ファブルの最期
ファブルの最期となります。
「そんな訳無いじゃない!!」
ロザリアはレディスンに食って掛かるが、レディスンはそんなロザリアを戒めた。
「ロザリア、集中しなさい。揺らいではヤツの思う壺ですよ」
「で、でも!」
「話は後です。今はファブルに集中しなさい」
《どうした?そんなにラダルの事が心配か?フハハハ!!残念だが奴はもうこちら側だ。もはや戻る術はないぞ!!》
レディスンはファブルに【星光槍】を放った!
ファブルの居た場所が爆発する!ファブルは少し離れた場所まで逃げていた。
それを見てロザリアは少し冷静さを取り戻した様である。
「いかなる時も平常心は大事だ。【来迎】を維持するにも平常心だよ、ロザリア」
「解ってるわ!」
ロザリアは平常心を取り戻し【来迎】を以て神光の魔力を練り始めた。
《どうした?小娘?ラダルの事はどうでも良いのか?》
その声は集中しているロザリアには届かない。そして、空中に魔法陣が現れた!
「【太陽光線】!!」
いち早く危険を察知したファブルだったが、右肩を腕ごと消滅させられた!
《おのれ……小娘……》
その刹那、レディスンがいきなりファブルの間合いに飛び込んで行く!
「【月光斬】」
レディスンの魔力の斬撃によりファブルの胴体が真っ二つに斬られた!がしかし、ファブルの斬られた胴体から黒い糸が出て上半身と下半身を繋げるように元に戻ってしまう。
《よくも……やりおったな……許さぬぞ……》
そう言うとファブルは胴体を元に戻した後で右肩から腕を生やした。ファブルは何やら呪文を唱えると身体が巨大化していった。
《もう手加減は辞めだ!全員ここで死ね!》
ファブルの手から無数の黒い針が放たれる!レディスンとロザリアはそれを掻い潜りながら攻撃を続けていた。
一方、ブリジッタとマルデウス、ドンピエールの三人も流石に疲労の色が濃くなっていた。巨大な魔法陣からは止めどなく黒い影のような魔物が出て来ていた。
(コレではまるでスタンピードだな……)
ブリジッタはそう考えていた。倒しても直ぐに湧いてくる魔物に手を焼いていた。
マルデウスは相変わらずヘイトを掛けながら影のような魔物をブロックしながらミスリルの剣を振り回し奮闘しているし、ドンピエールは広域魔法を放ち続けていた。疲労の色が濃くなっているのはドンピエールであろう。魔力が枯渇しそうになりながらマジックポーションを飲み、魔法を撃ち込んで居るからである。ブリジッタも魔力を使いながら敵を倒しているのでマジックポーションを咥えながら魔力を回復している。
(このままでは持たない……早くファブルを……倒してくれ……)
ブリジッタはその様に考えながら魔物に立ち向かっていた。
その状況をレディスンは冷静に見ていた。ファブルは本気を出したと言って居るが、恐らく限界が近いと判断していた。その限界に寄る隙を待っているのだ。そして、その時がやって来た。
《面倒だな……ならばコレで全員死ね!【黒糸羅刹】!》
ファブルの全身から黒い糸が噴き出すように発射され五人全員に襲いかかった!レディスンはこの瞬間を待っていたのだ。
「【月光壁】!」
その黒い糸を断ち切りながらファブルに降り注ぐ月の光……ファブルは全く動けなくなった。一気に魔力を放出したのを見計らって、レディスンはその一瞬の空白を利用してファブルの自由を奪ったのだ!
「ロザリア!今です!」
ロザリアはファブルの周りを囲む様に無数の魔法陣を張り巡らせた。
《や、辞めろおぉぉぉぉ!!》
「コレで終わりよ……【太陽電離】!」
【太陽光線】が魔法陣で反射され光跡を激しく生み出し、その囲まれた魔法陣の中で神光の魔力が激しく動く回っている状態になり中に居る者を分解してしまうのだ。
《グオオオオ!!!!……こ、の……オレが……まけ……》
ファブルはこの刹那何を思っていたのか……。
この瞬間、五魔人最強であった【呪怨】のファブルの存在が消滅した……。
そして、巨大な魔法陣は姿を消して影のような魔物も消え失せた。マルデウスとドンピエールはその場で仰向けに倒れ込んだ。
戦いの後、ロザリアはレディスンにラダルの事を聞き正していた。
「師匠!説明して!ラダルが破滅の五芒星になったって……」
「ラダル君はファブルの眷族であるルファトとの戦いで闇の扉を開いて破滅の五芒星へと闇堕ちした」
「そんな……ラダル君はどうなるの?」
ブリジッタも話に加わる。レディスンは二人に思いもよらぬ話をしだした。
「この件についてだけれど……君達二人は一旦聖都に戻りなさい。後は教皇様より話が有るでしょう」
「教皇様??」
「そうだよ、この件についてはローディアス枢機卿もご存知だからね。とにかく聖都に戻り話を聞くんだ。良いね?」
「パパも知っているの??」
「そうだ。我ら三名はこの事を事前に知っていたんだ。君達に言わなかったのはファブル討伐に集中してもらう為だったんだ。済まなかったね」
「そんな……」
「ロザリア、それは正しい判断だと思うわ。ワタシでも動揺しそうだもの……」
「……それは……分かったわ……それで師匠は?」
「私はやる事がある……二人と一緒には行けない」
「やる事?」
「ああ……とても大事な事だ。ロザリア、ブリジッタ……後は頼んだよ」
「……分かったわ。とにかく聖都に戻るわ」
「師匠……」
「ロザリア、君は私の弟子の中でも最高の術師、つまり後継者だ。光の神子としての技を極めるのだ。そして、その技を自分の子孫にも伝えるのだよ……それが必ずこの世の為になる。解ってるね?」
「……解ってるわ」
「ブリジッタ、くれぐれもロザリアの事頼むよ」
「任しておいて」
「ロザリア、君には私の全てを授けた。君はその素質だけでなく大変な努力家でもある。だからこの道は苦難も多いと思うがそのまま突き進んで欲しい。私の登った高みまで……いや、その先まで行って欲しい」
「解ってるわ!やって見せるわ!」
レディスンはロザリアの返事に大きく頷いた。
そして……この別れがレディスンとの最期の別れとなるとは二人は知る由もない……。
「それからマルデウスとドンピエール、君達二人は私と一緒に来て欲しい。コレは教皇様よりの仕事の依頼書だ」
レディスンは二人に教皇からの書状を見せた。二人は驚いていたが事情は理解した。
「依頼は受けよう。それで何処に行くんだ?」
「私達の目的地は……『カノッテス大迷宮』だよ。そこに行くにはマルデウス……君のネームドが必要だ」
レディスンが『カノッテス大迷宮』に行く理由はその内に明らかになるが、それはまた先のお話……。
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