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一筋の希望

第四章の始まりです。

しばらくはアシュトレイ視点の物語となります。

ザルスとマゼラムの遺体を前にシウハは気丈に振舞っていた。しかし、辛いのに決まっている……国を出て幽閉されていた皇弟陛下を助ける為に、片や常に傍らで右腕としてシウハを支え、片や魔影の頭領としてあらゆる情報を送り続けシウハを支えた二人が死んでしまったのだから……。


「アシュトレイ、もうそんな顔をするな。二人は良くやったんだ」


「うむ……だが……オレは……」


「二人共、覚悟はしていたさ……だから自分を責めるなアシュトレイ。それよりもお前はやる事が有るだろう?」


《アシかえュトレイ、そろそろ出発するの。主を早く止めるの》


確かに、『眼』の言う通りなのだが……オレはあの瞬間にも魔法を使う事を躊躇してしまった。ルファトを倒す為に使っても良かったはずなのに……オレは馬鹿だ。


「それならば少しだけ待ってくれ。渡す物がある」


そう言ったシウハが合図を出すと魔影の人間だろうか、何かの小箱を持って来た。


「開けてみてくれ、役に立つと思うぞ」


箱を開けて中を見ると、見た事のある棒が二つ入っている……コレは……。


《我の鍵なの》


「ああ、城の宝物庫からな。昔宝物庫で遊んだ時に見た事があってな……役に立つと良いが……」


「済まない……恩に着るぞ」


《鍵を早く挿すの》


鍵を持つと『眼』がそれを挿す方向を向く。小さな眼がある方だ……眼に鍵穴が出現する。オレがその鍵穴に挿し込むと、『眼』はクルクルと高速で回りだす。そして、ピタリと止まると眼が大きくなっていた。


《未来眼が千里眼に進化したの。レベルが戻れば色々と“視える”様になるの》


色々と……何が“視える”様になるのだろうか?オレはもう一本の鍵を持つ。すると『眼』はまだ挿しても居ないのにクルクルと高速で回りだした。


《アシュトレイ、やったの。それは転移眼の鍵なの。レベルが戻れば転移出来る様になるの》


そう言うと『眼』はピタリと止まった。オレはその面に鍵を挿し込むと、またもクルクル回りだした。中々に忙しい……。

大きくなった眼が妖しく蒼く光る。


《レベルが戻るまでしばらく掛かるの》


「どうやら役に立った様だね」


《シウハは良くやったの》


「ふん……お前に褒められてもねぇ……お前はあの丸いのと関係あるんだろう?」


《シウハはアレに会った事があるの?》


「ああ、アレはザルスに逢いに来たんだ。闇の扉を開けろってね」


《ザルスが闇の扉を開けても破滅の五芒星(ベインペンタグラム)にはならないはずなの》


「それはどういう事だ??」


《闇の扉は人外化するの》


「人外化??」


《本来は魔人になるはずなの。主やアシュトレイは特別だったの》


「特別だと?それは一体?」


《主やアシュトレイは闇聖ゼスに何らかの影響を受けているの。おそらくアシュトレイは全属性持ちである事で、主は多分【ザ・コア】がその影響なの》


そんな……オレが全属性持ちなのは闇聖ゼスの影響を受けたからなのか?かなり衝撃的な話だな。


「もっと早く言って欲しかったな……」


《千里眼に進化した事で“視えた”の》


「そう言う事か……」


「あのまん丸……おそらくはザルスを手先にでも使おうとしたんじゃないかい?結局、アレには情報を聞けるだけペラペラと喋らせてアタシらはトンズラしたけどね」


《良くアレから逃げられたの》


「ザルスが持ってた遺跡の……変な形の箱に閉じ込めようとしたら丸いのが慌てて消えたわよ。だからそのまま逃げれたのさ」


《……ザルスはあの箱を持ってたの……》


「あの箱??」


《アレには閉じこめられたくないの……》


何か余程嫌な事があったのだろうか?『眼』のこんな感じは初めてだな。

そんなオレ達にシウハが声を掛けてくる。


「向こうにアシュトレイの軍馬は用意してあるよ。他にもタヒドの野郎に準備させたから……あっ、その箱もザルスの遺品から抜いて入れといたからね、持って行きな。アシュトレイ……ラダルの阿呆の事……頼んだよ」


「ああ……色々と済まない」


「だから謝るなってぇの!しっかりおし!」


《あの箱は余計なの》


「あのまん丸を閉じこめられるだろう?アンタもしっかりおしっ!」


《……仕方が無いの》


シウハははよ行けとばかりにシッシと手を振った。

オレは言われるがままにタヒドの元に行く。

タヒドは軍馬と荷物を小さな魔導袋に入れて用意してくれていた。


「アシュトレイの旦那ぁ……ラダルの旦那を……どうか……」


タヒドは目を真っ赤にしていた。ラダルの事を話してからずっとこの調子だ。


「ああ、このまま闇聖ゼスの思う様にはさせない。必ずラダルは助けてみせる」


「お願ぇしますぜ……旦那ぁ……」


オレは軍馬に跨ると『十三じゅうぞう』が姿を現して俺の前にチョコンと跨った。

十三じゅうぞう』はラダルが闇堕ちする前に『何があってもアシュのおっちゃんを守れ。そして、もし俺に何かあったらアシュのおっちゃんの言う事を聞け』と指示を受けていたのだと『眼』から聞いていた。

ラダルはいつでも色々な状況を想定して念の為の一手を必ず打っている。出会った頃から不思議に思っていたが、前に前世の記憶を持っていると聞いてそれは妙に納得出来た。どう考えてもあの思考は13歳くらいのガキの思考じゃないからな。


「じゃあ行くぞ。タヒド世話になったな」


「と、とんでもねぇ、世話になったのはアッシの方ですよぉ……旦那ぁ……くれぐれもラダルの旦那を宜しくお願ぇしますぜ……」


「ああ、任せておけ。じゃあな」


オレはは軍馬を走らせてラダルが向かった方向……土龍国の方に駆け出した。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「……行っちまったねぇ。さて、どうなる事やら……」


呆然と見送っていたアッシの後ろからシウハの姐さんが声を掛けてきやした。


「ラダルの旦那は大丈夫なんですかねぇ……」


「……さぁね……まあ、なる様にしかならないだろ」


「……お頭ぁ……じゃねぇ……シウハリア様はこの後はどうするんですかい?」


「あぁ?お頭で良いよ……気持ちが悪いねぇ……この後って何だい?」


「いやぁ……そのぉ……城に戻られるんで?」


「馬鹿言ってんじゃ無いよ。アタシはこのまま武商旅団を続けるよ」


「へぇっ??本当ですかい??」


「当たり前じゃないか。せっかくここまでにしたんだ。これからもっと大きくするよ、だからお前もしっかりおしっ!」


「へ、へい!分かりやした!」


アッシはどうやら武商旅団にこのまま居られる様でさぁ。本当にありがてぇや。

ありがてぇと言やぁ、ラダルの旦那から最後に渡されたモノがあった。それは『甘露の雫の壺』だ。『タヒドはコレが好きだからな。今まで頑張ってた礼だよ。オレはもう一個持ってるからさ。必ず少しだけ残すんだぞ?そうすれば翌日には元の量に戻るからな』ってアッシに……。ありがてぇ話だよ……こんなろくでなしのアッシの事を何だかんだと考えてくれて。

だからアッシは教えてもらった通りに商人として頑張りやす……だから、旦那も、どうか元に戻って欲しいんでさぁ……。


お読み頂きありがとうございます。

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