閑話 遺跡の二人
ゴンザレスとブリジッタのお話です。
「え〜!ゴンちゃん遺跡入った事ないの?!」
「……あのよぉ……そのゴンちゃんっての止めろって……」
「良いじゃないのよ!どうせ二人だけなんだし!それよりホントなの?」
「ああ……王国の遺跡は王家管理の元で専門家以外は立ち入り禁止だからな。専門家は研究者組と攻略者組のどちらかじゃないと入れねぇんだよ」
アシュトレイと別れたブリジッタとゴンザレスは旅の途中ひょんな事からその様な話となった。
王国では遺跡から発掘される物について厳しい規制を敷いていた。その為に王家から認められた遺跡研究者や有名冒険者による攻略者のみが入る事を許され、発見されたアイテムは全て王家の管理下で取り引きされていたのである。
その為、王国で取引される遺跡のアイテムは他国の遺跡から発掘された物や王国貴族が王家からの褒美などを売り出した物が殆どである。
因みにラダルが出会った元貴族のアホ店主はバレルハル神国の元貴族で、『幻龍殺しのトロンタ』に依頼して遺跡の発掘をさせる為に他国や大陸を渡らせたりしていたのである。
「ふ〜ん……じゃあ1度くらい遺跡に入ってみる?」
「構わねぇが……遺跡なんかここら辺に有るのかよ?」
「そうねぇ……街で聞いてみるわ」
土龍国を進む二人は首都の『盟葛』を目指していたが、途中の街である『露斗』に立ち寄る事にした。
『露斗』は土龍国において商業の中心地で『盟葛』の次に大きな街である。ブリジッタは補給の為に市場に向かった。そこで食料品を調達するついでに遺跡の情報を得る。尚、こちらの通貨はアシュトレイから貰い受けたものである。
「遺跡?アンタら冒険者か?何処かの兵士かと思ったぜ」
「あら、そう見えた?それなら見る目あるわね。コッチは兵士よ」
「やっぱりな、着てるもんが違うぜ。あーそれはそうと遺跡の事だったな?この街から西の方に一週間ほど行った場所に『トームル遺跡』が有るが……正直あまりお勧めしないぜ。彼処は辿り着くまで魔物も多いし遺跡の中はもっと酷いらしいぜ……人呼んで『冒険者殺しの遺跡』だからな」
「へぇ〜『冒険者殺しの遺跡』ねぇ……どうする?」
「フン!そこらの魔物なら吹き飛ばしてやるぜ。あの化け物よりはマシだろ?」
「そうねぇ……アレよりはマシね。情報ありがとう!ちょっと行ってみるわ!」
「オイオイ……ったく命知らずだねぇ〜。じゃあもう一つ……その遺跡にはもう一つの名前があるんだ」
「もう一つ??」
「ああ、別名『不老長寿の遺跡』さ」
ブリジッタとゴンザレスは『露斗』で一泊した後、馬車を購入して『冒険者殺しの遺跡』に向かった。確かに道中はオーガやサイクロプスまで出て来たが、ブリジッタとゴンザレスの二人には及ばない。サイクロプス等は的が大きい分簡単にゴンザレスの波動の一撃で吹き飛ばされるのだ。当然トドメはブリジッタが刺して居るのだが……。
「昔、ラダル君達と旅をしてた頃にサイクロプスで苦労してたのが嘘みたいね」
「あんなもんうすらデケェだけで大した事ねぇだろが?」
「当時は大変だったのよ。みんな今の実力には程遠かったし、ポリュペーモスに進化しちゃったりでホント苦労したわ」
そんな話をしながら湧いて出る魔物を倒して行き一週間程で二人は『トームル遺跡』に到着した。
「あら?入口が開きっぱなしね……」
「普通は閉まってるのか?」
「そうなんだけど……どういう訳かしらね?」
「魔物が多いのは此処から出て来てんじゃねぇか?」
「まさか……そんな事有るのかしら?」
そう言ってる最中に遺跡の中からゴブリンジェネラルが率いるゴブリン達がワラワラと出て来た。
「やっぱりそうじゃねぇか。とりあえずコイツらは俺に任せろや。遺跡に入る準備してくれ」
そう言うとゴンザレスはゴブリン達の群れに飛び込んで金棒を振り回し、次々とゴブリンを瞬殺して行く。ブリジッタは馬車から荷物を降ろして結界の魔導具を作動させる。馬車を魔物達から守るためだ。
「準備出来たわ……ってもう終わらせたの?」
ブリジッタが見ると頭が吹き飛ばされたゴブリンジェネラルが倒れる最中であった。
「チッ、準備運動にもならねぇな……支度終わったか?」
「コッチは準備出来たわよ。さて、何が出て来るのやら……」
荷物は魔導袋に分けて入っているので大した荷物にはならない。遺跡の探検に慣れてるブリジッタが先頭に入り罠や魔物の索敵を行う。ゴンザレスは初めての遺跡の探検なので慎重に歩いている。
「こりゃあチッとばかり狭えな……コイツにするか」
ゴンザレスはリーチの長過ぎる金棒が振り回しにくい為に遺跡の金槌を取り出した。
「あら、ラダル君の金槌ね。懐かしいわ……ラダル君大丈夫なのかしら……」
「フン!野郎なら心配ねぇよ。何せ鍛え方が違うからな」
「ウフフ……そうね、ゴンちゃんの部下だからね」
「だからよぉ……ソレ止めろっての」
「良いじゃないのよ……前から来るわ!」
ブリジッタは前から出て来たオークソルジャー達を『風雷』で瞬殺した。
「あっ、此処に罠が有るから気をつけてね!」
「おう、分かった」
この様に魔物を倒しながら罠を避けつつ遺跡の中を探検して行く。途中に開く部屋がありアイテムを次々とゲットして行く。『冒険者殺しの遺跡』と言われるだけ有って魔物の数が半端ないのだが、ブリジッタの速さとゴンザレスのパワーには数の暴力も通用しない。
「しかしコレだけ魔物が出るなんて、遺跡自体が罠みたいよねぇ〜、ハッ!」
「ん?そうなのか?オレはコレが普通なのかと思ってたがなっ!」
出て来たオーガを金槌で吹き飛ばしながらゴンザレスは、オーガの首を刺突してるブリジッタと話し続ける。
「普通はこんなに居ないわよ……罠で飛ばされた部屋とかにこの位居たりするけどね!」
確かにこの遺跡の魔物の数は半端ないのだが、二人の強さが圧倒的な為にまるで雑草を刈る様に魔物達を駆逐して行くのだ。他に冒険者等も居なさそうなので残った魔石等は拾わずに戻る際に拾って帰る予定なのだ。
そうやって次々と奥にいる魔物達を倒しながら開いてる部屋のアイテムを集めて行く。冒険者があまり立ち寄らない為なのか、部屋はほとんど開いてるのでアイテム取り放題となりホクホク顔のブリジッタである。
そうして数多くの魔物を倒しながら遺跡の探検をしていると遂に最奥の部屋に辿り着く。
「どうやら此処が最奥の部屋みたいね。何が居るかしらね?結構な魔力を感じるけど……」
「まあ、ソコソコの魔力だな……入ろうぜ」
部屋の大きな扉を片手で開けるゴンザレス。開けた瞬間にブリジッタが部屋に飛び込んで行く。
『ほう……100年ぶりにやって来たのが二人だけとは……驚いたぞ』
「テメェがこの遺跡の主って事で良いか?」
『そうじゃ。我こそが此処の主ヘレスであるぞ』
「……アナタは魔人なの?」
『そうじゃ……我は魔人ヘレスであるぞ。さぁ我を楽しませるが良いぞ、人間』
「じゃあお言葉に甘えて暴れさせて貰うか……部屋が広くて丁度いいぜ」
ゴンザレスは金槌を右手に持ち変えて、仕舞っていた金棒を取り出した。ブリジッタは《天翔る雷覇のフュルフュールレイピア》を構えてヘレスに『風雷』を放った。しかしヘレスはそれを軽々と躱して、いつの間にか手に持っている不思議な形のサーベルでブリジッタに攻撃を仕掛けた。ブリジッタは何とかその攻撃を躱し攻撃を続ける。ヘレスの速度はかなりの速さであり、その速度は持っていたサーベルの力であった。
『ほう……中々やるな人間。我の速さに付いてくる者は初めてであるぞ』
「あら、随分と余裕じゃない?」
その時、攻撃を仕掛けたヘレスにゴンザレスの金棒が襲いかかる。ヘレスはその一撃を何とか躱したが、波動は避け切れずに壁に飛ばされてしまった。しかし飛ばされたヘレスは空中でクルっと回ると壁に脚を付けてゴンザレスの方に飛んで行き、そのままゴンザレスに襲いかかる。飛んで来たヘレスに金棒を振ったゴンザレスだがヘレスに避けられ、左の脇腹に攻撃を食らってしまった。
「くっ!」
ゴンザレスは何とか膝をついて堪えたが、その瞬間ヘレスのサーベルの刃が首に迫っていた。
カキーン!!
その刃は右手に持つ金槌に阻まれた。と同時にヘレスは衝撃を受けてそのまま動けなくなる……痺れているのだ。その攻撃はブリジッタの『紫電一閃』であった。
『グッ……か、身体が……動かぬ……』
「その『紫電一閃』は動きを止める技なの。コレで終わりね」
その瞬間、ゴンザレスの金棒が肩口から袈裟斬りに振り下ろされた。ヘレスは金棒により肩口から潰される様に衝撃を受けて倒れた……それは完全に致命傷となった。
『……ゴフッ……み、見事なり人間……其方等の名を聞こうぞ……』
「私はブリジッタ、ソッチはゴンちゃんよ」
「おい!それやめろって!」
『み、見事であった……ブリジッタ、ゴンちゃん……』
「おい!オレはゴン……」
ゴンザレスがそれを言い終わる前にヘレスは砂の様に消えてしまった。そしてその跡にはヘレスの持っていたサーベルが一つ取り残されていた。
「どうやらこのサーベル“ネームド”みたいよ……何処かで鑑定して貰わなきゃね!」
「おい!ブリジッタ!……野郎……オレの事を『ゴンちゃん』って思ったまま逝っちまいやがったじゃねーか!」
「えええ……ソッチ??」
抗議するゴンザレスを後目にブリジッタはヘレスの部屋の奥に宝箱を見付けた。そして慎重にその箱を開けると……中にはポーションの様なガラスに入った液体が二つ置かれていた。
「あら?ポーションかしらね……こんな宝箱にポーション??」
「おっ、ポーションなら丁度良いぜ」
と傷を負っていたゴンザレスはそれを取って一気飲みしてしまう。ブリジッタも魔力を使い疲れもあったのでそれを飲んでしまった。そして二人は“ネームド”らしきサーベルを大事に魔導袋に入れるとそのまま部屋を出てしまった……。
だが、実はその置いて来てしまった宝箱こそが『不老長寿の箱』であり、100年ごとにその中に不老長寿の薬が二つ出現する宝だったのだ。この薬は百数十年寿命と若さを保つ薬であり、この箱さえ有れば永遠に若さを失わないのである。しかしながら二人がそれを持ち帰らずに出てしまった為に扉は閉まり、主の居なくなったその扉はそれ以降開く事は無かったのである。
そうとは知らない二人は魔石を拾って戻り、出口を出るとその遺跡の扉は閉ってしまう。
「コレで魔物も減るかもしれないわね」
「そうかもな……さて、街に戻ろうぜ。コイツを金に変えて置かねぇとな」
「そうね、全部鑑定もして貰わなきゃだし……あ〜『眼』ちゃんが居たら良かったのにね」
《我ならここに居るの》
「えっ!『眼』ちゃんじゃないの!」
「おめぇいつから居たんだ?」
《さっき着いたばかりなの。二人とも探したの》
「あら、そうなの?じゃあ早速だけど鑑定して欲しいのが沢山あるのよ!」
《それより二人は一体何をしたの?》
「何って……遺跡を踏破したわよ?」
「ヘレスとか言う魔人を倒したが……そいつが何だ?」
《そうじゃないの。二人とも祝福が掛かってるの》
「祝福??」
《そうなの。二人とも不老長寿の祝福が掛かってるの》
「「……はあ???!!!」」
『眼』から色々と教えてもらったブリジッタとゴンザレスは自分達がポーションだと思って飲んだのが不老長寿の薬で、その置いて来てしまった宝箱こそが不老長寿の箱である事を聞いて、自分たちがやらかしてしまった失敗を知り愕然とする事となる。
「う、嘘でしょ……」
《我は嘘はつかないの。もう主の扉は開かないの》
「オイオイ……どうすりゃあ良いんだ??」
《祝福は受けたら取り消せないの。諦めるの》
「マジかよ……こりゃあ参ったぜ……」
その後、何とか色々と諦めた二人は改めて『眼』に遺跡のアイテムの鑑定をして貰う。その中でヘレスを倒した時に手に入れた“ネームド”であるサーベルは中々のアイテムだった。
【爆ぜる神風のヘレスサーベル】
クラス︰SS 属性︰無属性
使用者の速度を速さの理の理解度によって爆発的に上昇させる能力を持つ。その刃の斬れ味は真空の刃の如く鋭い。速さの理に長けた者が使用すると更なる速さと斬れ味を手に入れる事が出来る。
《これはブリジッタが使うと良いの》
「速さの理ねぇ……」
《そのレイピアに認められているブリジッタなら使いこなせるの》
「って事は私も二刀流を極めないとね!」
「良い得物が手に入って良かったじゃねぇか。他のも使えそうなのが多いしな。要らねえもんはテズール商会のクロイフに売っちまおうぜ」
「うん、そうね。このパンの箱はラダル君が持ってたのと一緒ね!このパン美味しいから欲しかったのよねぇ〜」
ブリジッタはパンの箱をお気に入りと決めた様である。
《そろそろ転移するの》
「このまま旅をして帰っても良いのだけどね」
「オイオイ……オレが閣下に怒られちまうだろが……」
そしてそのまま『眼』の転移でカルディナス領に帰って来た二人はそのままカルディナス侯爵に使える事となる。侯爵亡き後は子供に跡目を譲り、二人で各地を旅をしたり、魔物退治や遺跡の探検をしながら過ごしたという。
お読み頂きありがとうございました。