開店!ヘスティア食堂
領都にヘスティアの食堂が出来る物語です。
ウッドランドを基点として山岳地帯の調査は進んで、7ヶ月後にはほぼ全ての調査が終了した。
またミスリルの採掘も極秘裏に始まっており、王家から代官もやって来た。このやって来た代官は侯爵閣下とは王立学院時代の先輩後輩の間柄だそうで、副長の話では王家もミスリルの件を直ぐに報告をして来た事や、ローレシア侵攻を単体で食い止めた実績を買っての人事では無いかとの事だった。
因みにウッドランドの人々は何故ミスリルを採掘しなかったのかについて聞いた所、かつてローレシアに居た頃にミスリルを採掘して生計を立てていたのだが、それをローレシアに目を付けられ、攻め込まれて追い出されたらしい。
その為、ミスリルは悪魔の石だと言われ続けて放ったらかしにしてたと言う。
結果的にはその行動が今のウッドランドを助けた事になる。
調査が終わった為に俺達はカルディナスの駐屯地に戻る事になった。警備隊の人数が増員されてコチラの警備も出来る様になった為だ。
ウッドランドには既にテズール商会が支店を出して交易がかなり進んでいる。
あの泡盛が『アワモリ』として売られ、カルディナスで爆発的ヒットになり、ウッドランドは『酒の村』として認知されるに至った。俺が「泡盛」と呼んでいるのをモルトンが聞いて、そのまま『アワモリ』と名付けたのだ。
また、俺がモルトンに泡盛が有るなら焼酎も出来るんじゃ無いか?と教えた事から芋焼酎の製造に着手した。そのうちウッドランド産の芋焼酎が出回る事になるだろう。
その『アワモリ』の製造に関して不思議な事があった。何故さほど暑くないこの地で泡盛が出来たのか?と言う事である。本来泡盛は暑い地域の酒なので何故泡盛なのかと不思議に思っていたのだ。それに関してモルトンに聞くと、仕込みには地熱を使っているのだと言う。地熱のある洞窟で作るので高温だが一定の温度管理が出来るとだという。
なるほどね〜地熱かあ〜…ん?ちょい待てよ…そうなれば温泉もあるんじゃね?って事で温泉の源泉を探したら川の上流から少し離れた場所で硫黄の匂いと湯気が上がっていた。
何でも村の人々はニオイと湯気で『悪魔が住む』とか言って近寄らなかったらしい。
俺は土魔法で溝を掘り源泉を村の近くまで引いて、源泉かけ流しの温泉を作った。
最初は皆が呆れたような顔をしてたが、一回入るとその虜になった。
結果として村は共同浴場を作る事になった。
いずれは健康ランド的な物も作りなさいとモルトンにはサウナや色々な湯船の事も、宴会する場所や温泉まんじゅうや温泉卵、ビンゴゲームに至るまで話しておいた。出来るかどうかは知らんけど。
俺がヘスティア師匠から教えてもらった料理は全部で44の種類にもなった。
俺はヘスティア師匠にコレを元にカルディナス領都で誰かに食堂をやらせなさいと提案した。絶対に商売ベースになると踏んだからである。ヘスティア師匠は笑って相手にしなかったので、試しに3日間限定の食堂をウッドランドに作って『ヘスティア食堂』を開催した所、物凄い数の客が押し寄せ(その殆どは4番隊と調査隊の連中だが)俺も引くほど売れまくった。それを見たマルソーさんが一大決心をしてカルディナスの領都で店をやると宣言した。
俺はグズるヘスティア師匠をマルソーさんと説得し、テズール商会のクロイフさんに紹介する事にして、俺達と領都に一緒に行く事となった。マルソーさんにくっついてアリシアも来るという。
予め手紙で詳細をクロイフさんに送った所、金のニオイを敏感に感じたのか、クロイフさんが直々に村までやって来たのには流石に驚いたなあ。
「コレは素晴らしい!!間違いなくイケますよ!!」
ヘスティア師匠の料理に大感動した様で、直ちに戻って店の選定から改造まで一手に引き受けるとその日の内に戻って行った。まるで台風みたいな人だな…。
帰りがけに小声で「ウチの娘も負けない器量は有りますから!」と謎の言葉を残してクロイフさんは去って行った…。
そんなこんなで2ヶ月後に俺達はウッドランドを離れる事となった。
「ラダル、うちの母と妹を頼む。半年に一度は顔を出すから」
「俺もクロイフさんも居るから大丈夫ですよ。その内ゆっくり顔出しして下さい」
「うむ、分かった。何だか…ラダルが居ないと寂しくなるな…」
「あら、そんな事言うなら付いてくれば良いのにねぇ〜」
悪い笑顔のマルソーさんに突っ込まれるヘスティア師匠。
「うっ…そ、それは…私にはウッドランドの警備という立場が…」
「お姉ちゃん居なくても私が居るから大丈夫よ!!まっかせなさーい!!」
と謎の自信を語るアリシアにヘスティア師匠はこう言い放つ。
「…だから心配なんだ…」
マルソーさんは大笑いしてるし、アリシアはプンプン怒っていた。
「おお、随分と賑やかじゃな。ホッホッホ」
モルトンさん登場である。最近は酒造りと温泉の開発で忙しいみたいだ。
「ラダル殿には色々感謝しておるよ。新しい芋焼酎が出来たら直ぐに送るからな。楽しみにしておれよ」
「俺、未成年なので飲めませんよ…」
「何をいうかと思えば…ワシの頃は6歳で飲んでたわい、だらしないのう…」
「それはアカン奴だと思いますよ…」
「それでな、芋焼酎の名前は『ラダル』にするからのう」
「それだけはやめて!!」
芋焼酎に可愛い盛りの子供の名前とかつけないでよ!!どっかの有○倶楽部になっちまうじゃねーの!!
「そうか?良いと思うのじゃが…温泉は『ラダル温泉』に決まったから、酒も一緒の方がエエと思ったんじゃがのう…」
「イヤイヤ、何言ってるんですか!温泉の方も止めて下さいよ!!」
「そっちはもう看板も作り終わったから無理じゃ。もう2週間有れば入れたのにのう…」
「うっ…その内コッチに来ますから…その時でも…」
俺は温泉の方は泣く泣く諦めた。
その後、4番隊の何人かがヘスティア師匠に告白しては『ゴメンナサイ』と轟沈しているのを生温い目で見ながら帰る準備を進めた。
そして警備隊との引き継ぎを終え、ウッドランドを後にした俺達4番隊と調査隊は、新領地を離れて領都に向かって行進した。
領都に向かう途中で3番隊と合流した。3番隊は海側の視察をしていたという。海側の街はラストークというソコソコ大きな港町であり、漁業と塩田による塩交易の街だそうだ。3番隊はその港を更に大きくする為に土木工事をやらされていたらしい。土魔法を使って大規模に行なったと言う。そして大型の船を造らせる為の造船所の土木工事も一緒にやっていた様である……本当にご苦労さまです。
何でも既にテズール商会が店を構えて塩交易に一枚噛んでるという。流石はクロイフさん……金の匂いには敏感だな。
約1ヶ月ほどで領都に戻った俺達は侯爵閣下よりしばらくの休暇を認められた。
俺は早速、クロイフさんの所に行って『ヘスティア食堂』の準備の手伝いに行った。マルソーさんに「何故『マルソー食堂』にしなかったの?」と聞くと「あの子がこの食堂の主だからよ」と笑いながら答えていた。恐らくはヘスティア師匠に後を継がせるつもりなのだろう。でも、ヘスティア師匠が大人しく食堂の主になるとは思えないのだけどね……。
店に必要な魔導コンロや魔導鍋は俺の魔導具コレクションからプレゼントした。言い出しっぺは俺なのだからこのくらいはして置かないとね。
薬草等はウッドランドから送られて来るので安心だし、最悪、足りなくなればテズール商会に頼めば良いし、俺も暇な時は薬草を採りに行っても大丈夫だからね。
2週間後には『ヘスティア食堂』の開店となったが、ウッドランドで臨時営業をした時に、ヘスティア師匠の料理の沼にハマった4番隊の連中や調査隊などが大挙して押し寄せた。行列は人を呼びその料理の沼にハマる人達が続出した。それはそうだろう…この料理は美味しいだげじゃなく薬膳料理でもあるからだ。
ある貴族のご婦人がやって来た時に冷え症に悩んでると聞いたマルソーさんが、冷え症に効果のある薬草の入ったポトフを食べさせるとその日から少しづつ調子が良くなったと感謝され常連客となったのだ。
他にも胃腸の弱い人に優しい料理を提供しては具合が良くなったとそれが噂となり『病にも効く美味しい料理』と言うイメージが店にもついたのだ。
そんなこんなで2ヶ月ほどは大変な感じだったと言う。その後、店の人員を増やしたのと皆がオペレーションに慣れて来た事もあり、順調に回転するようになり領都の人気店として認知されるようになった。
俺も暇な時はアドバイザーとして店には顔を出したり、『ラダルのオススメ』という不定期に俺のレシピ(前世の記憶にあるヤツのパクり)を提供させたりした。
その中でも人気になったのがハンバーガーとフライドポテトのセットである。手軽に食べられると冒険者や兵士達、それに街の職人達にもテイクアウトでの注文が殺到した。
それに目を付けたクロイフさんが俺に話を持ち掛けてハンバーガーとフライドポテトの店を共同オープンさせる事になる。
それが結果としてハンバーガーとフライドポテトが王国全土に広まる事となるキッカケとなった。
魔導具の売れ具合やヘスティア食堂やハンバーガーの店の繁盛などもあり、俺にも多少の…と言うにはかなり多い資金が流れて来た。俺はこの頃からクロイフさんに頼んで資金の半分をとある貯蓄に回す事にした。
クロイフさんは何度も俺に軍を辞めてテズール商会に来てくれと話を持ち掛けて来た。王都の支店を任せたいとまで言ってくれた。
しかし、俺は何となくだが軍を抜ける事を良しとしなかった。やはり魔法兵として隊の伍長としての仕事に誇りのようなものを持ち始めていたからかもしれない。
それでも諦めないクロイフさんの娘推しには閉口したが、紹介されたクロイフさんの娘は確かにとても可愛かったよ。3歳だったけどね!!
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