残りの時間
レディスンとの修行。そして……
俺の修行は更に続いた。
粒子を体内に取り込んで循環させると身体強化が更に強化される。ここら辺は魔力と同じなのな。ぐるぐると循環させるスピードを速くしていく……ぐるぐる……ぐるぐる……。
座禅を組みながらやっていると取り込んだ粒子の質が段々と変わって来た様な気がした。
「うむ、どうやら粒子の質も向上して来たね。順調順調」
レディスン師匠はにこやかに笑いながらそう言った。
「粒子の質が向上すれば威力も向上するからね。更に粒子を増やしながら循環させようか」
粒子を増やす時にどうしても循環が止まってしまう……中々難しい。レディスン師匠は粒子を動かせながら粒子を増やしてみせる。
見よう見まねで何とかやろうとするが中々簡単には行かない。結局その日は上手くいかなかったが、翌日には何とか両方出来る様になった。しかも両方一緒にやると増やした粒子の質が向上した物になっている……コレは一体どうした事だろうか??
「不思議かい?体内で質の向上した粒子を循環させれば当然君の身体の中の反理力の質が向上して行く。その状態で生み出された粒子は当然その反理力の質が粒子に反映される訳さ」
「なるほど……じゃあ体内の反理力の質がもっと良くなれば……」
「その通り。この修行はそれが狙いさ」
つまり、粒子の質を上げて体内に取り込みながら質の良い新しい粒子を増やしてまた体内に取り込み循環させて更に質を向上させる。この繰り返しで反理力の質を向上させながら粒子量も増やせると言う訳だ。そうすれば粒子量を増やす事で反理力を使う幅が広がるのだ。
これをひと月みっちり行うと反理力のパワーが一気に上がった。粒子を体内でも体外でも自由自在に動かせる様になった。実はここまでが初心者の段階であったのだ……まだまだ道程は遠い……。そして次の段階に入る……ここからが本番だったのである。
それは俺の持つ『反理力の極芯』を使いこなす事である。このアイテムを武器として使う事を覚えるのだ。このアイテムは依代と呼ばれ、コレを使いこなす為に覚えるのが【反魔術】である。簡単に言うと粒子を使って依代に魔法陣を付与させて使いこなす術式が【反魔術】である。
レディスン師匠はこの魔法陣の付与の基礎を徹底的に俺にやらせた。その魔法陣の基礎は『大きさを自由自在に変える』魔法陣である。つまり、この『反理力の極芯』を如意棒の様に伸縮させる事を覚えさせようとした。
この修行は困難を極めた……レディスン師匠もこの修行が1番難しい事を知っていて丁寧に根気強く俺に説明しながらやって見せた。
先ず粒子で魔法陣を定着させ発動するまでが中々難しい。
粒子が中々『反理力の極芯』に定着しないのだ。そこで俺は粒子が接着剤で張り付く様なイメージを持ちながら修行を重ねた。しかし、まるで砂上の楼閣の様に直ぐに崩れて消えてしまう魔法陣に苦戦を強いられた。
やり始めてから半年後、何とかイメージを定着させる事に成功し、遂に俺は【反魔術】を使える様になった……まだ基礎だけだが。
まるで如意棒の様に『反理力の極芯』の大きさや長さを自由自在に変えられる様になったのだ。
そこまで何とか辿り着いた俺にレディスン師匠はにこやかな笑顔で「良くやったね」と褒めてくれた。俺はとても嬉しかった。
そしてこの【反魔術】を使える様になった時にレディスン師匠が、ようやく読み終えた『反理力の導書』を俺に初めて中身を見せてくれた。何故今まで見せなかったのだろうか??
その基本的な導入部にはこう書かれている。
『反理力とは反粒子を使う力であり、それを身にまとったり、発射したりして魔力を破壊する力を発揮する。身に纏えば肉体的の強化活性化を得る。反粒子を発射し相手に命中すると相手の魔力を分解する。その分解の際の副反応によりダメージを喰らう。これが反理力による魔力の破壊である。魔力では反理力には対抗する術は無い』
と書いてある。
つまり反理力は魔力に対して絶大なアドバンテージを持っていると言う事だ。なるほどなるほど……。という事は相手の魔力量とは関係無く此方が有利であると言う事か……。
『反理力は基本的には理力と同じく器を真円にする必要がある。つまりは『五行』制御力、精神力、胆力、心力、そして魔力が反理力に置き換わる。
反理力を強化する為には反粒子の密度を濃くする事が必要。反粒子が多ければ多いほど影響を与えられるフィールドが拡がっていく。
制御力で反粒子の動きを完全に制御しなければならない。
反粒子は精神力が強くなければ増える事が無い。
胆力により反粒子の質が上がり、結果として反理力が強くなる。
心力は全てのバランスを取る為に必要でありコレが上手くいかないと反粒子は定着せずに身体から離れてしまう』
つまり反理力も魔力と同じように器を真円に近付ける事が重要で『五行』の修行は必須条件となる。この『五行』の修行をやっていた俺には反理力さえ備われば必然的に反粒子を増やす事が可能だった訳だ。だから反粒子の量や質を上げる事が必要で、魔力とは違う制御力も覚える必要があるという事なのだね。だから最初は基礎中の基礎から始めた訳だ。
『反理力の鍵である遺禨は反粒子を生み出し操る為の物で、使用者の武器とも成りうる。その武器は遺禨の形状や性質によって使い方は大分変わる。之を使いこなす術式が反魔術である』
なるほど……コレが【反魔術】という訳か。その遺禨というのが俺が持ってる『反理力の極芯』で、コレの特性を活かして操る為の術式を覚える事で武器にも出来るという事なんだな。これを見る限り他にも遺禨は存在するのだろうね。これを集める事も戦力を増す事になるかもしれないな。
『反理力とは魔力全般を分解してしまう術である。コレを扱う為にはまず、反粒子を身に付けなければならない。反粒子を得る為には二つの方法があり、一つは魔力を失った状態で反理力を覚醒させる為の遺禨と呼ばれる依代で覚醒するか、己の魔力を転じる外法により覚醒するかの二つである。後者の場合、魔力が大きな者はその魔力故に転ずる際の副作用により死に至る事がある』
……ちょっと待て……何を書いてあるんだコレは……。
俺が驚いているとレディスン師匠がそれを見て話し始めた。
「という事でラダル君……」
レディスン師匠はゆっくりと息を吐きながらこう続けた。
「もう私に残された時間が無いんだ。この先はあと一つだけしか【反魔術】を教えられそうに無い……だからその後はこの導書を見て自分でやり遂げて欲しいんだ」
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