アラクネと翁絹
アラクネ族の街を訪ねます。
次の目的地であるアラクネ族のいる街まで1ヶ月ほとかかった。
その道中に『十三』のテストを兼ねて常に馬車の上で監視をさせていたが、精霊石の効果により機能の低下や止まる事は無かった。と言うより機能の向上が見える程である。
というのも、ドワーフによる改造がスペックを上げていた様だが、今までの魔石ではスペックダウンしてないと消耗が激しいので此処ぞという時以外は自動的に省エネ運転していた様だ。ところが精霊石はその心配が無い為に、常にフルスペックで動いているので、普段のスピードも向上していたのだ。今までは使わない時はランドセルに仕舞ってたけど、今はずっと出しても問題ないので常に馬車の上で監視させている。
『十三』が遠くの魔物を撃ち倒すと、キラがそこに走って行き食事をして魔石を持って帰り『十三』に渡している……正に自給自足の共生関係となっている。食べた後満足そうな血ダルマの顔を拭いてやるのは俺の仕事になっている……俺、コイツらの主人だよな?
とはいえ最近では魔石が腹の4次元ポ……じゃねぇ魔導箱に入り切らなくて俺に魔石を渡して来る様になった。その魔石を一日1個づつミスリルの芽の鉢に入れて1週間経つとミスリル収穫って訳ですよ。俺、向こうに帰ったら働かないで食って行けそうじゃね?
そんなこんなで着きましたよアラクネ族の街。アラクネ族はかなり文明的な生活を送っており、彼らのが出す糸やその糸で織る反物はかなりの上物である。また、彼らは衣類の縫製の腕が恐ろしく良いので、彼らの作る服も評判が良くて他の土地では高額で売れる。
そしてこの街で俺の最大の目的は塞翁で買ってあった翁絹の反物で服を作る事なのだ。ここのアラクネ族は服を早く仕立てる事が出来るのだ。俺はアラクネ族の中でも飛びっきり腕の良いアラクネを紹介してもらった。
『何の用だい?』
「コイツで服を作って欲しいんだが……」
俺が翁絹の反物を出すとそのアラクネは驚いた様に反物を取り上げて凝視している。
『お前の服を作ればいいのかい?』
「ああ、この糸を使ってくれよ。肌着の上下作って欲しい」
『余った分はアタシにくれるなら引き受けるよ!』
「ああ、構わないよ。大至急で頼むよ」
『そうかいそうかい……二日後に来るんだ。キッチリ仕上げとくよ!』
「分かった!宜しく!」
俺はちゃっちゃと話を着けて店を出た。タヒドは驚いた様に話し掛けてきた。
「旦那ぁ〜??良いんですかい??」
「もちろん。あそこでごねるのは上策じゃないよ」
「何か損してる気がしやすけどねぇ……」
「まあ、見てなよ。それよりも商売は上手く行ってんのか?」
「ココは通貨が流通してやすからね!バンバン仕入れてますぜ!!」
「ここの製品は何でも手に入れたいからね。サイズとか色々と有るんだろうね?」
「もちろん!多少合わなくても伸び縮みしやすからねぇ〜」
そう、このアラクネの糸や翁絹などの特殊繊維は多少の伸び縮みでサイズピッタリになるのが特徴なのだ。だから上のサイズ買っておくとピッタリ合うから人気なのだよね。
そのアラクネ族は何よりも翁絹が大好きなのだという。自分で出す糸よりも魔力が柔軟で心地良いのだとか……だから先程のアラクネの職人も上物の翁絹を見て目を丸くして驚いてたのさ。そういう訳なので予め余った分はくれと要求されるのは織り込み済みだ。
狙いは優秀な職人であるアラクネの服である。だがその場で交渉するのは得策では無い。どこの世界でも職人は難しい。だから作る物に関しては最小限必要な事だけ伝えて後はお任せ。気分良く物を作って貰ったその時が交渉どころである。
仕入れをタヒドに任せた俺はアラクネ族の街を色々と見て回った。
独自のの文化を持つアラクネが作る建物の形は何と言うか……造形が変わっていて入り口が大きい。まあ、蜘蛛の下半身が有るから大きいのも納得なのだが。器用に建物の壁を登ったりするので飛んでもない高い場所に入り口があったりとホントに独特の文化文明である。
彼らの多くは女性の上半身であるが、雌雄とはあまり関係の無い物だと言う。と言うのも彼らは全員が卵を産めるので上半身が男性でも卵を産むのだとか。
彼らは人間を大して敵視してはいない。と言うかあまり他民族を敵視しない種族らしい。彼らの興味は服を作る事その一点であるらしく、戦闘をすれば強いらしいが自ら望んでやる事は無いとの事である。
また、上半身が人なので人間に服を作るのも全く抵抗が無い。だから服を作って喜ばれるのは彼らの喜びでもある様だ。
だからココでは物々交換では無く通貨が使えるのも人間との交流により服が売れて、他の品物も手に入るという文化的になった証でもある。だから他の民族とは物々交換なので余り取り引きも行わない様だ。
その昔は狩りをして生肉を食べていたらしいが、今や彼らは放牧地に食糧となる羊や牛、鶏の類いを飼っている。それの世話も彼らは交代でやってるらしい。そして料理をしてそれを食す様になった。その為、調味料等も使う様になって来て人間から仕入れをするのだという。まあ、その文化をアラクネ族に持ち込んだのは人間なのだが……。彼らの中には中々の調理師が居るらしく多くの食堂が有るのも特長である。手先も器用で頭の良いアラクネ族は調理師としても優秀なのだとか。
俺は何軒かの食堂を回って料理を味わったが、中々美味しい料理を食べる事が出来たよ。次の日にアシュのおっちゃんとタヒドを誘って一番美味しかった店で食事をしていると、ザルスとシウハが入って来た。
「おやおや、この店を見つけるとは流石だねぇ〜」
「ココが一番美味しかったからね!シウハの行きつけだったのかい?」
「まあね。この街で飯を食うならココが一番だからねぇ〜。この味音痴のザルスでさえココの料理には目がないのさ!」
「……味音痴……」
何か味音痴とか言われて驚いた様な顔してるけど、だいぶ前から俺もそう思ってたぞ……ザルス。
その後五人でそのまま飲んだり食ったりしながらこの先についての道のりを話した。
ここでの仕入れが済んだら、ケンタウロスの居る土地を抜けて山越えをするらしい。というのもこの先の平地は樹龍国と闇龍国が戦争を繰り広げているからだと言う。
そちらを避ける為にはケンタウロスの土地を通るのだが、彼らには何かしらの貢ぎ物を持って行くらしい。彼らは人間を格下と見てるのでコチラが下手に出る分には問題は無いらしい。山越えをすれば鎖国状態の闇龍国にこっそりと入れるらしい。闇龍国でデカい仕事が有るらしく、それが終われば港街の『海神』に行くという。そこが俺達の目的地になるのだ。そこで大陸を渡る船への乗船手配もシウハの方でやってくれるのだという。
まあ、闇龍国でのデカい仕事ってのが多少気になるけど……まあ、何とかなるっしょ!
次の日に例のアラクネを訪ねて翁絹の肌着を引取りに行った。
『来たな。コレが今回の品だ……本当に良い仕事が出来たぞ。あの翁絹は特上品だったからな』
とりあえず試着室で試着させてもらう……吸い付くように一体化した肌着は魔力を帯びており、快適な温度や湿度の調整をある程度はやってくれる。しかも解れたり穴が空いても修復してくれるのだ。
「このまま着ていくよ。ホントに良い物をありがとう!」
『気に入ってくれたのなら何よりだ。どうだ、私の店の物もいくつか持って行くと良いぞ。代金は貰ってるからね!』
タヒドは目を丸くして俺の方を見てる……ほらな。だから言ったろう?
俺はアラクネと相談しながら何と七点ほどの品物を仕入れる事が出来た。余りに申し訳ないので少しお代を出そうとすると要らない怒ったので、エルフの街で仕入れたミスリル製のハサミをプレゼントした。
『こんな良い物を……』
「こちらこそだよ。それで更に良い服を作ってね」
『……分かったよ。精進するよ!』
タヒドは俺に最後のハサミはやり過ぎだろうと言ってたが、あのハサミはあのアラクネが使った方が良いと思っている。傑作を作るのにあのハサミが役に立つなら……そう思ったのだ。
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