ウッドランドのヘスティア
ヘスティアとの出会いの物語です。
春になるとまた新しい領地の山岳地帯調査隊に随行し、警備を担当する事となった。
俺は冬の間に買い入れた遺跡のブーツと、その後に商談中だった魔導具が売れたので、その売上金で購入した遺跡のケトルヘルムを装備して警備に向かった。
「伍長、前のヘルムの方が格好良くね?」
「コッチの方が硬いんだよね。中古だけどさ性能重視だよ」
「ふ〜ん。そんなもんか」
副長は遺跡の物だと気付いていて、行軍する前に「おっ、珍しいの被ってるな…また変なモン手に入れやがって」と笑いながら言われた…解せぬ。
山の中を切り開きながら進むので行軍も大変なのだが、ブーツがフィットしてるせいなのか疲れが殆ど無い。また足元が滑らないのも疲れない事に貢献している様だ。
また、ケトルヘルムは前のヘルムよりも軽いので、首への負担が段違いに低い。長く被っていればその違いは明らかだ。
足取りも軽く山の道なき道を軽やかに歩く俺を見て皆は「遂に体力も底無しになったか?まるで散歩してるみたいだ」などと言っている。
だが、俺はこの時は気付いて居なかったが、あの馬鹿店主が取って置きと言って出して来た微回復のペンダント、コレが俺の疲労を回復していたのを大分後になって気付く事になる。
魔物も適度に出て来るが、多くはないので倒しやすい。怪我人なども出る事は無く調査も順調に進んでいた。
3週間ほど経ったある日、俺達は突然謎の集団から攻撃を受けた。そいつ等は弓矢で攻撃をして来て何人か怪我を負った。しかも毒を塗っている様で、怪我人は歩行不能まで弱ってしまった。俺はケトルヘルムの鍔に矢が当たり難を逃れた。俺は殿となり他の者を逃がす。副長と合流した俺達は隊長に合図を送り、怪我人の治療と陣地の確保を行なった。
隊長は思っていたよりも早くかけつけて、直ぐに突撃せずに様子を伺いながら槍兵をガッチリ盾で固めさせ進軍した。
敵は弓矢で攻撃して来たが槍兵のブロックで全く此方には被害が出ない。
俺達は矢が飛んで来た方向に魔法や矢を撃ち込んで行った。
その内、俺の『溶岩砲』や他の魔法兵の風魔法で敵の何人かを倒した。
倒れた者に近づくと見た事の無い木で作った軽鎧を装備していた。
息のある者に尋問すると「我々は森の民ウッドランド、侵略者には屈しない」などとほざいたので「お前らウッドランドの連中はイキナリ攻撃するのが常識なのか?仕掛けて来たのは貴様らだぞ」と言うと「そんな事は知らぬ」などと全く意に返さない。
それを見てゴンサレス隊長はイキナリ魔力を全開に…いや、あの時よりは加減してるが…ソイツに向かい「お前らは先制攻撃をしたという意味が解ってない様だな?それは全滅させられても文句は言えないって意味だからな」と恐ろしい形相でソイツに言うと気絶してたよ。
ゴンサレス隊長はそのまま森の方に向かい魔力を乗せて叫ぶ。
「俺はカルディナス侯爵軍4番隊の隊長ゴンサレスだ!!貴様等ウッドランドは我々に先制攻撃を仕掛けた!!代表者は直ぐにコチラに来て弁明しろ!!さもなくば全力で攻撃する!!その時は全滅覚悟で立ち向かって来い!!」
ウホ〜〜!!スゲー迫力だわね。
血の匂いにつられて来てた魔物が一気に散ったよ。
しばらくすると森の中から代表者らしい爺様が結構な魔力を持つ二人と共にやって来た。
この爺様も侮れない魔力持ちだな…。
「ワシがウッドランドの長でモルトンと申す。今回行き違いがあり、此方が早まった様じゃ謝罪する」
警戒を解かない隊長に代わりタイラー副長がモルトンに話をする。
「我々は調査隊としてこの地を調査している。我がカルディナス侯爵家の領地として王家から拝領された為だ。此処に住んでいるのならばそれは構わぬ。我々に恭順の意を示せば此方が攻撃する事は無い。ただし、敵対するならば別だ。我々は敵対する者は絶対に許さないし逃さない。警告無き先制攻撃は即敵対と見なされる」
「うむ、そちらの申す通りじゃ。このまま攻められても此方が先制攻撃をした事には変わり無い。だが敵対の意思は無いのでな…どうだ、ワシの首一つで矛を収めてくれぬか?」
「なっ!?長老!!」
「何を馬鹿な事を!!」
うわあ〜この二人は聞いてなかったのね…こりゃあ揉めるぞ…。
すると突然ゴンサレス隊長が全開に魔力を高めた!!凄いプレッシャーだ!
「じいさん、良い覚悟だ。オレが引導を渡してやる。前に出ろ」
モルトンの前に二人が立ち塞がる!が、プレッシャーで膝をつく…ん??この二人…女の人か??
モルトンは二人の頭を撫でる様にした後、ゴンサレス隊長の前にヒョイと出て来た。簡単にやってるがこの人の胆力も半端ないね。
「良い覚悟だ。行くぞ…グラアアア!!」
ゴンサレス隊長は金棒を振りかぶり一気にそれを振り下ろした!!
だが、ゴンサレス隊長の金棒はモルトンの頭のギリギリで止められていた。
「フハハハ!!中々大した胆力だ!気に入ったぞじいさん!!」
その瞬間も閉じられる事の無かった目を驚いた様に見開いて、隊長に話し掛ける。
「何ともまあ…寿命が縮まったわい…」
「そんな訳は無かろう!返って寿命が延びたはずだ!!フハハハ!!さあ、案内しろ!酒は有るんだろ?飲もうじゃないか!!」
「…何とも豪気な漢よ…さあ、こちらに来られよ。客人として招待するでな」
モルトンはそのまま隊長を案内する様に先に進む。副長以下、俺達も警戒は解かずについて行く。二人の女性はそのまま前に行き先触れをするようだ。
森の中にソコソコ大きい村が有った…村というよりは町に近いか。周りに木の壁を作り、ぐるりと囲っている。
中に入ると森の民は驚いた様子で此方を伺いながら見ている。
俺達4番隊は3分の2を外で警戒させ、3分の1を村の中で隊長の護衛をする。
大きい家がモルトンの家なのだろう。我々はそこに案内される。
俺は副長の目配せで入り口の側で警戒する。何かあれば直ぐに援護しながら脱出口を確保する為だ。
「フハハハ!ラダル!お前もそんなトコに突っ立ってないでコッチに来い!」
「隊長、俺は未成年なので飲めません」
「ん?そうだったな…ジジ臭いクセにそういうトコだけはしっかり子供だな」
今日は不気味とか言われなかったから良かった。ジジ臭いは仕方無い。多分ここに居る中でモルトンの次にジジイだからな…前世も含めると。
何か酒持ってきたら話もせずにガンガン飲みまくってんですけど…ってモルトンもジジイのクセに強ええ!!隊長とタメで飲んでるよ!それとシュレン、外から涎垂らして見るの止めなさいよ。
結構いい時間飲んでから隊長はモルトンと話をしだした…こっからかよ!
「ああ、良い酒だ。コレなら領内で人気になるぞ。ハッハッハ!!」
「ほうほう、そんなに美味かったかの?」
「うむ、此方には無い酒だ。侯爵閣下も酒には目が無いからな!きっと気に入る」
「ではご挨拶にいくつか進呈しようかの」
「それが良い。その後はコッチに商人を回す。そいつに売ってそいつから物を買え。それで人気が出たら領内で売り出す手初を商人としろ。それで村は潤う」
「我々を追い出さぬのか?」
「せっかく領内に民が居るのに追い出してどうする?そのまま此方に付けば問題ねぇよ。お前たちがどうしても俺達とやって行けねぇなら仕方ねぇがな」
「我々は向こう側から追い出されたのでな…遥か昔だが…」
「ローレシアか?お前らローレシアの民だったのか?」
「いや、ワシらの祖先はローレシアとの戦いに敗れたのじゃ。だから山を越えてここに住んだ」
「それなら尚更都合が良い。我ら王国はローレシアと敵対中だ」
「何と…あの強国ローレシアと事を構えておるのか?」
「勝手に宣戦布告して来たんだ。コッチが知るかよ。まあ、ボコボコにしてやったがな。コイツはそん時倒した敵将から頂いたもんだぜ」
そう言って赤い金棒を手に取ってモルトンに見せる。
「ローレシアに勝ったのか?そうか…あのローレシアにのう…」
隊長は酒をグッと一気飲みしてこう言った。
「ウッドランドが生き残りたいならこの話を受けろよじいさん。オレが悪い様にはしねぇよ」
「…全く…何と言うか…裏表が無い奴じゃのう…そんなんで出世出来るのか?」
「みたくれの出世なんざいらねぇよ。オレは強くなる。そうすりゃあそんなモンは後から付いて来らあ。コレでもオレは一応騎士将なんだぜ」
「ホッホッホ、分かった分かった。ゴンサレスよ、ウッドランドはお主について行こうぞ」
「そうか。ならば祝い酒だ飲め飲め!!ガハハハ!!」
それからは村を上げての祝杯となった。
俺はまだお子ちゃまだから飲めないけど…。
それから調査隊の隊長までやって来てのどんちゃん騒ぎには閉口したが、まあ、仲良くなって良かったんじゃね?
飲めない俺は村の入り口の警護に回された。
それでタマにやって来る魔物を『溶岩弾』で仕留めているとモルトンのじいさんに付いて来た、あの結構な魔力量の女性の片割れがやって来た。あの時はナイトヘルムみたいなフルガードの被ってたから分からなかったが中々の美人ですよ。
「食事を持って来たが…魔物か?」
「ああ、ありがとう御座います。其処に置いといて下さい。ちょっとコッチを血抜きとかしますから」
俺は魔物をまた水魔法を使い血抜きして血は土魔法で穴を掘って埋める。魔物は内臓も綺麗に取り出しては穴を掘って埋める。皮を剥いでから肉を切り出す。そしてリュックに入れるフリをして魔導鞄に入れておく。
そのお姉さんは待っててくれた。そうか、皿の片付けがあるのか。
「うむ…中々、魔物を捌くのが上手いな」
「村ではガキの頃からずっと魔物狩りしてたからね。自然と身に付くよ」
「ほう…今いくつだ?」
「俺は10歳だよ」
「10歳だと?そんな歳で軍隊に入れるのか?」
「うん、実力次第で推挙されるからね。俺は9歳の頃に推挙されてこの4番隊に入れて貰ったから。まあ最年少らしいけど」
「信じられぬ…怖くないのか??」
「う〜ん…魔物狩りよりマシかな。仲間も居るし」
「強いのだな…少年」
「俺はラダルだよ。この隊で伍長をしてます」
「私はヘスティアだ…その上その歳で伍長なのか?優秀なのだな」
「俺は自分が優秀だとはとても…上官達が怪物なのでね。まあ運は良いのかも知れないけど」
などと話しているとまた魔物が現れた。今度は狼の魔物だ。俺は気配を感じ取って居たので『溶岩弾』直ぐに撃ち込んで始末した。
するとヘスティアさんが驚いた様に目を見開いていた。
「アレに気付いていたのか?それに無詠唱…起動の速さ、しかもその魔法は…そうだ…合成魔法か」
「うんそうだよ。合成魔法は見た事有るのかい?」
「ああ、昔だがウチにも一人合成魔法の使い手が居たよ。ソイツは火魔法と風魔法の合成魔法を使い『火炎旋風』を使ってた。しかし森の中では使い難くてな…結局、色々あって村を出て行ったよ…」
「ふーん。俺は風魔法が使えないからなぁ〜羨ましいよ。火、水、土魔法しか使えないしねえ…」
「…3属性使えれば大したものだが…」
「あっ、そういう意味じゃ無くて…上の属性が使えないって意味でね…」
「ああ、上位属性か。しかしその魔力量なら使える筈だがな」
「コレね…俺のこの魔力量は普通とはちょっと違うからなぁ〜」
と言いつつ『魔力玉』の事を教える訳にもいかないので、俺は話を逸らす為に狼の魔物の血抜きと解体をしに行く。しかし魔物が良く出てくるなあ。
「此処は魔物がソコソコ出るね。何か多くない?」
「ん?ああ、最近多くなった。調べて居るか原因が分からない」
「ふーん。ならウチの方で調べてもらうか。調査隊の人なら何か分かるかも」
「なるほど。それなら私が頼んてみよう」
「俺からも言っときますよ」
俺は解体を終わらせて飯を食い始める。
「あっ、これ美味いなぁ〜。薬草が入ってる…3種類か。この組み合わせは試した事なかったな」
「ほう、分かるのか?」
「うん、俺も薬草は料理に使うからね。でもせいぜい使っても2種類かな〜」
俺は食べながらヘスティアさんと薬草と料理の話で長い時間喋っていた。料理によっては7種類も使うらしい。こんな風に薬草を沢山使うのは初めて知った。俺より薬草に詳しいとは…森の民恐るべし…ぐぬぬ。
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