アードリーの暴走
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恐ろしい程の技術が組み込まれた『十三』の大幅な改造を施しているアードリーは、精霊石の力を最大限に操る為の動力を造り始めた。今は魔石の魔力を抽出し、更に増幅と言う動力回路に改造されていたが、それだと精霊石の力を抽出が上手く出来ていなかった。そこでアードリーは精霊石からのエネルギー抽出の方法自体を変える事にした。
元来、魔石から魔力を抽出する際に使われている魔法陣は魔力を一気に抽出する様に組まれており、それを増幅するのであるが、それを組み換えて最初から増幅した魔力を抽出し続ける方式にしたのである。魔石でそれを行うと魔石の持っている魔力が少ない為に耐えられず、魔石が直ぐに割れて使い物にならなくなる。しかし精霊石は魔力を強く出力するのでその方が効率も良く、持続的に魔力を上手く活用出来る。
そして、その抽出し続ける良質な魔力を効率良く使う為、全ての関節駆動部の魔法陣を全て組み換える事にする。先ずは使えるエネルギーに合わせて力と速度を引き上げる。それに伴って発生する熱を冷却するのでは無く、それを更なるエネルギーとして魔力に変換し予備の魔力として蓄える。この様に魔法陣を組み換えて各関節駆動を高速化させた結果として『十三』自体の速度が向上したのである。
更に『十三』の動きを制御している処理装置の部分の魔法陣を書き直し、あたかも人工知能の様な処理を行う魔法陣に書き換えて、仮想空間に更なる擬似魔法陣を敷き、過去の戦闘記録から制御や処理の高速化や効率化を計れる様に擬似空間内で魔法陣を自動的に組み換えられる様にした。
最後に骨格と外装の変更である。今はウロボロスの背骨を超硬質強化した物を骨格と外装に使用していたが、コレは耐久性が高い為に破壊される事を考えていなかった。しかし、今回の件から破壊された場合の自己修復機能を持たせる為に、ウロボロスの背骨を加工する際に再生の魔法陣を組み込む方式を採用した。更に外装には三重構造の方式をとり、外側と内側の甲殻部の間に精霊石の魔力による魔法障壁の膜を薄く張る事で魔法防御も与える事にした。これにより外装の外側が破壊されても間の魔法障壁がクッションとなり内側の甲殻部や骨格のダメージを緩和させる事に成功した。
そして、最後は新型の魔法銃の装備である。今までの魔法銃は銃と言うよりは小型の貫通砲のイメージで造り出した。その為に射程距離は長くライフル的な使い勝手の武器であった。コレを今回はサブマシンガン方式を採用する。コレは魔石ベースの魔法銃では絶対に不可能である。何故なら魔力が足りないと言うごく単純な理由からだ。しかし、今回は精霊石と言う潤沢なエネルギーがある。コレを先程の関節部で集めた予備の魔力と合わせて新型の魔法銃のエネルギーとして使うのだ。
魔力は有線方式で両腕上腕部の内側に仕込まれた自動伸縮の蛇腹がまるで生き物の様に魔法銃の受け口にハマる。
精霊石の魔力を帯びたバレットを理論上1分間に600発撃ち出す能力を備えた。但し、1回の射撃時間は最大10秒までで20秒間のクールタイムが必要である。それは予めバレットを作っておき、それを精霊石の魔力を帯びさせで射出する機工の為にストックする時間が要る為だ。
有効射程は100mとなる。コレはバレットの硬度と生成速度との兼ね合いで射程を削り威力と発射速度を優先した結果である。つまり、この魔法銃は近距離専門の魔法銃という事になる。
名付けて『魔動銃』である。
そして超接近戦の武器である小型の短刀をウロボロス製にしているが、その刃に高周波の超高速振動をさせて切れ味を更に上げる事に成功した。所謂『高周波ブレイド』である。コレを左右の腰に差し、背中の左右に取り付けた計4本持たせている。また、鞘に入れてる時に精霊石の魔力を帯びる様にしてあるので5分程度は威力倍増である。
後は細い『隠し腕』を腰周りと両肩に2本づつの計4本取り付けいる。コレで魔導箱から魔法銃や魔石なども取り出したり、背中の短刀を使ったり出来ると言うスグレモノだ。姿を見せておいて、光学迷彩で『隠し腕』だけ隠したまま使用するなどのイヤらしい使い方も可能だ。
それ以外は全てそのままで、もちろん光学迷彩の技術もそのまま利用している。
「良し、まあまあ……こんなモノかな」
早速『十三』に色々と使い方などを教えながら細かい調整を行う。
その後、試験的に接近戦のみをブリジッタと模擬戦でやらせてみたのだが、あの初見殺しの『隠し腕』にはまんまと騙されて『参った』をしていた。
「……ホントにえげつないわね……十三に何て物を仕込んでるのよ……」
「このくらいはやらないとね。相手が相手ですからね!」
「全く……十三はタダでさえ厄介なのに……直すだけじゃ無かったの?」
ローディアスとロザリアもその動きに驚いていた様である。
「そして、今回作り上げた『魔動銃』です。『十三』、射撃を見せてあげて」
『十三』は『魔動銃』を取り出して的に目掛けて撃ち出すと、あっという間に的はおろか後ろの防御壁までボロボロに砕けて穴だらけになった。
「こっ、コレは……」
「嘘でしょ……」
「……」
三人とも絶句している……まあ、サブマシンガンなんて見た事もないので仕方が無いだろう。但し、火薬を使って無いので銃の音は静かである。的に当たった音は激しいが……。
「コレはバレットを超高速で連射して撃ち出すと言う武器ですね。精霊石の力を最大限に使用してます。近距離戦闘に特化させてます」
「閣下!!ご無事ですか??」
メルローや衛兵達までが何事と飛んで来た。そしてボロボロの防御壁を見て驚愕している。
アードリーが予め防御壁の後ろにも二重構造の魔法障壁をやっておいて正解である。
「い、いや……大丈夫だ。問題無い……」
「それで次は……」
「まだあるのか!?」
ローディアスも流石に声を上げた。
「あ、はい。短刀にも仕掛けが御座いまして……『十三』高周波ブレイド!」
『十三』が鉄芯の太い棒を簡単に切り刻むと飛んで来た衛兵達まで驚いていた。
「この様に刃を超高速振動させる事で刃の切れ味が上がります」
切れた痕を見に行ったロザリアが「精霊石の魔力が残ってるわ……」と言っていた。
「鞘に入れてる時に精霊石の魔力を取り込んでるのです」
『十三』は目にも止まらぬ速さでローディアス達の前で膝まづいて頭を下げた。まるで忍者である。
「取り急ぎこのくらいで改造を施しましたが、如何でしょうか?もう少し時間があれば他にも組み込みたい武器などもあったのですが……」
「い、いや、十分じゃないか……なあ?」
「そ、そうね……どちらかと言うとやり過ぎね……」
ほとんどローディアスもブリジッタも完全に引き気味である。
「ヨシ!『十三』!お前は今日から『十三改』と名乗ると良いぞ!フハハハ!!」
『十三改』はアードリーにコクリとうなづいた。それを見たアードリーは大変満足気であった。




