闇の困惑と未来視
更新遅くなりました。
申し訳ごさいませんm(_ _)m
俺が目を覚ましたのは洞窟の中だった。
あの丸い『眼』によってこの洞窟に転移させられたようだ。
忌々しいあの傀儡の一撃は我の首元に突き刺さっていた。しかもどういう訳か精霊の魔力を帯びていた為に回復が遅いのだ。
だが、あの傀儡はもう動けまい……我の一撃を喰らいそうなアシュトレイを庇って自らの身に当てたからな。
《中々回復しない様ね……もう少し魂を集めないと》
『此処に居れば自然と魂は集まる。此処は戦場だからな』
《でも早く回復しないと……アシュトレイ達がやって来るわよ》
『何故焦っているのだ?我が完全体になれば良い。そうすればアシュトレイ達が来ようと負けぬ』
《主が……》
『愚か者め!』
《何を……》
『我が完全体となりさえすれば、もうこの世界にゼスを呼び出す必要は無い。我がこの世界の闇聖となれば良いだけだ』
《……まさか!、そのような事を考えていたなんて……主を裏切るつもりなの?》
『この闇聖の魔力が有れば問題あるまい。貴様の目的も達成出来よう……違うか?』
《……驚いたわね……其れが貴方の野望だとは……》
『その為の進化では無いか。もう我が闇聖ゼスを呼び出す傀儡になる必要はあるまい。我が力を貯めて完全体にさえなれば……』
《貴方は主の力を侮り過ぎているわ。闇聖としての歴史が違うわよ……同じ闇聖の魔力なら絶対的な魔力量が違い過ぎる……》
『この世界に渡る為に大半の魔力量を失うのだから、その必要の無い我の方がこの世界においては貴様の必要な条件を満たしておるはずだ。まあ、よく考える事だ……』
《……とにかく、魂を集める事が肝心ね……》
そのまま丸い『眼』は転移した。
今の戦が混乱する様に互いの司令官を操っている。
我は此処で魂が集まるまでゆっくりと待てば良い……ひと月も有れば完全体に近付くだろう。この闇聖の魔力を完全に操る為には時間と魔力量が必要なのだ。
焦る必要は無い……じっくり行くべきだ。
◆◆◆◆◆◆
(何を愚かな事を考えているの?……主を裏切るなんて……)
丸い『眼』は究極の六芒星がこの世界の闇聖となると言う野望を聞いて驚いていた。
予定ではこの戦の魂を集めて行けば闇聖ゼスを呼び出す準備が整うのだ。後はあの火山に落とされた依代に闇聖ゼスの魂を呼び出すだけなのだ。
闇聖ゼスは向こうの世界の支配者……何億年と言う気が遠くなるほどの光の勢力との闘いに勝利し、混沌の闇としての力量や知識、そして何よりも経験値がまるで違うのだ。
その闇聖ゼスを差し置いて自らがこの世界の闇聖として君臨しようとするなど愚の骨頂である。
(それにしても……まさか闇聖の魔力を手に入れるとは思わなかったわ。依代であるこの人間の考え方に引きずられている事は間違い無いわ。アレが自分の主としたのも分からなくはないわね……)
そう……この依代は考え方が恐ろしく柔軟で突飛である。その『思う力』に闇聖ゼスが向こうの世界で反応したのだ。その為に闇聖ゼスは『闇の種』をこの依代に与えた。それが芽吹き生まれたのが【ザ・コア】であり『魔力玉』である。そして更に進化して『生命玉』まで完成させた。その予想だにしなかった進化には闇聖ゼスでさえ驚きを隠さなかった。その進化に対応する為にファブルを使ってルファトに“魂の奉納の儀式”を特別に行わさせてこの依代に対抗させたのである。その目論見は成功して依代を『闇の御子』に堕とす事が出来たのだ。しかしながら『光の神子』が二人になった事、そしてその二人にファブルを倒された事が完全に計算外であった。
それは全て忌々しい教皇の息子……ハメスによるものである。ハメスによって此方の手筋が全て読まれているのだ。
このまま『闇の御子』である破滅の五芒星がアシュトレイに倒されていれば完全に詰みであった。しかし『闇の御子』はその土壇場で究極の六芒星に進化して闇聖の魔力を手に入れたのだ。このまま闇聖ゼスをこの世界に呼び出せば此方の完全勝利となる。それを……まさかの裏切りで自らがこの世界の闇聖となろうとしている。
(全く……何故この様な事になってしまったのか……依代の……ラダルとか言ったかしら……このラダルは支配者でも狙っていたのかしら?それとも何か他の理由なのかしら?……とにかく厄介な事になったわね……)
この時……いやこの後も丸い『眼』や闇聖ゼスは何故この様な事態になってしまったのか理解する事は無い。
何故ならラダルはただ単に“最強の魔法兵”を目指していただけであるからだ。
彼の歴史は常に挫折の連続である。魔法という魅力的な力を得たにも関わらず魔力が少ない。魔力玉を得て魔力量が上がっても大きな魔法は使えない……その為に常にイメージを力に進化して行ったのだ。
その考え方を破滅の五芒星が受け継ぎ進化してしまっただけなのだ。最強を目指す以上、闇聖ゼスに従おうという考えに到らないのだ。
(とにかく魂を集めないと……先ずはそこからね……)
こうして丸い『眼』の苦悩と努力は続くのである。
◆◆◆◆◆◆
「どうだ、何か“視えた”か?」
現教皇であるカーク=アルテウス=ハルバロンが息子であるハメス=ハルバロンに話し掛けていた。
「ええ……やはり二番目の未来視に沿って事は進んでおります……」
「そうか……心残りが出来るが……仕方あるまいな」
「父上……でも『彼』ならきっとやり遂げてくれます……どうかご安心を……」
教皇のカークも知らぬ事ではあるが、実はこのハメス=ハルバロンは元の闇聖ゼスが居た世界からの転生者である。彼の世界では最終的に闇聖ゼスが勝利して闇の世界となり混沌の闇の勢力が拡がってしまった。
彼はこの世界を混沌の闇にしない為に自ら転生を繰り返し、“未来視”によって闇聖ゼスの野望を常に打ち砕いて来たのだ。
しかし、今回に関しては非常に不味い方向に突き進んでいた。
その一旦はラダルと言う不確定要素に寄る物である。
本来であればラダルの存在自体が有り得なかったのだ。それが転生者として覚醒してしまった辺りから本来の道から逸れ出したのだ。そしてハメスが転生した時には既に止めようの無い所まで来てしまっていた。
この不確定要素の為にハメスが“視える”未来視が三つに分かれてしまったのだ。
そして現在は二つ目の未来視の方向に進んでいた。
「……さあ、もう休みなさい。君は働き過ぎだよ」
「ありがとう御座います父上。後もう少しで終わります故……」
「全く……困ったものだ。誰に似たのやら……」
「それは父上ですよ」
「そのような戯言を……お前は母親に似ておるよ……その生真面目な所がね……」
確かに亡くなったハメスの母は生真面目な性格であったが……本当は転生を繰り返しているハメスの方に母親が似てたのでは無いだろうか?
(さて……後はこの後の闘いが全てを決する事になるだろう……)
ハメスにはどの様な未来視が視えているのか……それはハメス自身と教皇、そして枢機卿である。
……いや、もう一人……それはレディスン=ホークランドである。
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