刃が届く道
それぞれの決意や想いを描いています。
「まあ、行くのは良いとして直ぐには動けんぞ?」
《主を探すのに時間がかかるの。居場所が判明したら我が連れに来るの》
「じゃあそうしてくれ。その代わり戦争が起きたら流石に動けんぞ」
《帝国はアードリーを失って、カリードも重傷を負ったから新兵器も開発出来ないの。だから動けないの》
「ほう……まあ、それならば何とかなりそうですね」
「その様だな。その時が来たら迎えに来いよ」
《わかったの》
こうしてオレたちは共闘する事を確認して執務室を出た。
その後、納入などを終えたクロイフ殿とオレは戻る事にした。
◆◆◆◆◆◆
アシュトレイが帰った後二人は執務室で話をしていた。
「隊長……あのアシュトレイという男とあの『眼』を信用して良かったんですか?」
「アシュトレイが言った事に嘘は無い。魔力にブレが無かったからな」
「確かにそうでしたね……」
「それにしてもあの男……相当の実力だぞ。真面目な話オレでも勝てるかどうか……」
「背中の大剣……アレは“ネームド”で間違いありません。魔力も質が違う気がしました。それに『眼』とかいう……使い魔……でしたか?アレがラダルの視野の広さに貢献してたのでしょうね……恐らく鑑定も出来るのでしょう」
「しかしあの馬鹿が……厄介事に巻き込みやがって……」
「全くです。……でも、生きてて良かったですね」
「フン!だが、これからが大変だぞ……」
「閣下にどの様に報告したものか……」
「そこはお前に任せる」
「……まあ、そうなるでしょうね……何か考えておきましょう……」
こうしてタイラー副長の悩み事がまたひとつ増えたのである。
◆◆◆◆◆◆
「話し合いは上手くいったのですな!良かった良かった……」
「クロイフ殿のおかげだ。礼を言う」
「滅相も御座いません!私はただこの場を設けさせていただけですから……」
「しかし、この土地に来てラダルがどれほど愛されていたか良くわかりました」
「不思議な魅力が御座いましたからね……早くお会いしたいです」
「必ず連れて戻って来ます」
「くれぐれも宜しくお願い致します……どうなったとしても私が面倒を見ますので、どうか……」
「ありがとう……クロイフ殿」
オレはクロイフ殿にヘスティア食堂まで送ってもらい、クロイフ殿はテズール商会へと戻って行った。
「アシュ、戻ったのね!」
「マルソーさん、色々とありがとう。お陰で協力を得る事が出来そうだ」
「何言ってるの……他人行儀ねぇ~。それよりもヘスティアに会って欲しいのだけど……今はラダル君の方を優先してね」
「……ヘスティアが戻ったら『待ってて欲しい』と伝えて欲しい。この件にケリが着いたら会いに行くと……」
「分かってるわ。今度こそ……しっかりしてね!」
「うむ……善処する」
「はぁ……全く頼りない返事ねぇ……」
マルソーさんは困った顔をしているが、本当に困ってるのはオレの方だ……。
◆◆◆◆◆◆◆
「……ふむふむ……コレが増幅装置なのか……都度出力する魔力を変化させて……いやはや、コレは思いつかなかった……」
私は今まで何をやっていたのか……この『十三』の修理を任されてからというもの、自分の未熟さを恥じ入るばかりである。だが、仕組みが解ってくるとそれに対する変更点や改良点も浮かんで来るのは日本人の前世を持つ私の特性なのかも知れない。
アシュに聞いた話ではラダル君も私と同じ転生者だと聞いた。早く会ってみたいものだ。
私の前世はとあるアメリカのメーカーのロボット開発の技術者であった。昔から物を作るのが好きで工学系男子だった私は、パソコンの自作は当たり前、色々な物を分解しては組み立て直して構造を知るのが大好きだった。
大学は勿論工学部で日本ではトップのあの大学だ。大学卒業後、日本の自動車メーカーの自動運転の技術者として働いていた私をヘットハンティングしたのがそのアメリカのメーカーだった。そこで数々のロボットを製作して、そろそろ技術者としては円熟期を迎える歳になった頃にプライベートヨットの事故で死んだのだ。
この世界に転生して来た時に魔法がある事に驚いていたが、もっと驚いたのは魔導具と呼ばれる製品だった。魔力を動力として用いる道具……貧乏貴族に生まれて来た私は、それらを買って貰っては分解して、時には職人に教えてもらい、魔法陣の勉強もして来た。私はそれを前世の技術を用いながら魔導具を生み出して来たのだ。
オートマタも色々と造ってはみたものの、前世と現在の文化の乖離が激しく、中々自分の持つ技術の応用が出来なかったのだ。この世界のオートマタはロボットと言うよりからくり人形の性質が濃い。その為にそういう物だと自分の視野を狭くしていたのかも知れない。
でも、この『十三』は間違いなく魔導ロボットである。からくり人形の範疇を超えたロボット工学の常識が……いや、それ以上の技術が組み込まれていた。本当にコレを造ったドワーフや改造を施したリメックとかいうドワーフの技術者は本当に素晴らしい。出来れば会って話をしてみたいものだ。
『十三』の大まかな構造や動力などの仕組みを理解したので修理と共に大幅な改良を施す予定である。何故かと言うと『十三』の魔力の根源である精霊石の力をこの動力と仕組みでは半分も引き出せないからだ。それは恐らくリメックが改造を施した際に魔石を使う事をベースに仕上げてる為である。その為に精霊石の力を充分に活かしきれないのだ。簡単に言うとハイオクのガソリンを入れてもハイオク仕様じゃないエンジンでは充分に活かしきれないのと同様である。
つまり『十三』を精霊石仕様に改造しなければポテンシャルを発揮出来ない。その為の技術を私は幸運な事に持ち合わせている。
助けてくれた我が友のアシュに報いる為に私の技術全てを使ってこの『十三』を前以上の魔導ロボットにしてみせよう。
「……フフフ……安心したまえ『十三』君。私が必ず修理……いや、魔改造を施して更なる高みへといざなおう……フハハハ!!」
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「……という感じです」
「そうか……御苦労。引き続き監視を頼むぞ」
「かしこまりました……」
メルローからの報告を聞き、まあ魔導具師という生き物はクセのある人物が多いものだと苦笑する。
だが、コレが上手く行けば究極の六芒星に対する駒が増える事になるからな。
我が愛娘のロザリアが教皇様から聞いてはいたものの、あれ程の実力をつけて帰って来るとは思わなかった。出来れば危険な目には遭わせたくは無かったのだが、ここまで来たならば致し方あるまい……。
それにしてもレディスンと言う男……それ程の実力を持ちながら何故……いや、彼が選んだ道だ……恐らく彼とは会う機会は無いだろうが、彼には感謝せねばならぬな。
この道こそが……必ずや闇聖ゼスの首に刃が届く道のはずだ。
それにしても教皇様の御子息であるハメス様の【神託眼】には恐れ入る……。全ては神託の通りに事が進んでいる訳だからな。後は上手く行く事のみを祈るばかりだ。私は枢機卿として支えて行くだけだ。
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