アシュトレイ、カルディナス領へ行く
アシュトレイがカルディナスで思わぬ出会いをします。
『眼』の転移によって帝国から聖都に戻って来れた様だ。アードリーは驚いた様子だった。
「こ、これは……転移、転移したのか??」
「ああ、此処は太陽国ギスダルの聖都だ」
「太陽国ギスダル?聞いた事の無い国だな」
「だろうな。此処は帝国から海を渡ってこないと来れない別の大陸だからな」
「なっ!?べ、別の大陸だって??」
「オレはこの国の隣のイーガルド連合国に飛ばされたんだ。此処に来るまで何年もかかったよ」
「そうか……転移の罠はこんな遠くに飛ばす罠なのか……」
アードリーと話をしているとリストリア家の執事メルロー殿がやって来た。
「アシュトレイ様、お帰りなさいませ……話はブリジッタ様から聞いております。今はお嬢様とお二人で出立の御準備に街の方に行っております。そちらの方は?」
「ああ、彼は私の友人でアードリー=ブラム。優秀な魔導具師なのだよ」
「これはお初にお目にかかります。リストリア家の執事メルローと申します」
メルロー殿は挨拶をしている事をアードリーに伝える。アードリーはこちらの言葉を喋れないからな。アードリーは向こうの貴族の挨拶をしていたよ。
「メルロー殿、アードリーは向こうの大陸の人間なのでこちらの言葉が喋れない。ちょっと面倒をお掛けするが……」
「なるほど……それは少し困りましたな……」
《我が手助けするの。アードリーとパスを繋げるの》
『眼』はそう言うとアードリーの方に向かい、彼の頭の上に移動した。すると『眼』から彼に糸のような物が何本も繋がった……アレは魔力の糸か?するとアードリーは突然「うおおおおぉ!!」と声を上げる!何が起こってるんだ??
「おい!アードリー!大丈夫か??」
《コレで終わったの》
「おおお……コレは……」
ん?アードリーがこちらの言葉を喋り出した……どうなっているんだ?
《アードリーにパスを繋げてこちらの言語を記憶させたの。コレでコチラでも喋れるの》
「そ、そんな事が出来るのか??」
《パスを繋げてやれば我には簡単な事なの》
「……オレやラダルが苦労して覚えたのが馬鹿らしくなってきたな……」
《それよりもアードリーに『十三』の修理をさせるの》
「そうか!その手があったか!」
「じゅうぞう??」
「ああ、ドワーフが作ったオートマタでな、この間の戦いで俺を庇って破壊されたんだ」
「ドワーフだって?!この地には伝説のドワーフが居るのか??」
そうか……良く考えたら向こうではドワーフやエルフは伝説でしか出て来ないからな。
「ああ、居るぞ。エルフやケンタウロスもな」
「おおお……それは凄い……ドワーフに会ってみたい!」
「そのうちな。それよりも『十三』の修理が先だな」
オレはメルロー殿と話をしてアードリーが使えそうな工房を案内してもらう事にした。
リストリア家御用達の工房に案内されたオレたちは挨拶もソコソコに『十三』を魔導袋から取り出しアードリーに見せる。工房の人達も興味津々で見ている。
「……アシュ、コレってウロボロスの骨だろ?」
「ああ、そうだが……それが何か?」
「……お前……それがどれだけ貴重な物か解ってるのか?それをこのオートマタには使われてるんだぞ!修理と言ってもコレじゃあ作り直しだから材料が無いと……」
「何だ……ウロボロスの骨ならオレが持ってるぞ」
「はぁ??持ってるって……」
「此処で出すには大き過ぎるから外で出すか?」
オレは工房の中庭にウロボロスの背骨を魔導袋から出した。アードリーも工房の人間も驚いた様な顔をしていた。
「こりゃあ凄い……コレだけ有るなら修理と言うより一から造り直せるな!」
「なるべく早めに直して欲しいのだが……」
「そうだな……1ヶ月は欲しいな。それだけ有れば完璧に仕上げてみせよう!」
「分かった。なるべく早めに頼むぞ」
アードリーは工房の職人たちとあーでも無いこーでも無いとやり出した。あの様になるともう話は聞けないな……。
《『十三』はアードリーに任せれば良いの。それよりも次の赤い鬼の所に行くの》
「それなのだがな……その赤い鬼?なる人物はラダルの良く知る人物だと言ってたよな?」
《そうなの。主の良く知る人物なの》
「オレは会った事も見た事も無いのだが……」
《それならば安心するの。主が作った食堂の人から商人を紹介して貰えば会う事が出来るはずなの》
「ラダルが作った食堂??……ああ、確かに経営がどうのと……アレは本当の話だったのか?」
《もちろん本当なの。チャージが終わったら直ぐに向かうの》
オレはメルロー殿に事情を話してカルディナス領へ向かう事をロザリア達に伝えてもらう事にした。
しばらくして『眼』のチャージが終わったので転移をしてカルディナス領へと向かった。
「此処がカルディナスの領都なのか?……大きな街になったな……」
オレの知っていたカルディナスの領都はここまで大きくはなかった。しばらく来ない内に随分と発展したものだな。
『眼』は何故か姿を隠している。
《主は我にこうしろと言っていたの》
まあ、フワフワ浮いてるのが居るのもおかしいからな……。『眼』に案内されてやって来た食堂……と言うにはソコソコ高級感もあるその店に掛けられた看板に目をとめた。
「ヘスティア……まさかな……」
偶然オレの故郷の幼なじみの名前と一緒だったので少し驚いたが……先ずは食堂の主に話をしなければならない。
その店のドアを開けると奥からパタパタと足音がした。
「すいません、まだ開店前で……あ、あなた……アシュじゃないの!!」
「マ、マルソーさん??一体どうして??」
「それはこっちのセリフよ!一体何処で何をしていたの??」
「それは……話せば長くなるのだが……」
「とにかくコッチに座りなさい。今お茶を出すから」
案内されるままオレは席に座った……驚いた……まさかオレの故郷ウッドランドで世話になっていたマルソーさんと出会うとは……。という事はヘスティアと言うのはあのヘスティアなのだろうな……元気にしているのだろうか?
マルソーさんはオレにお茶を持って来て席に座った。もう故郷のウッドランドを出てから九……十年は経っただろうか?あの当時も綺麗な人だったが変わらないな。
「とにかく会えて良かったわ。あの子もバカねぇ……ここに居たらアシュと会えてたのに……」
「その……ヘスティアは元気にしてるでしょうか?」
「ええ、元気よ。あなたを探しに旅に出てるくらいね」
「オ、オレを?!どうして?」
「はぁ……全く……ヘスティアもヘスティアだけどアシュもホントに困った子ねぇ……」
マルソーさんに何故か呆れられてるが……何故ヘスティアはオレを探してるのだろうか……?
「とにかくアシュの話を聞きたいわ。今までどこに居たの?」
「うむ……ウッドランドを出てからは冒険者として色々と旅に出て居たんだが、ローレシアで出会ったアードリーと言う奴と帝国に行く途中で転移の森の罠に掛かってしまってね……今まで他の大陸に居たんだ」
「て、転移の森の罠ですって!!」
「ああ……そこから帰る旅をしていた時にラダルと出会ったんだ」
「ラ、ラダル君!?生きているのね?!」
「うむ……生きてはいるのだが……」
「どうしたの??ラダル君に何かあったの??」
オレはラダルと旅をしていた事、そしてラダルが闇の魔力に取り憑かれて変わってしまった事を話した。マルソーさんは驚いた様子だったが、オレの話は一応信じてくれた様だった。
「……ラダル君には本当に世話になっていたの……ヘスティアも随分と気に入っててね、ラダル君はヘスティアを師匠と呼んでいたわ」
「そうか……ラダルが言っていた料理の師匠とはヘスティアの事だったのか。なるほど……懐かしい味がしたのはそう言う事だったのか……」
オレはラダルと出会った頃に食べた料理に懐かしさを覚えていたがようやくその理由が判明したのだ。ヘスティアも確かに薬草料理を得意としていたからな……良く考えればラダルとの話で何故ヘスティアの名前が出て来なかったのか不思議なくらいだ。
「それで……アシュはこの地に何をしに来たの?」
「うむ、それは『赤い鬼』を探しにやって来た」
「赤い鬼??」
「恐らくだが、ラダルがかつて魔法兵として活動していた頃の上官じゃないかと思うのだが……」
「ラダル君の上官と言うと『鬼神ゴンザレス』の事ね」
「鬼神??そうか……でも何故赤い鬼なのか……」
「何でも赤い金棒を振り回すらしいわ。ローレシアの魔神ゾードを倒した時に奪った物らしいわね」
「魔神……あのローレシア最強のゾード=ラル=ダルムの事か??あの化け物に勝ったのか?」
「ええ、カルディナス軍の英雄よ。じゃあアシュはゴンザレスに会いに来たのね?」
「ああ、この店の主人にとある商会の人物に頼んでもらえば会えると聞いてな」
「なるほど。それは恐らくテズール商会のクロイフさんね。それならば今から行きましょう!クロイフさんもラダル君が生きているなら喜んでくれるわ!」
マルソーさんは早速テズール商会に案内してくれる様だ。
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