闇の扉(後編)
この章のラストです。
倒れたザルスに駆け寄った俺はすぐ様ザルスを抱き起こした……出血が酷くもうダメな事は直ぐに判ってしまう。
「ザルス!!」
その時シウハがこちらを見てこう言った。
「ザルス“様”!!」
それを聞いたのかザルスはシウハの声がした方を向いた。
「そ、そうか……よ、良くやった……な……」
そのまま俺の腕を掴んだザルスは俺の方を向いてこう言った。
「あ、あの……転移……して来た……殺せ……」
「ああ、分かってる!もう直ぐにくたばるよ!」
するとその転移して来た眷族らしい男が半笑いで俺に話しかけて来る。
「くたばる??フハハハ!!やれるものならやっ!!!」
ソイツは台詞を全部言えなかった。言う前に『十三』に首を斬られてバレットをその頭と胸に撃ち込まれたからである。その瞬間にアシュのおっちゃんがルファトに斬りかかっていた!
「ザルス!もう終わったぞ!」
「そ、そうか……ラ、ラダル……ス、すまない……足手……まといに……」
「何言ってんだ!しっかりしろ!」
「ザルス様!!」
シウハが『十三』に守られながらこちらにやって来た。
「フ、フフ……やはり……似ている……な……」
「仰せの通りに……」
「ラ、ダル……ま、まだ……気付かぬか?」
そこまで言われて……まさか、そんな……。
「彼……女……は、マ、マゼラム……だ」
「影武者……」
「はい……私はシウハリア様の双子の妹です。何かあるかもとザルス様の指示で、念の為に入れ替わっていたのです」
そうか……初めて会った時に声を聞いて……シウハに声が似ていたから違和感を感じてたのか。
「ラダル……や、ヤツを……倒……」
ザルスはその先を言えなかった……俺の中に怒りの気が渦巻いてゆく……。
「ザルス様!!……」
「良いか『十三』、彼女を安全な場所まで連れて行くんだ」
『十三』はコクリと頭を動かした。シウハ……いや、マゼラムを連れて行く。
俺は【血魔法】の赤い霧で彼女を包み、防御しながら外に出そうとした。
《【闇の爆針】!!》
ルファトの周りから無数の黒い針が飛び出して行く!!アシュのおっちゃんは神聖魔法で防いだがその針は当たると爆発を起こしてアシュのおっちゃんを吹き飛ばす!そして、俺の赤い霧にも命中すると爆発して、赤い霧を段々と薄めて行く!不味い!!
マゼラムを包んだ赤い霧を爆発で薄めた瞬間、彼女を守っていた『十三』が吹き飛ばされた!
「『十三』!!」
その直後、ルファトより発射された黒い氷柱がマゼラムを貫いた!!
……俺の読みが甘かったのか……?
……ああ、俺にもっと魔力が有ればなぁ……
【……理の力が欲しいか……?】
……もっと強ければなぁ……
【……理の力が欲しくば……その扉を開けよ……】
……アイツを倒せたらなぁ……
【……その扉を開ければ思いのままよ……】
(闇の扉は開けてはならない)
……ザルス、俺は……
(闇の扉は開けるなよ……)
……アシュのおっちゃん……
【……お前ならば……その理の力は制御出来よう……】
……制御……そうか……制御出来れば……
……今までだって……そうだ、魔法はイメージだ!!何時だってそうやって来たじゃないか!……
《主、しっかりするの!扉を開けてはダメなの!》
……『眼』……大丈夫!制御してみせる!……
……俺に……俺に魔力を分けてくれ!……
俺は【闇の扉】を開いた!!
その瞬間、闇が俺を呑み込んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
《アシュトレイ!主が闇の扉を開いたの!》
「なっ!?」
ラダルを取り巻く闇の力が突然尋常じゃないレベルに噴き出して来ている!
しまった!!もっとラダルに気を使うべきだったのに!
ラダルはゆっくりと立ち上がってこちらに顔を向けた……。
【……ふ……ふふふ……】
ラダルの声が全く知らぬ者の声になっている……これは一体……??
《アシュトレイ!避けるの!!》
オレはその瞬間、無意識に横に飛んでいた……が、何かの衝撃を食らってしまった……
「くっ!こ、これは……」
オレの脚が斬られている!傷は浅いが……いつの間に!
《おい!貴様……何をしている!!》
ルファトがラダルに吠えている!
だが、それを無視しているとルファトは黒い氷柱をラダルに撃ち込んだ!!しかし、黒い氷柱はラダルの前でピタリと止まって動かない。
そのうちラダルから赤く……いや、“紅く”濃い霧が噴き出してくるくるとラダルの周りを旋回してる。
【……永かったぞ……この四千年……やっと器が手に入った……コレは上物だ……】
《き、貴様……何を言っている!!》
【……ん?……何を吠えている?……ああ……『噛ませ犬』だから吠えているのか……】
《!か、噛ませ犬だと!!》
ルファトは膨れ上がったその魔力で作り上げた大きな剣をラダルに向けて振り抜いた!!
その瞬間、ラダルが消えたと思ったらルファトの首を手に持って現れる!!
《な!何で俺の胴体が??》
【……情けない……それが最後の言葉か?噛ませ犬君……】
その瞬間、ルファトの首が黒い炎で激しく焼かれていた!!
《ギャアアアアァァァ!!!!!》
首が焼かれると同時にルファトの身体も黒い炎が噴き出した!
【……さて、始末も着いた事だし……貴様も始末するとしようアシュトレイ。あの時大人しく闇の扉を開けていれば死なずに済んだものを……魔法を捨てるとは愚かなり……】
「だ、誰が開けるものか!貴様一体何者だ??ラダルはどうした??」
【……我か?……まだ気付かぬのか?……ならば……】
そう言ったラダルがこちらを見るとその額に真っ黒な逆五芒星が浮き上がった!!
【……我こそが、破滅の五芒星也……】
俺に向けて『溶岩弾』が発射されたが、それを『十三』が短剣で斬り落とした!
【……ほう……元の持ち主の意向に従うか、傀儡よ……】
その時、戦場の方よりキラがやって来た。いつもと雰囲気が違う。
『ニャアア!!!!』
【こやつは眷属だけあって我に従う様だ……まあ、貴様などいつでも殺せる……我はまだ力を出し切れておらぬ……魂を集めに行くとしよう……】
そう言うとラダル……いや、破滅の五芒星はキラに跨り、そのまま飛んで行ってしまった……。
「こ、こんな……馬鹿な!!」
《……アシュトレイ……我も止め切れなかったの……》
一体どうしたら良いのか……やはり教皇の神託通りに……彼を……破滅の五芒星を殺さなければならないのだろうか??
◆◆◆◆◆◆◆◆
《フ、フハハハハ!!まさか、この俺様が噛ませ犬を創り出さされていたとは……俺も地に落ちたものよな!フハハハ!!》
そう言ってファブルは笑いながら山脈の向こう側を睨み付ける。
《せっかく俺の獲物だと思っていたのにな……だが、それもまた一興よ……これからがまた面白くなって行きそうだな……フハハハ!!》
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
レディスンは山脈の向こう側を厳しい目で睨んでいた。
(やはり……あの未来視は変えられなかったかアシュトレイよ……だが……)
「師匠??」
「……ああ、何でもない……さあ、行くとしよう」
(だとすれば……“この”未来視もまた……)
レディスンは拳を握りしめて前に進んで行く。
目指すはファブル居る場所である。
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次は四章でお会いしましょう。




