魂の奉納の儀式
遂にロザリア一行がファブルと相対します。
マルデウスに案内されてファブルが居るとされるアデリーナムの近くまでやって来たロザリア達一行は少し休憩を取っていた。
「後一日でドンが待ってる場所に着く。ドンと合流したらいよいよファブルとの一戦だ」
マルデウスにそう言われた後、ブリジッタは前からの疑問を話し出す。
「ファブルは今居る場所で一体何をやっているのかしら?」
「そこまでは俺もドンも調べがついていない。何をしてるかは分からん……謎だ」
「恐らくファブルは『魂の奉納の儀式』をしているのだろうね。その祭壇が今居る場所に有るのだろう。だから奴は此処を離れられないのだよ」
レディスンがその様に答えると皆は驚いていた。ロザリアはレディスンに聞く。
「それって何??」
「山脈の向こう側では“光の御子”の子孫と言われる伏龍の一族に代々伝わる秘伝の書《破魔天龍之書》という物があり『闇聖ゼスは更なる闇を広げる為にこの世界を支配しようと目論むもこの世界に入り込む術を持たず。その為にその世界に居た闇に近しい者、五魔人に力を与える代わりに魂を闇聖ゼスに奉納す。之が魂の奉納の儀式である』と書かれているんだ」
「五魔人?それって『破滅の五芒星』の事?」
「それは違う。破滅の五芒星とは“闇の御子”の事を指している。《破魔天龍之書》には『魂を集める事でこの世界への道を創らんと闇聖ゼスは更なる魂を求めて自らの分身をこの世界に誕生させる事とす。その“闇の御子”は五魔人を引き連れてこの世界を地獄とす』と書かれている。また闇の御子に関しては『闇の御子、額に黒き五芒星を宿し、闇の術を駆使し死人の山を築く……』とある。つまりファブルは五魔人の一人で破滅の五芒星は別の人物なのだよ……」
「じゃあ叙事詩エルクスードの書いてある事と違うじゃないの!!」
「そのエルクスードを知らぬのでどう書かれてるかは知らないが、恐らくは山脈を超えたこちらに話が来る途中で変わってしまったのだろうね」
その話題にブリジッタが入って来る。
「ちょっと待って……それが本当なら他の魔人はまだ居るの?」
「光の御子に倒されたのは闇の御子と二人の魔人と言われている。残り三魔人の内レブルはラダル君とアシュトレイが倒しているから、残る魔人はファブルとリルブルという事になる。だが、リルブルが魂を集めている形跡は向こうには無い」
「こちらで調べた物でもリルブルの記述は少なくて、しかも随分と前の話だしね」
「だとすると実質『魂の奉納の儀式』をやっているのはファブルだけという事になるだろうね」
「じゃあファブルさえ倒してしまえば、その闇聖とやらは復活しないのね?」
「……とりあえず可能性が低くなるだろうね。とにかくファブルは倒さなければならない。一刻も早く『魂の奉納の儀式』を終わらせる為にね」
「分かったわ!!早くファブルを倒しましょう!」
ロザリアはそう言って水筒の水を飲んだ。ブリジッタはレディスンの歯切れの悪さが少し気になっていたが特に何も質問はしなかった。
休憩後、直ぐにアデリーナムの方向に向かった。アデリーナムと言ってももう村は存在しない。ルファトによって村は全滅させられていたからである。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その村の傍らにある倉庫らしき場所に『氷鬼』ことドンピエールが山の方を見張っていた。
(中々の禍々しい魔力だな……流石は魔人ファブルというところか……)
《其れはお褒め頂き光栄であるな》
ドンピエールは魔力を身にまとい壁を突破って表に出た!
《何も慌てて出る必要は無いのだかな》
(全く気付かなかった……恐ろしい程の魔力操作だな……)
《またも褒めて貰うとはな》
「なっ……まさか……」
《お前の思っている通りオレはお前の思考を読んでいる》
やりにくい相手である……タダでさえ魔力の違いがあるにもかかわらずこのハンデはキツい。
「ならばやれるだけ……『氷雨』!!」
空からファブルに向かって無数の氷柱の雨が降る!しかしファブルが手を振ると氷柱が粉々になった。ファブルは愉快そうにドンピエールを見ていた。
「ならば【極氷棺】!!」
ドンピエールが地に手をつけて唱えるとファブルの足元から氷が出現してファブルを覆って行く!!コレがドンピエールの得意技。広範囲にも個体に対しても有効な魔法で絶対零度の氷に閉じ込めて活動を停止させる氷結魔法である。
(こんなもので止まってくれれば助かるのだが……そうは行かぬだろうな……)
《その通り。しかし中々の魔法だな……殺すには惜しい気がして来たぞ……フハハハ!!》
ファブルを閉じ込めていた氷にヒビが入ったと思うと氷が爆発した様に飛び散り、その氷の破片がドンピエールに襲い掛かる!しかし、ドンピエールはその氷の破片を操りファブルに浴びせた!
《ほうほう……そう返して来るとは大したものだ》
ファブルは魔法障壁を張って氷の破片を弾き返していた。ドンピエールの思考を読んだのだ。
《楽しかったぞ……【魔力糸】》
ファブルから無数の黒い糸が出現してドンピエールに襲い掛かる!!
「!?【極氷壁】!!」
絶対零度の氷の壁が出現してドンピエールを護る!が、ファブルの黒い糸が氷を突き抜けてドンピエールに突き刺さる!!
「ぐっ!こ、これは……」
《もはや逃れられぬぞ。『氷鬼』ドンピエール……》
ドンピエールは身体の自由を奪われている。
(つ、強い……コレがファブルか……)
《さて……どの様に傀儡にしてやろうか……!?》
突然、光が差した瞬間、ファブルの黒い糸が全て断ち切られていた!!
《こ、これは??》
するとドンピエールの目の前にロザリアが仁王立ちをしている。
「お前がファブルね!このロザリア=リストリアがお前の相手よ!」
「ロ、ロザリアちゃん??」
「ドンおじ様!後は任せて!」
《これは……バカな……光の御子いや神子か??アレの高位だと??》
「良かった、間に合った様ね」
「ブ、ブリジッタ??お前まで……一体どうなってるんだ??」
ドンピエールもロザリアとブリジッタの魔力に驚いている。それほど五行を鍛錬した者の魔力はその質が変わるのである。
「話は後よ。とにかくファブル倒さなきゃ!」
「そいつは思考を読むから気をつけろ!!」
するとドンピエールは後ろからマルデウスの魔力ともう一つ……圧倒的な魔力をドンピエールは感じ取った。
「大丈夫ですよ、ドンピエールさん。一人相手なら思考を読むのは効果的ですが、この人数では読み切れませんよ」
駆けつけたマルデウスがドンピエールの方に向かった。
「間に合って良かった!彼がロザリアちゃんとブリジッタの師匠のレディスンさ」
「し、師匠だって??それにしてもコレは……」
驚いていたのはドンピエールだけでは無い。ファブルもその魔力に驚きを隠せない。
《き、貴様のその魔力!まさか……光の神子がもう一人だと??》
レディスンはファブルを睨み付けて話し掛ける。
「もう、魂の奉納の儀式はこれで終わりです。貴方の永年の宿願もここ迄ですよ」
《貴様……良かろう。ならば本気を出すまでだ》
ファブルが魔力を一気に上げる!
《【傀儡召喚之陣】!!》
ファブルの足元から大きな魔法陣が出現して、そこから黒い影のような魔物達がどんどんと出現して来る!そして、ファブルはその中からドラゴンの様な巨大な影の魔物に乗り、レディスン達を見下ろした。
《さあ、これからが戦いの始まりだ!!踊れ!!傀儡共!!》
その魔法陣から湧き出る様に現れる魔物達……しかし、ブリジッタが【天翔る雷覇のフュルフュールレイピア】を抜いて一気に加速して襲い掛かる数十匹の魔物達を一瞬でズタズタに斬り裂いた!
「雑魚は私達が引き受けるわ!レディスンとロザリアでアイツをお願い!」
「任せて!!」
「ロザリア、油断してはいけませんよ」
ロザリアとレディスンがファブルの方へと向かって行く……。
こうしてファブルとの一戦が始まったのである。
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