それぞれの想いと思惑
決戦前の皆の思惑です。
アドラ城から首都であるラスカンドルまでは二ヶ月ほどの道のりである。そして進軍中のダークス陛下の皇帝討伐軍にやって来る貴族達が雪だるま式に増えて行く。それは現皇帝が支持されていないという証である……何故なら現皇帝がクーデターを起こしてその座に就いた事が全ての原因である。
そんな中、馬車の中で座禅を組んでいたラダルは意識の中に度々赤黒い扉を見る様になっていた。コレが闇の扉という奴なのかと気が付いた本人は、色々と聞いていた為に開けようという気にはならなかった。しかし、コレが出現するという事は自らの闇属性の深度が上がった事なのだろうと理解していた。
アシュトレイは自分の器が五行の修行により真円に近付いている事を感じ取っていた。そして、首狩りの大剣の素振りをする際にスムーズな魔力を通せる様になった事も自覚するようになる。彼の【魔法剣士】としての型が作られつつあった。
シウハはこの戦いに勝利したら、ダークス達に全てを任せてこのまま野に下るつもりでいた。自らの隠れ蓑として誕生させた『武商旅団』に愛着も出来たし、今まで苦労を共にして来た仲間達の行く末が気になっていたからだ。そして魔影の事も……その為にも先ずは勝利を目指す事だけを考えていた。
ザルスは最後の決戦に備えて準備をしていた。この決戦が終われば今までの全てにケリが着く。勝つにしろ負けるにしろである。そして、ザルスはこの戦いが終わればそのままシウハの前から姿を消すつもりであった。コレは前々から考えていた事であり、ラダル達との出会いで山脈の向こう側へ行ってみたいというのもあったからである。
ダークスはこの戦いに勝利する事だけに注力していた。恐らく兄はもう駄目なのだろうと考えていた。救えるものなら……と考えていたがどうやらそれは無理の様である。本来であれば兄の片腕として国を盛り立てて行くつもりであったが……。戦いに勝利した後は付いて来てくれた者達と共に国を治めていくつもりであった。
タヒドはこの戦いが終わればラダル達と別れる事になると思っていた。生まれ故郷に帰る事を知っていたからである。正直、商人としてはイマイチだった自分がここまで力量を上げれたのはラダルのお陰だと感じていた。本当であればラダル達について行きたい気持ちもあるが、この地で一旗揚げたいという気持ちが勝っていた。この戦いの結果を待つしかないとタヒドは腹を括っていた。
そんなそれぞれの思いや状況を乗せたまま首都へと進んで行く。
◆◆◆◆◆◆
ルファトは討伐軍を今か今かと待っていた。この戦いで大量の魂を集める為である。
ルファトはファブルの力を得て村人達の全てを惨殺した後、ファブルに言われていた通りに大将軍の軍と戦い“ワザと”首を跳ねられた。それで魔人の眷族として完全覚醒する事となったのだ。しかも村人達や大将軍の軍の奴らの魂を『魂の奉納の儀式』で奉納した事によりルファトの魔力も【闇聖ゼス】の闇の力を得る事となり飛躍的に強さを増していた。
そしてファブルの命を受けやって来た闇龍国においても争いや虐殺をさせて魂を奉納し続けた事で更にその力を増していたのだ。その強さは魂の奉納の儀式を止めていたリルブルを遥かに超えていた。彼の中にあるのは復讐の二文字だけである。
《早く来い討伐軍……お前達の相手は我が操る皇帝軍と我の屍兵共が相手をしよう。多くの魂を奉納する為にな……そして、お前を殺してやるぞラダル!!フフフ……》
ルファトに皇帝と同じ様に操られた軍を討伐軍にぶつけて疲弊させる。そしてその討伐軍を喰らい尽くす為に大量の屍兵共を召喚して魂を集めようと画策していたのである。それは全てラダルへの復讐の為に……。
◆◆◆◆◆◆◆
「そろそろ着くのかい?」
俺が聞くとザルスがこちらを見ながら返事をする。
「ああ、後もう少しだ」
「戦いもいよいよ本番だね」
「うむ、コレで全てが終わる……」
「シウハの護衛頼んだよ」
「ん?いや、お前達と行くぞ」
「はあ??」
「どうやらルファトとやらは強そうだ。お前達の手助けをするよ」
「シウハはどうするのさ??」
「アゼラル将軍が守ってくれるから大丈夫だ」
「う〜ん……ソレってどうなの?」
「……どうとは?」
「ザルスはシウハの護衛なんだろ?シウハの護衛を放り出して俺達の手助けをするのは本末転倒に感じるんだけど?」
「シウハには魔影も居るから大丈夫だ。それよりもルファトとやらを倒してこの戦いを終わらせたい。それがシウハを守る事にもなるしな」
「まあ、それなら構わないけどさ。キラはアゼラル将軍達と一緒に戦わせる予定だし、『眼』と『十三』は俺達と来る予定だから」
「その話は聞いているから問題ない。ルファトを必ず仕留めよう」
「もちろんさ。故郷に帰る前にケリを着けるよ」
俺はこの時一抹の不安を感じていたけど、まさかあんな事になるとは全く気付いてなかった。
そして、最後の決戦が始まろうとしていた。
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