わずデカい声でガッツポーズを取った!!
遂にやったぜ!!コンチクショー!!
喜ぶ俺は突然頭を鷲掴みにされた…。
「オメェは夜中に何騒いでやがんたゴルァ!!!」
「イテテテテ!!ご、ごめんなさぁーい!イテテテテ!死ぬーー!!」
アイアンクローを嫌というほど食らった挙句、翌日は3倍の荷物を持たされて行軍させられた。
そんな死ぬ様な目に遭いながらも何日も行軍を続け、何とか領都に戻って来た俺は、その翌日『ヘスティア食堂』に顔を出した。
「いらっしゃ…ラダル!!」
そこに居たのはまさかのヘスティア師匠だった。
「し、師匠…お久しゅう御座います…」
感激して思わず膝をつきながら時代劇の様なセリフ回しをした俺とは対象的に、なにやってんの感が凄いヘスティア師匠…解せぬ!
「ラ、ラダルは元気そうだな。背が伸びたかな?」
「若干伸びましたが、まだまだ伸びますよ!師匠もお元気そうで何よりです。今日は薬草を持って来たのですか?」
「うむ、母と妹の顔も見たかったしな。勿論ラダルにも会いたかったぞ!」
そうだ、前回はコチラを留守にしてて会えなかったんだよなぁ〜。
「そうだ!前にマルソーさんから新作の料理を教えて貰って…アレは革新的な美味さでしたよ!流石は師匠です!」
「おお、アレを気に入ったのか?ならば今回もあの料理に使う薬草も沢山持って来たからな!」
「流石です師匠!!そうだ…師匠に見せたい薬草が有ったんだ…えっと…」
俺は魔導鞄に手を突っ込んで薬草袋を取り出す。中から取り出したのは赤い色の葉をした薬草だ。
「師匠、コレが王都で仕入れた薬草でクリューと言います。主に毒消しなのですが…ちょっと噛んでみて下さい」
師匠はクリューをちょっと噛むすると鼻を摘んで顔を上げた。そう、コレはワサビにそっくりな味がするのだ。
「コレは強烈だな…しかし、この辛味だけじゃなく少し甘みも有って…これは面白いな」
俺は早速厨房を借りて魔物のステーキを焼く。そして王都で仕入れた調味料とクリューをすり潰した物を合わせる。
「コレにつけて食べてみて下さい」
ヘスティア師匠はそれをつけて食べると目を大きく見開いて驚いていた。
「こ、これは美味い!この妙な色の調味料は何だ?」
「コレも王都で仕入れた調味料で、ショーユと言います。大豆で作られた発酵食品です」
そう、俺は王都を『眼』に探索させた時に、醤油らしき物を発見して直ぐに買いに行ったのだ。間違いない…醤油だ。ならば味噌もあるはずだと聞くと味噌も置いてあった。もうこれだけで料理の種類は桁違いに増える。
もう一つ聞いたのは米だ。インディカ米があるならジャポニカ米も有ると思っていたのだが、味噌も醤油もあるなら米も有るだろうと聞いてみたのだ。するとジャポニカ米はあると言う。但し、この王都ではあまり売れないので持って来てないと言う。俺は籾殻付きの物を1俵売って欲しいと頼むと奥から自分達で食べる分の米を出して来た。俺は礼を言って金貨を10枚店員さんに握らせて「米と味噌と醤油は定期的にカルディナス領都のテズール商会に送って欲しいと頼んで置いた。
そしてヘスティア師匠にジャポニカ米を見せると「こんな米が有るのか」と驚いていたので、「コレを作れば酒も美味いものが作れる」と話した。そう、泡盛と焼酎以外のもう一つ…日本酒が作れる筈だから。
クリアーする問題も有るのだがウッドランドの杜氏さん達なら何とかしてくれるだろう。
米は1俵そのままウッドランドに持って帰って貰うことにした。稲作についても水田を作らねばならないので、先ずは籾殻付きの物を水に入れて沈んだ物を発芽させる所から説明した。
「とにかく米は言った通りに作らせてみる。これから忙しくなりそうだ」
ヘスティア師匠は嬉しそうに言った。俺は醤油と味噌も持たせて新しい料理を作ってみてくれとお願いした。
俺の作ったワサビ醤油モドキでソフィーさんとアリシアもステーキを食べた。ソフィーさんは気に入った様だがアリシアは苦手の様だった。
「ウッ!ナニコレ…良く食べれるわね!!」
「これが食えないなんてお子ちゃまだなぁ〜プププ」
「ア、アンタもお子ちゃまでしょっ!!」
あっ、そうでした。俺もまだ可愛い盛りでしたね…。
その後、ヘスティア師匠から新作料理を伝授された俺は、師匠が帰る10日後まで毎日『ヘスティア食堂』に通い腕を磨いた。
その間の『ヘスティア食堂』はヘスティア師匠目当てのキモい連中でごった返していた。
まるでどっかのアイドルに群がるキモヲタみたいだ…世界が違っても野郎のこう言うトコは一緒なんだなぁ…。
ヘスティア師匠が帰る日、俺は非番で運良く見送りが出来た。師匠の馬車が見えなくなるまで見てたら、後ろからアリシアに「いつまで見てんのよ!」と蹴られた。師匠のお見送りは弟子として当然なのに…解せぬ。
…その後、ウッドランドはジャポニカ米も多く作られて日本酒の開発にも成功する事となるのだが、それはまだまだ先の話である…
俺はテズール商会にも顔を出し、クロイフさんに醤油と味噌の件を話すと了解してくれた。俺は醤油で「なんちゃってテリヤキ」のタレを作り、新作のテリヤキハンバーガーとして提案した。
「おお…コレはとても美味いですが…砂糖が問題ですなぁ…」
「デスヨネ…それの相談に来たのもあるんですよねぇ…何か安くて甘いやつあると良いのだけど…」
「うむ…ちょっと考えてみましょう」
砂糖は貴重品なので簡単には使えないからね…味は気に入った様なので何とかしてくれるだろう。
次に俺は遺跡シリーズのネックチェーンアーマーを買おうとしたが、物を視た『眼』がストップを掛けてきた。
《アレを買う事に意味無いの》
何でや?アレだって遺跡シリーズやないか。
今のミスリルの鎖帷子の上に装着すれば防御も上がるのに。
《そのうち取ってあるミスリルの鎧を着れる様になるの》
まあ、そりゃあそうだけどさ…。
《それよりもリュックの丈夫なのを買うの》
あ〜、そう言えば魔導鞄を保護する為にリュック買おうと思ってたんだ…忘れてた。
「クロイフさん、リュックの良い奴無いですかね?頑丈そうなので」
「リュックですか?うーん…そうだ!アレがあったな!ちょっとお待ちを…」
クロイフさんが持って来たのは茶色いリュック…と言うか…コレってチョイ縦長のランドセルっぽくね?
「以前、とある貴族がオーダーしたと言うリュックです。変わった形ですがかなり機能的です。この金具を回すとロックが外れて鞄のかぶせが大きく開きます。大マチ部分にお持ちの魔導鞄も入ります。ポケットも付いてますから小物も直ぐに取り出せます。肩紐と下紐でベルト調節出来ますし、鞄との繋ぎ目も金属製ですので頑丈です。下紐の繋ぎ目は左右に動きますから背負いやすいです。全てワイバーンの革を使っていますので軽くて丈夫な完全防水製です。また、かぶせの表側や肩紐の表面は甲皇蟲の抜け殻を細長く貼り合わせ補強されてます。あっ、金属部品は全てミスリルです」
え〜っと…最早、背負う鎧だろコレ…一体何目的で作らせたんだ?
「こんな凄いのが何故…今、此処に?」
「ああ…その貴族は機能的なのは認めて頂いたのですが、もっと派手なのが良いと…それで流れて来たんです」
貴族ってのくだらない事にこだわる馬鹿が多いな…確かにこのリュックは地味で派手さは無いけど、軽くて頑丈この上ないし機能的だ。
「おいくらでしょう?」
「10白金貨で如何でしょう?かなり安くしております」
「えっ、マジですか……安くないですか?桁がかなり違う様な…」
「まあ、普通にオーダーして作らせたら100〜250って所でしょうね。しかし、コレは見た目の派手さが無いので貴族受けが悪い…ですから金を持つ人達に不人気なので中々売れないのですよ。運良くオーダーした貴族からは製作者にこの分も代金が入ってるので安くても問題ないのです」
「買います…」
「毎度ありがとう御座います!!」
こうしてほぼランドセルを手に入れた俺は、見た目が更に小学生になった。って、やかましいわ!!
《良い物を買ったの》
ああ、確かに今迄使ってた革のリュックよりも全然軽いわ…。コレで魔導鞄を守るどころか俺の背中も守られるよ。甲皇蟲の抜け殻だぞ!?ミスリルの刃も通らないって代物だぞ!まさにコレ、一生モノです。
そして…この2ヶ月後に起こったヘルサードの隣国、『デスパース帝国』との戦争…これが俺の”カルディナス侯爵軍4番隊の魔法兵”として最期の戦いとなった。
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