200年後の世界
ラダルが飛ばされた200年後の世界です。
「う、うわぁぁぁ!!」
「ラダ……、……!」
皆の姿が見えなくなると同時に声も聞こえなくなった。あの瞬間、闇聖ゼスに【ショットガン】を炸裂させたが少し軌道が逸れてしまった……まだまだ反理力の力を使いこなせてはいなかったのだ。そして俺は……裂け目から吐き出された。
「イテテテテ……」
いきなり落とされて尻もちをついた俺はケツを擦りながら立ち上がった。ここは……さっきの場所か??だが、誰も居ない……と言うか何と言ったら良いのか……先程とは何か違う気がする。
「皆……何処に行っちまったんだろう……」
俺は周りを見渡しながら色々と考えてみた。確かにこの場所は先程まで戦闘していた場所には間違いなさそうだ。しかし戦闘時に出来ていた攻撃の傷跡が……あるにはあるのだが……。いや、根本的に何か違う……風化してる様な……そのような感じである。一体何なんだ??
《やっと現れたの》
そこには『眼』が現れていた。ん?何か『眼』の姿が少し変わってる?
「おい、コレは一体……皆はどうしたんだよ?」
《主は時空間に飛ばされて時を渡ったの》
「は?」
《今はあの戦いから200年後なの》
「……うそーん……」
《嘘じゃないの。ホントなの》
「ちょっ……じ、じゃあアシュのおっちゃんとかは??」
《とっくに亡くなってるの》
ショックで呆然としてる俺に『眼』はあの時闇聖ゼスが俺を時空間の狭間に永遠に閉じ込め様とした事、俺が放ったショットガンでヤツの魔力が失われた為に時空間から弾き出された事。その際に俺は時を渡ってしまった事等を聞いた。そして皆のその後も色々と説明された。
「何か頭が回らねぇよ……じゃあアシュのおっちゃんやロザリア、それに家族にも……もう会えないって事なんだな……こんな別れ方って……予想外もいいとこだぜ……」
《とにかく最初はギスダルに行くの》
「ギスダル?行ってどうするんだ?」
《仲間を見つけに行くの》
そういうと『眼』は俺を直ぐに転移させた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「もうそれで終わりなの?」
「くっ……ま、参りました……」
「……はぁ……もういいわね?」
「お待ち下さい!枢機卿が戻られるまで……」
「会いたくないわ。それにこんなつまらない事をしても実力は上がらないしね」
私はそのまま屋敷を出て行った。もうこの国に居ても意味は無い……【光の御子】としての私に敵う者は居ない。だからこれ以上にはならない……でも、お父様も教皇様も修行をしろと言うけれど、こんな終わらない修行に意味なんてあるのかしら?
そして私はいつもの丘の上にやって来た。此処に居ると心が休まる……。その時全く気配が無かったのに声が聞こえて来た。
「ふーん……この娘が現世の【光の御子】かい?」
私は驚いて直ぐに戦闘態勢に入った。いつの間にこの男……それにあの浮かんでる奴は何なの?
《間違いないの。彼女が【光の御子】なの》
どうやらコイツらは私が目的の様ね……しかし殺気は全く感じない……と言うかこの少年からは魔力も感じない。それなのに何か途轍もない力を感じる……それに私の魔力が警戒音を鳴らし続けている。
「うん、それは流石に俺にも分かるよ。でもさ“ロザリア”に比べたら全然大した事無いじゃないか。修行ちゃんとやってるのかね?」
この男……何を言ってるの?聞き間違いでなければ“ロザリア”と言ってたけど……何で先々代の【光の神子】の名前をまるで知ってる人間みたいに言ってるの??
《彼女は修行をちゃんとやってないの。だから【光の御子】止まりなの》
「なるほどね。五行をきちんとやって無いんだな。コレじゃあこの娘使えないだろう?」
……何か物凄く頭に来たわ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺が『眼』と色々と言い合って居ると彼女は顔を真っ赤にして物凄い魔力を放出した。流石は当代の光の御子だ。
「へぇー。やればソコソコ出来るじゃん」
《そうなの。やれば出来る娘なの》
「だけど“ロザリア”には遥かに及ばないな」
《ロザリアと比べたら可哀想なの》
すると顔を真っ赤にした彼女が俺たちに食ってかかってくる。
「ちょっと!さっきから言いたい放題言って!無礼じゃない!」
「無礼と言われても……事実だからなぁ……」
《我は嘘は言わないの》
「さっきからロザリアロザリアって……まるで先々代の事を知ってる風な事を言ってるじゃないの!!」
「ああ、知ってるよ。何せロザリアとブリジッタさんとはパーティーを組んで旅もしたしね」
「はあぁ??ふざけないでよ!200年も前の人なのよ!」
「そう、俺はその200年前からやって来たんだよ」
《我は主を200年待ってたの》
「コイツ……ふざけるにも程があるわ!もう死になさい!」
すると彼女は無詠唱で光弾を10発ほど撃ち込んで来た。俺は避けずに反理力の粒子でライトバレットを分解した。コレには流石に彼女も驚いた様である。
「なっ!?直撃だったのに……クソっ!」
「ふーん……無詠唱とかはセンスを感じるねぇ」
《無詠唱が得意だった主が言うと説得力があるの》
彼女は両手で光輪を持ち、俺の斜め上にかなりの速さで飛び込んで来る。そして光輪で俺を斬ろうとしたが、反理力の粒子でそれも分解される。
その後、彼女はあらゆる光魔法の技を繰り出したが全て俺の反理力の粒子に分解されて手も足も出なかった。
「何で!?私の攻撃が通じないの!?」
「それは俺の反理力の粒子が君の魔法を分解するからさ。やるだけ無駄だよ」
「は、反理力ですって??」
彼女はそう言うと動きを止めて俺の方を凝視した。
「……貴方何者なの?」
「俺はラダル。魔法……いや、元魔法兵だよ」
《我は『眼』なの》
それを聞いた彼女は驚いた表情をしたが、直ぐに魔力を抑え俺達の方を見ていた。
「……ウチにある先々代の日記に『闇聖ゼスを倒す為の切り札である反理力の持ち主、魔法兵のラダルは未来に飛ばされた』と書いてあったし、代々の当主やその直系はその話を聞かされていたわ……まさか、貴方が……」
「間違いなく俺の事だね。しかしあのロザリアが日記ねぇ……イメージが湧かないな……」
《結構真面目に日記を書いてたの》
「ふーん。ロザリアの日記ねぇ……読んで見たくもあるが……叱られそうで怖いな」
《もう居ないから叱られないの》
「……そうだな……もう居ないんだもんなぁ……」
俺はロザリアの事を思い出しながらそんな感情に戸惑っていた。俺からするとさっきまで一緒に戦ってた訳だからね。
そんな俺を見ていた彼女は意を決した様子で俺に話し始めた。
「もし……貴方が本物のラダルなら行って欲しい場所があるの」
「俺に?何処に行けばいいんだ?」
「『絶界の洞窟』へ行って欲しいの。そこに貴方を待っている者が居るから」
「俺を?一体誰が??」
彼女が其れを言う前に『眼』が答えを言ってしまう。
《それは修行をしているキラなの》
「キラか!懐かしいなぁ……でも修行って?」
《あの戦いの際にキラは『魔強の洞窟』に行っていたの。それであの戦いに間に合わなかったの》
確かにキラはあの戦いの場には居なかった。ロザリアに聞く暇もなく戦闘状態になったので理由は聞けなかったが……それは致し方ないだろうね。
「その件については教皇ハメス様……当時はまだご子息だったけど……その遺言が遺されているのよ……『あの戦いは一年早かった』という遺言がね。視えた未来視が変わったのだと……」
「未来視だって??……そうか……師匠以外にも未来視が見える者が居たんだな……」
「……遺言では『本来ならあの戦いは皆が集結した一年後に起こるはずで、そこで勝利していたはずだった』と伝わっているわ」
「うーん……確かにあの場にはキラも十三改も居なかったな。それに俺が行った時はもう既に闇聖ゼスとの戦闘は始まってたからね」
《何らかの力が働いて未来視が変わったの》
「……何らかの力か……だとしたら混沌の闇の力かもなぁ」
俺が反理力の修行を受けている頃、レディスン師匠から聞いた事があった。闇聖ゼスは混沌の闇から生まれ、その勢力を広げる為に暗躍していたと。だとすれば闇聖ゼスを助けるならば混沌の闇が何かしら関わったのであろう。
「とにかくその『絶界の洞窟』とやらに行くとしよう。キラがどれほど強くなったのかも見たいし、それに俺もまだ修行不足だからね」
《今から行くなら連れて行くの》
「わ、私も連れてって……」
「君も?……そうか……なら装備をきちんと揃えようか。備えあれば憂いなしだからね」
《じゃあ先に枢機卿の屋敷に行くの》
「そう言えば名乗っていなかったわね……私の名前はエアリア=リストリア、枢機卿アントニオ=リストリアの娘よ」
「エアリアか……宜しくな。これからキツいだろうけど」
「はあ?」
《エアリアはこれから五行の修行をみっちりするの》
「だな。まず基礎が出来てないからなぁ……とにかく装備を整えて先ずはキラに会いに行こう。エアリアの修行はそれからだね」
「だって……修行なんてやっても意味無いじゃない……」
「それは間違いだ。少なくとも五行の修行は必ず役に立つ……と言うかこれが出来てないと、君は何時まで経っても本来在るべき姿に永遠になれないよ。でも、安心したまえエアリア君……この俺が我が師レディスン=ホークランド直伝の五行の修行をつけてあげよう」
エアリアは五行の修行に行き詰まっているのだろうね。まあ、基礎は俺が教えるし、その後も……まあ、色々考えてるしね。そんな俺の言葉にエアリアはしかめっ面をしていたが……。
《じゃあ枢機卿の屋敷に向かうの》
俺たちは枢機卿の屋敷に向かう事にした。
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