驚愕の闇聖と最後の一手
ラダルと闇聖ゼスとの戦いです。
『ほう……貴様がベイン……いや、究極の六芒星の依代だった者か。確か魔力を失った筈だが……その力は一体何だ?』
「この力は俺の師匠が命と引き換えに俺に授けてくれた力さ。お前を倒す為にな」
その言葉にアシュトレイとロザリアが愕然とした顔をしている。それはそうだろう……レディスンが死んだ事は二人は知らないのだから。ブリジッタとゴンザレスはラダルからの便りで亡くなった事は知っていた。だが、転移して直ぐに闇聖ゼスとの戦闘が始まった為に二人に伝える間が無かったのである。
「まさか……レディスンが……」
「し、師匠……そんな……」
肩を落とす二人を尻目にラダルは闇聖ゼスに【反理力の極芯】で攻撃を加えた。攻撃食らった闇聖ゼスの顔が苦痛で歪んだ。
(こ、コレは一体……我が痛みだと?……いや、あの力は一体何だ?【暗世魍魎界】を解いただけでなく【紫耀】までも破壊した……いや、破壊と言うより、消滅させた……この様な力は今までに見た事がない……)
気が付けば闇聖ゼスの手は震えていた。無意識ではあるが自分の命が奪われると言う恐怖を身体が感じ取ったのだ。それに気が付いた闇聖ゼスは己の弱さを恥じる。
『ククク……この我に恐怖を与えるだと……有り得ぬ……有ってたまるかあぁぁ!!』
まるで先程の余裕が無くなり、必死に【征暗絶界】を振り回しラダルを斬ろうとするが、ラダルの【反理力の極芯】により受け切られ、更に突きを受けて動きが止まる。
『ぐふぉ……こ、こんな……バカな……』
更にラダルが【反理力の極芯】で袈裟斬りに叩きつけようとすると、闇聖ゼスは辛うじて【征暗絶界】で受けた。この間合いでは不味いと距離を取った闇聖ゼスは右手から紫色の電撃を放つがラダルの目の前で消滅する。ラダルは【反理力の極芯】の形状を変化させて六つの槍の先の様な物にすると、その槍の先がランダムな動きで次々と闇聖ゼスに襲いかかった。闇聖ゼスは【征暗絶界】で凌いでいたが、傷を負うにつれ動きが鈍くなり更に傷を負う展開にたまらず右手から黒い盾を出しそれで防ぎ始めた。
この攻防に動ける様になった四人は集まってラダルを見守る。
「ラダルのあの力は一体……」
そう言うアシュトレイにブリジッタはこう切り出した。
「……私がラダル君から手紙を貰って……レディスンの墓に行った時に、ラダルの家で「アレは反理力の極芯とか言う物でレブルの箱から出た物だ」とラダルのお母さんが話していたわ」
「レブルの箱??そうか、あの開かなかった箱か!」
「それを手に入れた頃にレディスンが現れたみたい。そしてあの力を手に入れた様ね……私が行った時にはラダル君はもう旅に出ていて居なかったから……どんな力を得たのか知らなかったの」
するとロザリアが話に入る。
「レディスン師匠と一緒に『カノッサス大迷宮』に向かったマルデウスとドンピエールが帰って来た時に「レディスンとは『反理力の古代壁画』で別れた」と言っていたわ。師匠はそこで反理力を手に入れると言っていたらしいわ」
「じゃあ、ラダルのあの力はその……反理力の力なのか?」
「詳しくは知らないけど……ただ……ハメス様……教皇様の御子息だけど「反理力は闇聖を倒す切り札」と言っていたわ」
「ラダルが……切り札……」
アシュトレイは教皇からの神託によりラダルが魔力を失う事までは聞かされていたが、その後の事は聞かされて居なかった。
《恐らく主があの力を手にする為には魔力を失う事が必要だったの。あの力は理力を破壊し消滅させる力なの》
「おい、それじゃあ理力を持ってる奴が反理力を身につけたら……」
ゴンザレスの問いに『眼』はこう答えた。
《その者の理力が破壊されて命を落とす事になるの》
「それでレディスンは……」
アシュトレイ達はレディスンの覚悟を知る事となった。
一方、圧倒的に不利な状況に追い込まれた闇聖ゼスは必死で逆転の一手を考えていた。
(くっ……この魔盾【邪恐紫水】でさえも悲鳴を上げるほどのこの力は……どうにかせねば……)
闇聖ゼスは何度となくラダルの攻撃を掻い潜り闇魔法を撃ち込んだが、全ての魔法がラダルの前で消滅してしまう。かと言って【征暗絶界】で攻撃してもあの槍の先の様な変幻自在の武器を掻い潜り一撃を当てる事は不可能である。この詰みに近い状況での逆転の一手を必死に考えていた。
一方のラダルも思った以上に粘る闇聖ゼスに、トドメの一撃をどう撃ち込むかチャンスを伺っていたがこれもまた中々上手く行かない状況に苛立ちが生じ始めていた。
「中々しぶといね……仕方ない、アレを使うか」
そう言うとラダルは変形させた【反理力の極芯】の動きを止める。しかし、動きを止めた事で闇聖ゼスに攻撃の時間を与えてしまった。闇聖ゼスは考えた末にこの場でラダルを始末する事をやめる事にした。そして闇聖ゼスは自らの頭上に強大な魔力で円形のフィールドを形成した。ラダルはそれを【紫耀】と同じ攻撃魔法と勘違いをしてそれに反理力の攻撃を当ててしまった。するとそこに亀裂が入りラダルを引き込み始める。
「ううっ……な、何だこれは??」
『馬鹿なヤツめ……それは次元の穴だ。何処へでも時空に飛ばされるが良いわ!』
闇聖ゼスは時空間に通じるフィールドを形成して罠を張ったのだ。ラダルが攻撃魔法と勘違いをして【紫耀】を消滅させた様にフィールドの壁をラダル自らが壊す様に……。フィールドに引き込まれて行くラダル。他の四人も引き込まれ無い様に四人で支え合うのが精一杯である。
「ラダル!!」
アシュトレイは【咆哮する龍力のドラゴンバスター】で闇聖ゼスに攻撃をする。それと呼応する様にゴンザレスも衝撃波の一撃を放った。
「真・古龍の咆哮!!」
「喰らえ!化け物があああ!!」
その二人の一撃が闇聖ゼスに当たるとフィールドの維持が少しだけ弱くなった。そこをすかさずにラダルは【反理力の極芯】を筒状のとある形に変形させて反理力の一撃を闇聖ゼスに解き放つ。
「ショットガン!!」
まるで現代のショットガンの様な形の銃身から圧縮された反理力の粒子が闇聖ゼスに放たれた。しかしそれは狙いが外れ闇聖ゼスの右肩を吹き飛ばした。
『ギャアアアアア!!!』
倒れ込む闇聖ゼス、しかし一撃を放ったラダルはそのまま時空間の亀裂に飛ばされてしまったのだ。
「ラ、ラダル!!!」
「うわあああ!!!」
ラダルが時空間に飛ばされるとフィールドがゆっくりと消えた。
《闇聖ゼス……この場を離脱するわ》
動けぬ闇聖ゼスを丸い『眼』が転移させた。
残された四人は呆然と立ち尽くしていた。ゴンザレスがまず口火を切った。
「おい……ラダルの野郎は何処に飛ばさたんた??」
「ラダル君……」
すると『眼』がこう言った。
《主は時空間に引きずり込まれて未来に飛ばされてしまったの。計算上は……》
その答えを聞いて絶句する四人であった。
「じゃあ闇聖ゼスは……アイツはどうなったの??」
《主の攻撃を受けた闇聖ゼスはどうやら亜空間に逃げ込んだの。かなり弱っていたから簡単には復活出来ないの》
「ラダル……済まない……」
アシュトレイは飛ばされたラダルに詫びていた。
一方の闇聖ゼスは瀕死の重傷を負っていた。ラダルの反理力の攻撃をマトモに喰らった為に闇聖ゼスの魔力に反理力の侵食が始まったのだ。
『グオオォ……き、傷が……治らぬぅ……』
闇聖ゼスは侵食されている大きな傷を負った場所の反理力に侵食されていない所ごと自らぶった斬る。だが、その場所も影響を受けたのか中々再生をしない。
『こ、これでは復活まで……じ、時間か必要だ……我は少し休むぞ……』
そう言った闇聖ゼスの身体から紫色の糸が全身を覆い繭の様な形になった。
(……まさか、闇聖ゼスがここまでヤラれるなんて計算外だったわ……あの坊やは中々やるわね……)
丸い『眼』は闇聖ゼスの眠る紫色の繭を見ながらそこに佇む様に浮いていた。
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