作戦決行の前準備
いよいよ皇弟陛下を助け出す作戦が始まります。
アゼラル将軍との手合わせを終えて俺達はこれからの事についての会議となる。
まさかこの手勢でガチンコ勝負って事も無いだろうからね……流石にそりゃあ無理があるし。
まず、幽閉されているダークス皇弟陛下を助け出すのだが、それには囮の作戦を仕掛けてからそれに気を取られている隙に救出する作戦なのだと言う。
幽閉されているアドラ城の近くにあるダイス砦を攻め落として騒ぎを起こす。近くのアドラ城にいる兵士達も鎮圧に向かわなくてはならない。ある程度の兵士達が居なくなったらダークス陛下を救出すると言う作戦だ。
救出には隠密行動が必要なので俺とザルスと魔影の頭領マゼラムを中心とした魔影部隊で決行する。アシュのおっちゃんとキラはシウハとアゼラル将軍達と共にダイス砦の方へ、『十三』と『眼』は俺達と隠密行動に向かう。
それにはまず俺達は目立たぬ様にバラバラに分かれて移動をしなければならない。アシュのおっちゃんはアゼラル将軍の従者としてシウハと共に移動をする。『眼』と『十三』とキラはシウハの近くで警護させる。『眼』と『十三』はシウハをアゼラル将軍の居城に送った後で俺と合流する。
俺はザルスとタヒドと共に旅の商人の護衛として馬車移動をする。武商旅団の傭兵達もバラバラに分かれて商人達と共に護衛として移動をする。
魔影部隊はいつもバラバラに動いており、そういう移動はお手の物だと言う。
各自二ヶ月ほど時間をかけてダイス砦の近くにあるロイトという街に集まる事になった。
ザルスとタヒドと言う中々無い組み合わせで馬車に乗り、ロイトを目指して進んで行く。
「シウハと一緒に行かなくて良かったのかい?」
「どちらにしろアドラ城の方に行くんだ。こちらに居る方が効率的だ。それにアゼラル将軍やアシュトレイも居るからな。それよりもキラはともかく『眼』と『十三』まで行かせて良かったのか?」
「シウハを守るには『眼』の偵察は必要だからね。キラは近距離で『十三』は遠距離での対応が『眼』を介して連携出来る。そうすればやはり連携してるアシュのおっちゃんがフリーで動けるから守りは完璧になるからね」
「なるほど……そこまで考えていたか」
「当たり前だよ。シウハは言わば今回の戦いの大将だからね。大将の守備は欠かせないよ」
「まるで考え方が兵士だな」
「そりゃあ魔法兵だからねぇ〜。これでも伍長を任されてたんだから、このくらいは考えるさ」
「そうか、そう言えばその様な事を言ってたな……本当の事だったのか」
「カルディナス軍4番隊の伍長さ。故郷に戻ったらまた軍に復帰するつもりなんだ」
「兵士にか?辛いんじゃないか?」
「まあ、キツい面もあるけど良い上官と仲間に恵まれてるからね」
「……オレには良く判らんな」
「そうかい?シウハを手助けして来たのに?」
「それはお互いの利益の為だ。オレは忠臣であるアゼラル将軍とは違う」
「ふ〜ん。まあここまで来るのにシウハが無傷で来れたのはザルスのお陰だと思うけどな」
「……雇い主を護るのは当然の事だ」
「まあ、良いけどさ……それよりもあの棺桶どうするかだよ。何か考えてる?」
「火山に落とす」
「それ好きだね!」
「それ以外に何か良い手でもあるのか?」
「うーん……」
「やはり火山だな。途中で火山に落とすぞ」
「どうしてもって言うなら、まあ、良いけどさ……」
という事で途中に有るマレナ火山に立ち寄る事にした。マレナ火山は前にも噴火してる火山で今も溶岩が流れてたりするらしい。棺桶は魔導袋に入ってるので、その袋ごと火山にぶん投げると言う結構アバウトなやり方だ。まあ、魔導袋は溶岩の熱で焼けちゃうから中身が飛び出てそのまま沈んで行くだろう。魔導袋は勿体無いけど背に腹はかえられぬしねぇ。
そのまま一週間ほど進むと溶岩が流れてる山が見えてくる。こりゃあすげぇな!どっかのワイハーみたいじゃねーの?
ザルスと俺はそのまま山を登って行き、火山の火口に魔導袋を投げ捨てた。すると魔導袋が燃えて中身の棺桶が飛び出てそのまま溶岩の中に沈んで行った。
「これならば少なくとも引き揚げようとする輩も居ないだろう」
「うーん、確かに知らなきゃ……ねぇ」
「さあ、行くぞ。次の仕事が待っている」
俺は一抹の不安を抱えながらもその場を立ち去る。結果的にこの方法は後々悪手となってしまうのだが……。
俺達はそのまま馬車を進めて二週間後に途中の町であるローライにたどり着いた。ココで補給も兼ねて情報を仕入れる。タヒドには宿の手配と市場での情報を仕入れて来てもらい、俺とザルスは町の飲み屋に行く事にする。店に入ると早速変なオヤジに絡まれた。
「オイオイ!ココはガキを連れて来る様な場所じゃねーぞ!!」
睨みつけたザルスを制して俺はそのオヤジの所に行く。
「何だ?テメー!」
「まあまあ、そう言わずに一杯奢りますから、おねーさん!コチラにもう一杯!」
「あ?奢ってくれるのか?あんちゃん、そいつは悪いねぇ!!」
「ちょっと聞きたい事が有るんですけど……」
俺はそのオヤジから今の闇龍国の現状やら噂話などを聞き込んだ。闇龍国の今の皇帝はかなり恐れられている様だ。かなり評判は宜しくない。先の皇帝派を一掃して自分の好きな様に戦争を起こした。また、何百人と城では殺されているとか言う噂まで流れている。やはり魂狙いで戦争やら城で殺しをやったりしてるのか?首都には近付かない方が身の為だとまで言われた。皇帝の側近については特に噂は無いようだ。俺はそのオヤジが潰れるまでとことん飲ませる事にした。翌日に思い出さないようにする為だ。完全に正体不明になってたよ、酒呑みオヤジはご苦労さまでした。
宿を手配していたタヒドが色々と市場で情報を仕入れて来ていた。俺の情報と似たり寄ったりだったが、皇帝の側近について面白い話しが聞けたらしい。
何でも皇帝の側近はココ最近何処からかやって来た男だという。闇魔法の使い手でかなりの腕前だと言うのだ。その商人の話では皇帝に仕えていた魔導師達を全員叩きのめして側近の座に着いたと言う話をしてたらしい。
まあ、ファブルの眷族ならそのくらいは朝飯前だろうね……しかし本当の実力はイマイチ判らんのだがね。
ある程度の物資を調達した俺達は一泊した後、直ぐにその町を離れる。そしてまた次の街へと向かうのだ。
数々の情報を仕入れながら街を渡り歩くこと一ヶ月、遂に俺達は目的地であるロイトにやって来た。俺達はちょっと早く着いたので宿を手配して他の連中が来るまで更に色々と情報を仕入れる。
皇弟陛下が幽閉されているアドラ城はかなり厳重な警備をしているらしい。但し、大勢が警備している様なので物資も消費するので商人は出入りしやすそうである。
俺達はタヒドを通じて食料品を運んでいる商人と仲良くなり、手伝いを買って出た。何度かその商人と仕入れに同行する様になると毎度顔を合わす衛兵とも仲良くなって馬鹿話なども出来るようになった。子供だと思われているので話もしやすいし聞きやすい。
「大人が渡すと目立つから」などと言って酒などを少し持って行くと、交代の時間とかをペラペラ話し出す。こんな感じでと色々と準備をしていると『眼』と『十三』がロイトまでやって来た。
「ご苦労さま。向こうはどうだった?」
《問題は無いの。作戦通りにやるの》
いよいよ作戦の開始が迫っていた。
お読み頂きありがとうございます。




