精霊樹の精霊ミコト
エルフの街での出来事です。
『眼』はカリシャスの方に向かって喋り出す。
《良く我の鍵だと判ったの》
「お前の紋様と似ていたからな。恐らく関係のある物だと思って取って置いたのだ」
《流石はハイエルフなの》
「何気に二人とも随分と親しげに話しますねぇ……」
「あの時は『眼』に助けられたからな」
《命が助かって良かったの》
「命を助けた?『眼』が??」
「うむ……私の故郷にある精霊の杜が汚染されてな……その時に『眼』がその当時の主とやって来た。そこで感染経路を『眼』が見つけて感染源の魔物をその当時の主が退治してくれたのだ。お陰であの杜は助かった……もし杜の精霊樹が枯れたりでもしたら我々は生きて居られなかっただろう」
カリシャスは身に付けていたペンダントを見せた。何かの種のようだ…何の種だろう?
「コレは精霊樹の種だ。故郷の精霊樹から落とされた物でな……コレを魔素の濃い場所に埋めれば精霊樹が生えてくる。』故郷を出たハイエルフに必ず持たされるのだが、コレを考え出したのはこの『眼』だよ」
《故郷の精霊樹が枯れても他に精霊樹が有れば何時でも増やせるの》
「なるほど、リスクヘッジか……」
「りすく……何だ?」
「ああ、リスクヘッジとは危険を予測してそれに対応するって事です」
「ほほう……確かにそれだな……りすくへっじ?と言うヤツだ。ただし、まだ種が成熟し切ってないから植えられないのだがね」
《そんな事は無いの。もう植えても良い頃合いなの》
「何?まだ色が変わってないぞ?」
《色が変わらないのは身に付けているからなの。しばらく置いておけば色は変わるの》
「何と……その様な話しは長老も言って無かったぞ」
《普通は箱の中に入れて持って行かせて居るはずなの》
「ああ……確かに箱に大切にしまって置けと……大切にするなら肌身離さず持っていた方が良かろうと思っていたが……そういう事だったか……」
《もう植えると良いの》
「うむ……もうそろそろ精霊樹を植えねばと大分前から思って居たからな……では植えるとしようか」
《それが良いの。主と一緒に行くの》
「ラダルも連れて行くのか?」
《主は我と一緒なの》
「……良かろう。着いて来るといい」
カリシャスに街の奥の方にある結界の森に連れて行かれる。今は魔力が尽きてるから何も感じないが魔素の多い場所なのだろう。確かに神聖な感じのする森だなぁ。
カリシャスはその森の奥の方にある少し広い場所に精霊樹の種を植えた。
すると直ぐに芽吹いたかと思ったらどんどんと大きくなって行く……オイオイ嘘だろ?!ジャックと豆の木かよ!!
しばらくは普通に見ていたカリシャスも驚き始めているぞ……コレって何かおかしくねぇか?
「ここの魔素ならこのくらいにはなると思って居たが……まだまだ伸びるとは……これは想像以上の大きさになるな……」
もう結構な大樹になってますよコレ……縄文杉とかのレベルじゃねぇの?つか、まだまだ大きくなってんだけど……あっ、やっと止まった。
《思った通り、結構な大樹になったの》
「イヤイヤ……デカ過ぎじゃねぇの?つか、成長早っ!!」
「種になってから五百年は経ってるから、その分直ぐに大きくなるはずだが……余程ココの魔素と相性が良かったのか、予想の倍の幹の太さになったな……」
「えぇぇ……つか、種からのカウントなのかよ……」
《精霊樹は種になった時点から理の力を貯めていくの。そして成熟して植えられると貯まっていた理の力を解放して、その土地の魔素と融合しながら一気に成長するの》
「これ程の大きさならばもう精霊が目覚めそうな感じではあるな」
「精霊??この樹に?」
《精霊樹は名の通り精霊を宿す樹なの》
「普通は植えてから百年か二百年はかかるのだがな……」
すると樹から光が出て来てハイエルフの周りをクルクル回り出す。そして樹の方に戻るとその光が大きくなって子供の形になった。
《カリシャス……ご苦労でしたね。私は精霊樹の精霊ミコト……この杜の精霊となりました……》
するとカリシャスは膝を着いて精霊ミコトに頭を下げる。
「ミコト様、末永くこの杜で我らを見守り下さい」
《その役目、精霊の名の元に必ずや成し遂げましょう……そしてラダル……貴方にもお礼を申し上げます》
「へっ?俺??」
突然話を振られてあたふたするわ!でも俺何かしたか?
《貴方のスキルでこの杜の魔素が一気に引き寄せられたのです。その為に精霊樹が本来よりも大樹となり、私は直ぐに精霊化出来たのです。本当に感謝致します……》
「ああ……そういう事かぁ……俺の【ザ・コア】が魔素を引き寄せたのだね……今は俺の魔力が空になっているからね」
「何と……それで大樹に……そういう事だったのか……」
《我の目論見通りなの》
「はぁ?……偶然だろ?」
《失礼なの。主のザ・コアが精霊樹の魔素を集めるには持ってこいなのは分かっていたの。今の主には魔素を集めてもブーストの影響で魔力玉に貯まらないから集めた魔素は精霊樹に取り込まれるの》
「それでラダルも一緒に連れて来たのか?なるほど……流石は『眼』だな」
《当然なの》
マジかよ??まあ、確かに一緒に連れて来たのはコイツの提案なのだけどさ……何か釈然としねぇなぁ……。
《ラダル、貴方が持っているミスリルの芽の鉢を出して下さい》
おお、流石は精霊……俺の持ち物まで解るのか……まあ、精霊から貰った物だしね。俺はランドセルからミスリルの芽の鉢を取り出して精霊ミコトの前に出した。精霊ミコトは何かを唱えながら鉢を触る。するとミスリルの鉢が輝き出して鉢の半分程に入っていた銀色の砂が鉢の目いっぱいまで増えている。
《コレで芽吹くミスリルの大きさが倍くらいになるでしょう》
「おお!!そいつは凄い!」
《如何にも主が喜びそうな褒美なの》
ハイハイ、どうせ銭ゲバですよ!!悪う御座いましたね!!でも今までは親指くらいのだったのが倍くらいになるとは……イヤイヤたまらんね!!
そうか、この銀色の砂がミスリルの大きさに関わって居たのだね。それにしても不思議な砂だなぁ〜。
《私はまだ生まれたばかりでこの位しかお礼が出来ませんから……》
「イヤイヤ!、十分なお礼ですよ!」
《そんな事はありません……貴方が居なければ私の精霊化には百年以上かかったでしょうから……カリシャス、貴方が昔に預かっていた物がある筈です、アレを渡して差し上げなさい……渡すべき者とは彼ですよ》
「ミコト様……まさかアレを……委細承知致しました。ラダルには先程の甘露の雫の礼もしたいからな。後で屋敷に戻ろう」
《それではカリシャス、後は貴方にお任せします。私はこれからこの杜を見て回ろうと思います……ではラダル、貴方に精霊神の加護が有りますように……》
「お気持ち感謝します」
精霊ミコトはそのまま光の玉となり杜の奥へと消えて行った。
「……ラダルよ、精霊が人間の前で自ら名乗るのは中々無い事なのだ。それ程感謝しているという事を理解して欲しい」
そう言えば確かに他の精霊は名乗らなかったな……なるほどなるほど。
その後、カリシャスの屋敷に戻ってあの部屋に通される。
待ってる間に『眼』にカリシャスから貰った鍵を差し込む。これも新しい面の鍵だ。クルクル高速回転する。今回の眼が何になるのか。
《移動眼なの》
「移動眼?もしかして転移とか出来るのか?」
《進化すれば転移眼になるの。今はまだ1mくらいなの》
「ショボッ!!」
《失礼な言い草なの》
でも、転移眼になれば船使わないで帰れるんじゃね?
次に俺は『十三』にピンク色の精霊石を嵌めてみる。
「どうだい?十三?」
すると『十三』はウォーミングアップ代わりと部屋中を天井も含めて走り始めた。うん、動きには支障はない様だね。
そんな事をやってる内にカリシャスが箱を持って来た。さほど大きい物では無い。
「先程のミコト様よりのご神託通り、ラダルに必ずや必要になる物だと言われた物だよ……私には良く解らないのだがね……」
箱を開けると中に本が入っていた……色は白で高級な辞典の様な本だ。手に取って中を開こうとすると……開かない……えっ、どういう事?
【○○○の導書】
クラス:不明 属性:○○○
○○○の為の導書。○○○についての詳しい解説がなされている。○○○の力を得なければこの導書を開ける事は出来ないし、○○○を読む事すら出来ない。
○○○って所が読めない?……何の導書なのかさっぱり解らん。何なのコレ?罰ゲームなの?
「ミコト様からの念話では『この先、この導書が必要になる時がきっと来ます。その時に必ずや役に立つはずです』との事だった。私はコレを三百年ほど前に古参のハイエルフから譲り受けた物でな……“何れこの導書が必要な者が現れる”とだけ聞いていた。まさか君がそうだったとは驚きだが……是非受け取って欲しい」
何か謎が深まったばかりである。
一体この導書に何が書かれているのか?それに伏字の○○○とは何なのだろう??
「とにかくありがたく頂戴しておきます。そのうちまた必要になるのでしょうから」
「うむ、ラダルにミコト様が詳しい事は教えなかったという事は、もしかすると君への試練の様なものかも知れないな。その時が来るまで大切にして欲しい」
「分かりました。感謝です」
「それとこちらは感謝の品だ。これも受け取って欲しい」
カリシャスは木製の札を取り出す。
「コレを持っていれば他に点在するエルフの里で攻撃されずに済むはずだ。持って行くと良いぞ」
「ありがとうございます。コレなら遠慮無くエルフの里で商売出来そうだ」
《世話になったの》
「世話になったのはこちらの方だ……またも助けて貰った……また会えるかな?」
《縁があればまた会えるの》
カリシャスと『眼』は何かしらの縁で繋がっているみたいだし、また逢えると思うけどな。
こうして謎の導書を受け取った俺はカリシャスに見送られながらエルフの街を出た。
そして武商旅団の元に戻ったのである。
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