精霊ミコト再び
アシュトレイは樹龍国へと向かいます。
オレは軍馬で闇龍国を移動する。目指すは土龍国だが、その前に樹龍国へ行かなくてはならない。あのケンタウロス達とはせっかく良い別れをしたと言うのに、まさか戻る羽目になるとは思わなかったな……。
かなり急いで移動しているが軍馬は本当に疲れ知らずだ。しかし、これから先も頑張って貰わねばならないから無理し過ぎない様に加減をしなければな。
途中、魔物に襲われたりも有ったが流石に魔法を使って退けた。もちろん『十三』の狙撃も大いに役立った。何せ飛距離が凄まじいからな。『眼』の指示で軍馬の不安定で揺れている中でも簡単に命中させるのだから大したものだよ。本当にオレの味方として付いて来てくれて助かった。
『眼』は上空から遠くを見てオレを導いてくれている。途中の村で軍馬を休ませながらもなるべく急いで闇龍国を抜けていく。
そして、あのアゼラル将軍と出会った砦までやって来た。オレはシウハが用意させた魔導袋の中に入っている書状を砦の責任者に渡すと、その責任者がオレに荷物を持って来た。
「シウハリア様から手渡す様にと指示が御座いました」
「シウハから?一体どうやって??」
「遠耳と呼ばれる魔導具でやり取り出来るのです。伝えられる文字数に制約が有りますが……」
「そうでしたか……それで、これは一体何を?」
「ケンタウロス族の砦でこれを見せればすんなりと通してくれるはずです」
「そうか……それはありがたい」
「道中お気を付けて……」
「感謝する。ではコレにて……」
挨拶もそこそこに軍馬に乗り、そのまま砦を出でいく。そして、樹龍国にそのまま入りケンタウロスの砦まで軍馬を走らせていると、『眼』からケンタウロス達がやって来ると念話が入った。丁度良いのでそのままケンタウロス達の方に誘導して貰った。
『お前はアシュトレイでは無いか?!』
「おお!久しぶりだな!」
『確か故郷に帰ると言ってた筈だが?』
「そうだったのだが、色々事情が変わってな……」
『……そうか、とにかく少し休め。流石の軍馬もお前も疲れが出ているぞ』
「うむ……では少し休ませてもらおうか。とりあえずコレを見せろと預かって来た」
オレは砦で貰った袋をケンタウロスに手渡すと中身を見て『確かに急ぎの様だな』と理解してくれた。
オレは道すがらそのケンタウロスに事情を話すと、少し考えた後に『族長に相談してみよう。何か名案が浮かぶやも知れん』と言ってくれた。
ケンタウロスの砦に着くと、彼は直ぐに族長に相談しに行ってしまった。オレは軍馬を休ませて馬用の餌や水などを頂いた。
そのうちに族長自らがやって来た。
『話は聞いたぞ。にわかには信じがたいが……』
「嘘であればどんなに楽かと思いますが……」
『そうであろう……それで思い付くのは、やはりハイエルフに相談して見るのも手では無いかな?』
「ハイエルフ……ですか?」
『確かあの小僧はカリシャスと面識が有ると言っていた。力を借りてみてはどうかな?』
「……しかし、オレはマトモに話すらしていないからな」
『コレを持って行け。ワシの出す手形だ、持って行けば話は聞いてくれるだろう』
「それはありがたい……感謝します族長!」
『緊急事態でもあるからな。ただ、少し休んでいけよ……軍馬もお前もな』
オレは族長の好意に甘えることにした。この砦で一泊させてもらい、次の日に砦を出発した。
途中、アラクネの街で軍馬を休ませながら飯屋で休憩がてら食事をしていると、店に居たアラクネに声を掛けられた。
『お前、ラダルの知り合いか?』
「ああ、今までずっと旅をして来た仲間なんだ」
『ああ……やはりな。ラダルの臭いがしたからな。アイツはどうした?』
「……実は……」
オレはアラクネに事情を話すと、そのアラクネは『少しここで待っていろ』と店を出てしまった。食事を取りながら待っているとアラクネが戻って来て、オレに風防付きのマントを手渡した。
『ラダルには世話になった。これを持って行くといいぞ。ここから先は天候も悪くなるからコレを身に着けていけ。水も弾くし通気性も抜群だ』
「良いのか?こんな良いモノを?」
『ラダルから貰ったハサミはこの程度では恩返し出来ぬ逸品だった。是非着て行ってくれ。ラダルを頼んだぞ』
「うむ、では御好意に甘えるとしよう。有難う」
オレはアラクネから貰ったマントを着て軍馬を走らせた。途中のの道程でかなり雨に降られたが、アラクネのマントは雨を弾いて実に快適であった。
そろそろエルフの居る砦までやって来ると『眼』から念話が入る。
《ハイエルフのカリシャスが居るの》
砦の前でエルフ達が待ち構えている……その中心にカリシャスが居た。カリシャスが俺の方にやって来た。オレが手形を見せると頷きながらオレに話しかけて来る。
「アシュトレイ、久しぶりだな。待っていたぞ」
「待っていた?……何故?」
「とりあえず時間が無い。私と一緒に来てくれ」
カリシャスの言うがままにその後について行く。オレはこの間は入れなかった砦の中に入る。ラダルから詳しく話だけは聞いていたが、砦の奥に大きな門があった。そこから中に入るとエルフ達の街に入る。そしてオレはその更に奥に入って行く……直ぐにそこは神聖な場所であると理解する。そこには大きな樹が立っている……コレがラダルの言ってた……。
《その通りです。良く来ましたねアシュトレイ。私は精霊樹の精霊ミコト……貴方の相談事について話をしましょう。ラダルが破滅の五芒星として闇堕ちした事は知っています。貴方はこのまま土龍国に行き、ラダルの行方を追って下さい。きっと導きがあるはずです》
「ミコト様……オレは……」
《貴方がギスダルの教皇から受けた神託の事は存じています。貴方は其れを必ず遂行して下さい》
「そ、それは……!」
《はい、つまりは神託の通り……ラダルを倒しなさい。という事です》
「オレにラダルを倒せと……」
《はい。貴方は“今のラダル”を倒すべきです。そうしなければ世界は滅びに向かうでしょう》
「……オレにラダルを……殺せるのか??」
《貴方は神託の通りにすれば……これ以上は言えませんがそうするのが最善の手です》
「最善……の手……」
《その為に覚えて来たのでしょう?神聖魔法を……ならば必ず遂行しなさい。心の迷いを捨てるのです》
オレはどうやら教皇の神託通りにしなければならなくなった様である。しかし……オレにはまだ迷いがあった。
《貴方の心の中の葛藤は当然の事です。しかしながらこうなってしまったからには神託の通りにせざる負えません。貴方はこの様になった時の事もレディスンから頼まれていたはずですよ》
……レディスン……。
(もし、ラダルが闇の扉を開けてしまったら……躊躇せずに神託の通りにしなさい。そうする事でもう一つの未来視が動き出すでしょう……まあ、そうならない事が一番良いのですがね……)
確かにレディスンも同じ事を言っていたな……。
そう言えばその後に妙な事も……。
(今までの旅でラダルは色々な物を手に入れたはずです。その全てはある未来視に繋がっています。ラダルにとって重要な……とにかく私を信じて下さい)
確かこの地でも何かを貰っていたはず……。レディスンは自分を信じろと言った……ならば、信じる事が……。
《神託は絶対です。レディスンも其れが視えていたから貴方に託したのです。其れを信じなさい》
「……分かった。オレは躊躇しない……」
《その全ては未来の為に……》
オレは覚悟を決めた。
ラダル……お前を倒す。
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