かつての相棒
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枢機卿の屋敷に転移した俺たちは直ぐに屋敷に入った。
「お嬢様!その者達は??!」
「丁度良かったわリファエル、父上に『魔法兵のラダル』を連れて来たと伝えて」
リファエルと呼ばれた執事っぽいオッサンが急いで屋敷へと入って行った。
「うーん…俺は元魔法兵なのだけどなぁ…」
「そんなのはどっちでも良いわよ!とにかく屋敷に入りましょう」
ここら辺の適当な感じは成る程ロザリアの子孫だなぁ〜などと思ってしまう。それに何処となく面影もあるしね。そのまま屋敷の2階にある執務室へと案内される。どうやら執務室の位置は変わってない様だね。エアリアは執務室の扉を開ける。
「お父様!あのラダルが現れたわ!」
「落ち着きなさいエアリア……君がラダル殿かな?」
「ええ…元魔法兵のラダルです」
《我は『眼』なの》
「そうか……遂に現れたか……本当に予言通りだな。初めてお目に掛かるラダル殿、私はアントニオ=リストリアだ。枢機卿をやっている」
アントニオと名乗る枢機卿はロザリアの父親だったローディアスに良く似ている。もう少しローディアスはガタイも良くて野生味がある感じだったけどね。
「アントニオ枢機卿はローディアス枢機卿に似てますよ」
すると一瞬驚いた様な顔をした後、直ぐに柔らかな表情に変わった。
「ローディアス…リストリア家の初代と似てますか?それは光栄ですね…祖父から伝え聞いた話では型破りな方だったと」
「ええ、元冒険者でしたからね。貴族っぽくは無い豪快な感じでした。その割に娘に滅法弱い人でしたよ。月と星の儀式の時にロザリアの姿を見て儀式の最中に号泣したんだよなぁ。その後ロザリアがエラい怒ってたからね」
「!!その話は本当なのですね?ロザリア様の日記に記されていましたが…」
「そりゃあもう、周りが引くほど号泣してましたよ」
「…お父様が号泣しなくて良かったわ…目は真っ赤だったけど…じゃあ私は用意して来るわ」
エアリアはそのまま執務室を出て行った。
「ラダル殿、貴方から見てエアリアはどうでしょうか?」
アントニオ枢機卿は心配そうに聞いてきた。
「ハッキリ言うと修行不足ですね。俺の知るロザリアの実力の足元にも及びません…今の段階では…と言う話ですが」
「では、素質はあると?」
「それは大丈夫かと。五行の修行をみっちり付ければある程度は…その先も俺に考えが有りますので何とかなると思います」
「そうですか!ホッとしました…」
父親としては自分の娘の実力が心配だったのだろうね。本当に安堵している様だった。
「それよりも『絶界の洞窟』にキラが居ると聞いたのですが……」
するとアントニオ枢機卿はホッとしていた顔を引き締めて話し出した。
「ロザリア様の日記では闇聖との戦いの後、こちらに戻られたロザリア様の元にキラがやって来たと。そしてロザリア様と『光の神子』の仕事を手伝っていましたが、ロザリア様がお亡くなりになった後、キラは難攻不落と言われた『絶界の洞窟』に潜ったと言われております。その後キラを見た者はおりませぬ」
「じゃあその洞窟に潜ったままなのですね?」
「恐らくはもう生きて居ないのでは無いでしょうか…。あの洞窟が難攻不落と呼ばれるのには訳があるのです」
「訳?一体どんな訳が?」
「あの洞窟の最深部には伝説の邪龍『ヒュードラー』が居ると言われております。『ヒュードラー』は不死身の邪龍ですから…」
「不死身…うーん……それなら大丈夫だと思うけどなぁ…」
「如何に『光の神子』の眷属であったキラと言えどもあの不死身の邪龍には勝てますまい」
「いや、キラも不死身だからね」
「は?キラが不死身ですと??」
「やっぱりアントニオ枢機卿は知らなかったのかぁ。キラはキマイラだから不死身なのですよ。それにキラは元は闇の属性だった俺の眷属だったんだ。もしそのヒュードラーが不死身なら戦いに決着が着いてないか、あるいは何か他の理由で出て来れない可能性が高そうだなぁ」
「なっ…何と……キラはラダル殿の眷属だったのですか……」
「そうだよ。俺が魔法を使えなくなった時点でキラをロザリアに預けたんだ。まあロザリアの用心棒としての意味合いが強かったんだけど。だからキラが死ぬ事は考えられないね。俺の勘だとキラを更に強くさせる為にロザリアが命じたんじゃないかな?来たるべく闇聖との戦いの為にね」
「成る程……それでロザリア様がキラを『絶界の洞窟』に向かわせた可能性が高いと……ふむ、有り得なく無い話ですな」
「やはり迎えに行かないとならない様だなぁ。おい『眼』最深部まで飛べるか?」
《もちろん行けるの》
「ほう…俺の前の主がそこまで行ったか?」
《違うの。キラについて行っただけなの》
「マジか??まあ、簡単にヤラれる奴ではないけど、キラは大丈夫なんだろうな?」
《多分大丈夫なの》
「多分って……とにかく、エアリアの準備が出来次第『絶界の洞窟』最深部に向かうぞ」
《了解なの》
俺はエアリアの支度が終わるまでアントニオ枢機卿と色々と話をした。まだ闇聖ゼスが動き出した予兆は観測されて居ないと言っていたが、俺の中では闇聖ゼスは何か企んでいるという考えが消える事は無かった。勘の様なモノだし何かある訳では勿論ない…しかし、あの闇聖の事だ、そのまま俺の前に現れるとは到底思えない。
そのような事を考えているとエアリアが支度を終えてやって来た。その姿を見てアントニオ枢機卿が頭を抱えている。
「準備は終わったわ!!」
「エアリア、またそんな軽装で……」
「あんな重たくて大きな鎧なんて着れる訳ないでしょ!!」
「そうは言ってもだな……」
「アントニオ枢機卿、それで充分ですよ。エアリアは光の御子ですから速さを旨とします。重装備は返って危険を招きますよ」
俺がアントニオ枢機卿に話をするとエアリアは何故か得意満面で父親を見ている。俺はエアリアが腰のベルトに差している懐かしいワンドを見つけた。
「懐かしいなぁ、【暴走する理力のスペクターワンド】か」
「あら、良く知ってるわね?これはロザリア様がいつも肌身離さず持ち歩いていたワンドなのよ!」
「そうか……アイツ大事にしてくれてたんだなぁ。ところでエアリアは使いこなせてるのか?」
「ば、馬鹿にしないでよ!こう見えても私は『光の御子』なんだからね!」
「そう?まあ使い方に困ったら俺に言えよ?ロザリアに渡す前は俺の武器だったんだからな。そいつ中々のジャジャ馬だぞ。フハハハ!」
そう笑って言うとエアリアもアントニオ枢機卿も目を丸くして驚いていた。まあ、コレが元は俺の武器だったとは知らんだろうから仕方ないよな。
「つ、使いこなして見せるわよ!見てなさい!」
「……やっぱり使いこなせて無いのか……やはり五行の修行は急務だな」
するとエアリアの腰に差してある【暴走する理力のスペクターワンド】が赤く光り出した。
「なっ、何なの??」
「どうやら昔の持ち主の事を忘れて無かった様だね」
俺は【暴走する理力のスペクターワンド】に少し触りながら話し掛ける。
「よう、スペクターワンド、懐かしいな。俺は魔力を失ってもうお前を使いこなせない。だから、このエアリアと仲良くやってくれ。必ずお前のお眼鏡に適う術者に成長させるからさ」
すると【暴走する理力のスペクターワンド】は俺の声に呼応する様に更に赤く光り輝き、そして元の焼け焦げたワンドに戻った。
「もう!一体何なのよ!!」
「元の相棒が俺に挨拶して来たんだよ。エアリアもコイツの良い相棒になれる様に頑張れよ」
エアリアは【暴走する理力のスペクターワンド】を見ながら俺に向かって宣言する。
「私を誰だと思っているのよ!光の御子の実力見せてあげるわ!」
「じゃあ五行の修行をバッチリ頑張らないとな。手加減無しで行くから…覚悟する様にね」
それを聞いたエアリアは引き攣った様な顔でコチラを見た。こりゃあ手が掛かりそうだね……。