さらばレディスン
レディスン=ホークランドの最期です。
「そんな……何故?」
「反理力の副作用はかなり酷くてね……魔力が大きければ大きいほどそれは顕著に現れる。魔力が壊される度に生命が蝕まれていくんだ……コレばかりは止めようが無い。もうかなり進行した状態なのでね……」
「どうしてそんな無茶をしたんですか!?」
「それはね、私の弱さが原因なんだ」
「よわ……レディスン師匠は弱くありませんよ!!」
「いや、私の未来視では何十……いや、何百と視ても闇聖ゼスに勝てる未来視を視る事は無かったんだ。そこで私は理の力の真髄に近付く為に沢山の御仁に教えを乞うたし修行もした……だが、それでもまだまだ足りずに“光の御子”の子孫が居ると言うあの大陸に行き、ありとあらゆる文献を調べたり修行をつけてもらった……しかし、光属性最強たる『光の神子』の力を得てもその未来視は覆る事は無かったんだ」
レディスン師匠は寂しく笑いながら先を続ける。
「しかし、ラダル君……あの日、君とアシュトレイに出会ってから私の絶望だけのあの未来視が変わったんだ。遂に闇聖ゼスを倒す未来視が視えたんだ……だからその唯一の可能性に賭ける事にしたんだよ。それが君に五行の修行をさせ、魔力を全て消してから反理力を君に授ける事なのさ」
「闇聖ゼスをこちらの世界に来れなくさせる事も……」
「それはタダの先送りで未来には必ず闇聖ゼスはこちら側に来てしまう……そうすれば闇聖ゼスはこの世界を必ず自らの物としてしまう……そして混沌の闇の勢力がまた拡大してしまうだけだ。だが、ここで止められたらその先は混沌の闇にこの世界が飲みこまれる未来が無くなるんだ。その為に必要なら私の生命など安い物だよ」
「そんな……」
「私の弱さ故に君に全て押し付けてしまう事を本当に申し訳なく思う……だが、この世界の未来の為に頼みたいんだ」
俺はかなり混乱していた……レディスン師匠をこのまま死なせて良いのか?それしか道が無かったのか?
しかし、どれだけ考えても答えは出ない……何故なら既にその未来視が動き出してしまったからだ。
それならば……。
「分かりました……やります……」
「ありがとう、ラダル君……。それでは、早速だが修行を始めようか」
レディスン師匠はその後も修行を続ける。
今度は形状変化のやり方である。
形状変化とは『反理力の極芯』の形状を術者のイメージの形に変化させる術式である。コレには魔法陣の構築とその変化のイメージが重要であった。
しかしながら俺には変化のイメージを固定する能力が優れていた。何故なら俺は常に『魔法はイメージ』だと幼い頃から修練していたからである。
基礎を徹底的に行った結果、魔法陣の定着が安定した事により形状変化のやり方はレディスン師匠が考えていたよりもずっと早く身についたのである。
「驚いたね……2週間か……この術式をこれ程早く修得してしまうとは……」
「魔法はイメージですからね!イメージ定着ならお手の物ですよ!」
「いめーじ?」
「心象って事ですよ!」
「ふむ、なるほどね……ラダル君の力の源はその強い心象を具現化させる為の力という事か……ならば早速、次に進もうか」
「はい!」
「次は『反理力の極芯』の遠隔操作だよ。今までは『反理力の極芯』を手に持って反魔術を行っていたが遠隔操作では手から離してコレを使いこなす術式だよ。この術式では反粒子を必要とする。反粒子を『反理力の極芯』に繋げて手足の様に操るんだ」
(遠隔操作……電波……とは違うな……赤外線ともイメージが違う。繋げる……って事は有線って事だよなぁ。手足の様に……手……手が離れて有線で遠隔操作……ってアレじゃね??)
それは前世の記憶にある機動なんちゃらという某有名アニメの最終話近くに出て来た『あんなの飾りです。偉い人にはそれが分からんのです』のセリフで有名な足の無い最終兵器……主人公の好敵手が搭乗してソレの手を有線で操っていたよな!ビッ○やファン○ルとかいう奴の有線版と考えれば……イケる!!
俺は早速『反理力の極芯』を形状変化させて手の様な形して二つに分ける。そしてもう一つの魔法陣で反粒子を繋げて遠隔操作のイメージを行う……しかしながら中々上手く動かせない……。
(しかし、俺もニュー○イプのはずだ!!)
その強いイメージが『反理力の極芯』に通じたのか俺は何とか3週間程かけて遠隔操作が出来る様になった。
「……信じられない……何故に形状変化と遠隔操作という反魔術を同時に……」
レディスン師匠はエラく驚いた様だが、俺からするとそのイメージを具現化する方が楽だっただけである。ありがとうガ○ダム!!
俺は遠隔操作の速度を上げる事に時間を割いた。そう、360度のオールレンジ攻撃を可能にする為だ。そしてそれを四つ……六つと分けて行き、最終的には手の指全部で遠隔操作させる事を目指す。
だが、その修練に明け暮れてる最中……遂にレディスン師匠が倒れた。
「師匠!!」
「……ま、まだ大丈夫だよ……」
レディスン師匠は大きな岩を背にして座り、そのまま俺の修練を見続けてくれた。
それから3日後……とある人物がこの場所に現れた。
「!!な、何故君が此処に……」
レディスン師匠が驚くのも無理は無い……俺はレディスン師匠からもう時間が無いと聞いてから直ぐにタイラー副長宛に手紙を二つ送った。一つはタイラー副長に状況を説明する手紙……そしてもう一つはとある人物に渡してもらう手紙だった。間に合うかは分からなかったがどうやら間に合った様だ。
「随分とやつれたな……レディスン。もう十数年ぶりでは無いか?」
俺が呼んだ人物……それは王国が誇る宮廷魔導師【炎帥】爆炎のアストレラことアストレラ=エルメス=リットバウムその人である。
「お久しぶりです。アストレラ様」
「ラダル殿、久しいな……この度は本当に感謝する」
「ラダル君……君が呼んだのか?」
「はい、師匠。こうして王国に居るのですから……余計な真似をして申し訳御座いません……」
「ラダル殿、私は感謝しているよ。こうしてレディスンと再会出来たのだからね。貴方はどうかしら?」
「ふっ……とても驚いたよ……寿命が縮まりそうな位にね」
「随分とと軽口を叩くのだな……まさか行方不明になったラダル殿がレディスンと出会っていたとはな……世間は広いようで狭いものだ」
「君の事はラダル君から聞いていたよ。宮廷魔導師団を率いているらしいね。大したものだ……いや、君の実力なら当たり前か」
「当然だ。私を誰だと思ってるんだい?」
「君も変わらないな……」
その後、俺はそのままその場所を離れた。
積もる話もあるだろうからね……でも、本当に間に合って良かった。
俺はそのままその日の修練を終えて家に戻った。その後の事は良く分からない……。
翌日、レディスン師匠の元に向かうとアストレラ様は既に居なくなっていた。
「おはようラダル君。君には驚かされるね……」
「おはようございます。前はレディスン師匠が向こうの地に残ると思っていたので言伝を頼まれましたが、折角此方に来てるのですから直接話をされた方が良いと思ったのです」
「そうか……ありがとうラダル君。君のおかげでもう一つの心残りが片付いたよ」
「それならば良かったです……」
「さあ、修練を進めようか……」
「はい!師匠!」
その後、10日間レディスン師匠が見守る中で修練を重ねて遂に遠隔操作を完全にマスターした。そして次の修練に入る最中にレディスン師匠が再び倒れた。
「レディスン師匠……」
「……ラ、ラダル君……どうやらこれ迄の様だ……すまない……」
「大丈夫です……必ずやり遂げますから」
「うむ……ラダル君……未来で……また……」
「師匠??……」
そしてそのまま目を閉じたレディスン師匠は意識を取り戻さなかった。
我が師レディスン=ホークランドは永遠の眠りについた。
◆◆◆◆◆◆
私がカルディナス辺境領のタイラー副長より届けられたその急ぎの手紙を見た時に自分で驚く程に動揺してしまった。
噂でこの地に戻って来たとは聞いていたラダル殿からの手紙には、まさかの人物の名が記載されていた……しかももう直ぐに死ぬという。私は直ぐにカルディナス領に向けて出立した。
今までこれ程に時間が惜しいと思った事は一度もなかった……ただ間に合えと……そればかり考えながら旅路を急いだ。
そして、やっと到着した辺境の村の『還らずの谷』でその男……レディスン=ホークランドは大岩を背にして座していた。
その顔を見て思わずやつれたなと言葉に出してしまった……全く……自分の事ながら呆れてしまう物言いだ。
レディスンは私を見て驚いていた。まさか私が来るとは思ってもみなかったのだろう。
そしてラダル殿は……不思議な力を身にまとって見えた……確か風の噂では魔力を失ったと聞いていた。確かに前の様な歪な魔力は無くなっていたのだが……今まで感じた事の無い力を感じていた。コレも魔力なのか?
そしてラダル殿はそのままその場を立ち去ってしまった……要らぬ気を使わせてしまった様だ。
レディスンは私と最後に別れたあの日からの事を色々と教えてくれた。この大陸を旅しながら理力の真髄に辿り着いた事、更なる高みを目指して大陸を離れた事、そしてそれでも及ばぬ敵に絶望した事も……。
そんな時に出会ったラダル殿とアシュトレイという者が未来を変える可能性が有ると希望を持った事……などなど……。
そして彼は今、反理力の副作用により命を蝕まれているのだという。
死を前にしたレディスンがこれ程穏やかなのが不思議であったが、話を聞いてゆくと彼の想いを徐々に理解出来た。
そしてレディスンは私に『五行』と言う概念を教えてくれた。理の力は真円に近付ける事が重要で、『無』を極める事で更なる高みに行けると言う事を……。それはレディスンが学院にいた頃に話していた事がそのまま事実だった事を証明していたのだ。
最後にレディスンは「君の事を愛していたが、私にはやらなければならない使命があった。だから君の前から消えた……その判断に後悔してはいないが心残りだった」などと言って微笑んだ。
全く……何と身勝手な事を……。
久しぶりに泣いた気がする……【炎帥】として弱みも見せず、ただ王国の剣としての自分を磨き続けて来たのだ。
しかしながらこの男の前では私はどうしょうもなく女だった。
そして、私は彼と最期の口付けを交わして【炎帥】としての顔に戻る。
私の中で彼は生き続ける……私が死なない限り……。それだけで私は生きて行ける。
お読み頂きありがとうございます。
短編をupしました。1年ほど前の作品です。宜しければ見て下さい。
https://ncode.syosetu.com/n9008ho/




