遺跡のアイテム
カルディナス領に戻った冬の間の出来事です。
冬の間にクロイフさんから連絡があり、店の方に魔導具の売却金を受け取りに行く事になった。
少し前から連絡があった様なのだが、調査隊の警備で此方には戻ってなかったからね。これもどっかの隊長のせいですよ…チッ。
俺的には魔導具がソコソコ売れたのでボーナスが少し入った位の感覚でテズール商会にむかったのだが、魔導具の売却金の利益はかなり入ってた…いや、恐ろしいほど入ったと言える。背中に嫌な汗が……。
「ち、ちょ…ク、クロイフさん…コレってマジですか?」
「ええ、一番の値が付くものも売れましたからねぇ。いやいや本当にウチとしてはラダル様に感謝しなければ」
「とんでも無い!クロイフさんの目利きや伝手が無ければ商売になりません。感謝しなければならないのは此方の方ですよ」
「いやいや、ラダル様のそう言う所が素晴らしい。他の魔導具も交渉に入ってる物もいくつか御座いますので、もう少々お待ち下さい」
「ありがとう御座います。引き続きよろしくお願いします」
俺の目の前のテーブルの上には白金貨6枚と624金貨728銀貨934銅貨が綺麗に並べて置かれている…。魔導具を売却した金額の俺の取り分である。
つまりはこの倍の金額で売れた事になる訳だね…これはヤバい。どこの貴族様をだまクラ…イヤイヤ、営業努力で売り上げたのだろうか……。金はある所にはあるんだなぁ。
「しかし…これ程の金額だと持て余してしまいますよ…」
「なるほど、では装備品にお金を掛けてはいかがでしょう?」
「う〜ん…余り良い装備にしてもそれはそれで目立つと問題なんですよね…」
「確かに…しかしながら命には換えられませんぞ。目立たぬもので揃えるのもアリかと」
「目立たぬ様にですか?」
「オーダーすれば良いかと…後は遺跡や大迷宮の物なら見た目は良く分かりますまい」
「ほうほう…遺跡と大迷宮の物なら一つづつ持ってますが、確かに素人には解りづらいですね」
「おお、既にお持ちとは…流石はラダル様ですなぁ。では、ウチに有る物をご覧になりますか?」
「そうですね…ちょっと見てみましょうか」
俺はクロイフさんの案内で店の更に奥にある部屋に通された。
其処には厳重に保管された武具等が置かれていた。
「何が御入用でしょうか?」
「う〜ん、武器は遺跡から出たのを持ってるんで、やっぱり防具かなあ…」
「では何点か出してみましょう」
クロイフさんの合図で二人の店員さん…いやこの人達は用心棒も兼ねた人だな…上手く隠してるけど魔力が凄い。
二人が出して来たのは四点である。
「一つ目はカラム遺跡より持ち帰られたネックチェーンアーマーです。魔力を吸って硬度を上げます。オリハルコンと似た性質ですね」
首元から肩、そして胸にかけて覆う丸い涎掛けみたいなやつだ。防具としては申し分ない。
「二つ目はモルトン遺跡より持ち帰られたケトルヘルムです。一つ目と効果は同じです」
麦わら帽子の様な形のヘルム。視界も良いし、鍔が広めで全部では無いにしろ肩口くらいはカバーしてくれる。弓兵に人気の形のヘルムである。
「三つ目はアルトラ遺跡より持ち帰られたガントレットです。効果は同じです」
指先までしっかりと保護。俺のより腕の部分が長くて広めで肘も隠れるし、小型の盾と言う感じかな。中々良さそうである。咄嗟の時に手を出してしまいがちだからガントレットは有用だ。
「四つ目はカラム遺跡より持ち帰られたレッグアーマーです。効果は同じです」
腰の部分と横の太腿までカバーしてる。コレは今空いてる部分をしっかりと隠せるので買ってもムダが無い。
中々良さそうなものだけど、どれも決め手に欠ける気がする…。
そんな風考え込んでいるとクロイフさんは奥の方からもう一つ出して来た。
「これは防具では無いのですが…ショートブーツです。大きさは変わらないのですが、履く者の足にピタリと合います。靴底は減りませんし滑り難いです。どこの遺跡かは不明です」
「このブーツでお願いします」
即決したので出して来たクロイフさんも驚いている。
これは当たりのアイテムだ。小汚いブーツだが性能はピカイチだよ。靴の重要性は前から考えておりオーダーで作らせてるくらいだからね。意外と重要視されないのが不思議だ。
「で、ではコレで本当に宜しいので?」
「靴はオーダーしてる位に重視してます。歩兵は歩くのが仕事と言うくらい歩きますし、攻撃や防御また逃げる際にも走る事を考えたら自分に合う靴は何よりも重要なのです。このブーツなら間違いなく役に立ちます」
「…なるほど…そう言った考えは今まで有りませんでした。確かに歩けなければ歩兵は務まりませんな」
「意外と皆は重要視してないですが、歩兵の基本は歩けてナンボ、走れてナンボの世界ですからね。俺から言わせると金をケチって安い靴を履いて、靴擦れしてヒイヒイ言う奴は馬鹿ですよ」
「確かに…コレは勉強になりました。もし仮に…安くて誰にでも合う靴を出せれば…売れそうですな?」
「安くて自分に合うものがあれば手に取ると思います。使えば良さに気が付きますから再度買ってくれるし、予備も用意する者も出るでしょう。大きさを細かく…そうだなぁ、5種類も揃えれば自分に合う靴が見つかると思います。後は靴下を売れば良いかと靴が合わない時は2枚履けば調整出来ますし」
「ふむふむ靴下で調節…流石はラダル様ですな。コレは急ぎ考えねば」
「安ければ予備を持てますから、さほど丈夫さは要りませんしね。むしろ適度に壊れた方が商売的には宜しいかと」
「なるほど…そこまで考えますか…ラダル様、もし商人を目指すならば是非ともウチにいらして下さい。破格の条件で雇いますので…」
「そんな…ズブの素人の考えですよ!話半分で聞いて下さい!」
「いやいや、そんな事は有りません。とにかく心に留めて置いて下さい。何ならウチの娘と…そうだそれが良い…」
「ちょちょ!!クロイフさん落ち着いて下さい!!」
「あっ…ああ、申し訳御座いません!つい先走ってしまって、ハハハハ!!」
何とか落ち着いたクロイフさんに値段を聞くと5白金貨だとの事だが、儲けさせて貰ってるからと値引きで4白金貨と500金額にしてくれた。
早速履いてみるとホントに足にキュッと合うのが凄い。見た目は古ぼけたブーツだし、まさか4500金貨とは思わんだろう。そうだ、このブーツ用の鎖カバーでも作らせようかな?クロイフさんにそう言うと戦場で使うならあった方が良いが、ソレなら膝当ての先を伸ばして靴が隠れた方が良いのでは?と言われたので膝当ての改良も頼んでおいた。
残りのお金はクロイフさんに預ける事にした。どうせクロイフさんに頼む事も有るだろうからね。また魔導具が売れて買えるようならさっき出して来たケトルヘルムでも買うかな。
テズール商会を出て4番隊の宿舎に戻ると、隊長と副長が帰って来ていた。確か王都に例の”青”の件で侯爵閣下や文官達と共に行っていたのだ。
「隊長、副長、お勤めご苦労様です」
「おう!ラダルか?今日は休暇か?」
「はい、テズール商会に行ってブーツを買って来ました。ところで王都での話し合いは如何でしたか?」
「まあまあだな。落とし所は悪くねぇ」
「冬が終わったら採掘開始ですね〜」
「そっちは1番隊の任務だ。俺達はまた山岳地帯の調査隊の警備だぞ」
「了解です」
隊長はそのまま部屋に向かった。
と、俺の方に副長がニヤニヤしながらやって来た。
「テズール商会でブーツを買ったって?良いブーツか?」
「ええ、中古ですけどね」
「中古?貴族のお下がりか??」
「まあ、そんなトコですかね〜」
「ふ〜ん…お前にしては大人しい買い物だなあ〜」
「……一体副長は俺を何だと思ってるんですか?」
「お前はいつも変な物ばかり揃えて来るからな、楽しみなんだよ…クックック…」
何か副長が俺の事を色眼鏡で見ている気がする…解せぬ。
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