ハイエルフと『眼』
いよいよエルフの街で商売をします。
ハイリザードマンから教えて貰った方向に向かってひたすら旅をする事3週間……魔物を蹴散らしながらやって来たのはエルフの砦である。
先ずはキラに乗って俺が砦に向かう。
途中まで行ったところでキラの目の前に矢が突き刺さった。中々速いなぁ。
俺は懐から例の手形を取り出して向こうに見せながらキラを歩かせる。すると向こう側から二人のエルフがやって来る……こりゃあかなりの手練だな……まあ、本気出せば倒せるけどね。ブーストまでは要らんでしょ。
「止まれ!貴様、ソレをどこで手に入れた?正直に言わぬと……」
「ハイリザードマンから貰った。島に居た魔人リルブルを倒してやったからそのお礼だってさ」
「な、なにぃ!!魔人リルブルだと??」
「馬鹿な!証拠でもあるのか?!」
「う〜ん……この手形がその証明なのだけどねぇ。んじゃあリルブルの【暗黒魔法】を使ってやろう。ヤツから手に入れた魔法だからね!」
俺は【黒霧】を発動させて圧縮した矛を作り上げる。
「コレでどうかな?」
「……間違いない……ヤツの技だ。その貴様が何しに来た?」
「香辛料を持って来たので商売がしたいんだ。他にも色々有るからどうかね?」
「……しばし待て。確認して来る」
俺は矛を消してからキラの上で待つ事にする。しばらくすると向こう側から飛んでもない魔力を持ったヤツがやって来た……おいおい……コレが噂のハイエルフ様ですかね??
「……貴様がリルブルを?冗談も休み休み言え……」
「もちろん俺一人じゃあ無いけどね。仲間も呼ぼうか?」
「良いだろう……」
俺はアシュのおっちゃんを呼んでこの場に立ち会わせる。
「確かにその者の魔力……只事では無いが、それでもまだ足りぬ」
「仕方ないか……アシュのおっちゃん、俺だけ使えば流石に分かるだろうからさ」
「心得た」
「じゃあ俺だけちょっと魔力を増やすよ“ブースト”!!」
俺の魔力が桁違いに上がる。驚いたハイエルフが攻撃の体勢を取ったので【血魔法】を発動させた。するとハイエルフは驚愕の表情を浮かべた。
「き、貴様……何故その魔法を……」
「コレはレブルを倒して手に入れたスキルだよ。コレで納得してくれた?それとも手合わせまでするの?」
ハイエルフは攻撃の構えをやめた。俺も【血魔法】を解除してブーストを切る。すると魔力が全く無くなった。ハイエルフは俺の魔力が無くなったのを見て目を細めた。
「確かに……それをそこの者と使うならもしかするとリルブルを倒す事は可能かも知れぬ……だが、我らの前で魔力が尽きるその術を使っても良かったのか?このままお前を殺す事も出来るのだぞ?」
「俺達は商売をしに来ただけだからね。そういう事は無いと思ってる。でも本当にやるつもりなら覚悟すると良いよ。もちろん奥の手は有るからね。次は手加減せずにこの街の連中全員に死んでもらうから。脅しじゃないよ、コレは警告だ。リルブルから取った【暗黒魔法】がどういう類の物かは貴方が知ってそうだしね」
まあ、実際は俺の【エナジードレイン】じゃあ速効性は無いから徐々になのだけどさ……街の真ん中で【血魔法】発動したまま2時間弱も居れば簡単な事だからね。でも、このハイエルフはその事は知らないからいきなり【エナジードレイン】をぶっ放して来ると思うだろう。
「ならば、お前が何故それをしないと?我らが騙されるかも知れぬでは無いか?」
「だからこそのこの手形でしょうに……赤いハイリザードマンがわざわざお礼にとくれたんだからさ」
「……そうか。ハイリザードマンがお前に姿を見せたのだな。うむ……あの者が赤い色なのは会った者でなければ判らぬ……アレは私より臆病だからな」
「へっ?そうなの?わざわざ訪ねて来てくれたけど……」
「ほう……それ程……いや、リルブルから救われたのならその位は当たり前か……良かろう、ただしお前だけ来るのだ。その眷属も置いていけ」
「わかったよ。キラ、ここで待つんだよ」
キラはその場で小さいネコに戻って毛繕いをしだした。ここまでは当初の打ち合わせ通りである。
もちろんキラは連れて行かないと言っても『眼』と『十三』は連れて行く。何せ俺の肩に『眼』が乗って、『十三』は俺のランドセルの中に居るのだからね……。『眼』に調べさせるとエルフの街は周りが強固な結界により守られている事が判っている。まあ、攻め落とすつもりも無いし商売出来ればそれで良いのだが、もし襲われた時を考えるのは当然である。
砦から門に入りそのまま進むと更に門が有る……このまま12の門が有るとかじゃあ無いよな?……。
その門をくぐるとエルフ達の街に入れた。が、街の中のエルフ達は戦闘態勢を取っている。バリバリにヤル気やないか!
最悪は精霊の腕輪を使えばだけど……使いたくは無いね。
俺はハイエルフの後にくっ付いて行くと、大きな広場まで連れていかれた。
「ココで品物を全部出すと良い。この場で取り引きするのだ。終わったら出て行け」
ハイエルフは街のエルフ達に魔力を乗せた声で「この者は商人だ。手形を持ってるから安心すると良いぞ」と言っている。
俺は少し考えて『十三』を出す事にした。それもランドセルから出す時に木材風の外見に変化させるのだ。そうすれば全く攻撃するとは考えないだろう。俺が荷物をある程度出した後でゆっくりと『十三』を出すとハイエルフが声を掛ける。
「おい!それは何だ?」
「コレは手伝い用のオートマタだよ。ドワーフの里で手に入れたんだ。商売の時は手伝いさせてるのさ」
「何だと……ドワーフとも商売していたのか?」
「うん。酒持って行ったら喜んで商売してくれたよ」
「……まあ、良いだろう。変な事はさせるなよ」
「もちろん。十三はコレを綺麗に並べて」
品物をバンバンと魔導袋から出すとそれを綺麗に並べて行く十三。本当に優秀だ。その丁寧な仕事ぶりが呼び水になったのか、色々な物を持ったエルフ達が香辛料を中心に食料品等を物々交換して行く。彼らの持って来る物は装飾品が殆どだ。エルフの作る装飾品はかなりの高値が付くのでいくら有っても損はしない。
そのうち今度はプロと思しき連中がやって来て、弓矢などの武具からポーション等を持って来る。思ってた以上にいい品が多い。弓矢などは本当に綺麗だし、エルフの加護が付くと性能が跳ね上がるのだ。また、ポーション類は品質が高いので三倍以上の高値で売れる。
結局、食料品は全部売り切れてしまい香辛料もあと一袋だけになった。するとハイエルフがやって来て俺に話しかけて来る。
「香辛料はまだあるか?」
「この大きな袋で一袋有りますけど?」
「ならば全部貰おう。こちらに来るといい」
俺と十三はハイエルフの後にくっ付いて行くと一際大きな屋敷に入って行った。
客間と思われる部屋で護衛と一緒に待たされてると、ハイエルフと三名のエルフがそれぞれ箱を持って現れた。
「この中から好きな物を選ぶと良い。どれも中々の物だと思うぞ」
一つ目の箱には見た事の無いピンク色の魔石?が入っていた。
【霊獣の精霊石】
クラス:B 属性:精霊
寿命を全うした霊獣の亡骸から稀に見つかる精霊石。魔石と同じ効力を持つが、魔物から取り出した魔石と違い魔力が枯渇しない。
二つ目の箱には木製の杖が入っていた。
『精霊樹の杖』
クラス:A 属性:精霊
精霊樹の枝から作られた杖。本来精霊樹の枝は折れた時点で直ぐにバラバラになってしまうが、一万本に数本の割合でそのままの状態を残している枝を加工した物。癒しの能力で全ての異常を回復する(一日一度まで)
三つ目の箱には……俺が良く知る壺が入っていた……中身が空だけど。
それは甘露の雫の壺である。
普通に考えれば二番目の箱の精霊樹の杖なのだろうね。
だが、俺は迷わずにコレにする。
「では、この精霊石を頂きます」
ハイエルフは少し驚いた様だった……何でや?
「それを精霊石と判っているのなら何故杖を選ばぬのだ?」
「ああ……それはこの十三に使うからです。この十三は働き者ですが魔石を使いますからね、何度も魔石を交換するので……」
そう、十三は本当に高性能となったがその分魔石の消費も増えている。いつもは4次……イヤイヤお腹の魔導箱に入れてるけどストックを切らさない様に注意する必要があった。ましてや魔導銃も魔石が必要だからね。
「……変わった人間だな……オートマタに名前を付けたり……まあ、良かろう持って行くと良かろう」
「あっ、その壺をコチラに……」
「ん?これがどうかしたか?欲しいのか?」
「いえいえ、このままじゃあ勿体無いので……少しお待ちを」
俺はランドセルから甘露の雫の壺を取り出した。ハイエルフは驚いた様だったがシカトして甘露の雫を空の壺に入れてやった。
「コレでヨシ。1日もすれば甘露の雫が壺一杯になるでしょう。次からは絶対に空にしてはダメですよ。少し残して1日置けば元の量に戻りますから」
するとハイエルフは大笑いしだした。何や?何がおかしいんや?
「お前を試してやろうとワザと空の壺を入れて置いたのだが、まさか精霊から甘露の雫の壺を貰っていたとはな。しかも壺に甘露の雫を入れるとは……お人好しも良いところだ……フハハハ!!」
ひとしきり笑った後でハイエルフは懐から皮袋を取り出して机に置いた。
「そこに浮いてるヤツに必要な物だろう?」
《やっぱり気付いてたの。人が悪いの》
『眼』は姿を現した。このハイエルフめ……最初から知ってやがったのか……チッ。
「久しぶりだな。どうやら今度の主はマトモな様だな」
《我の見立てに間違いはないの》
へっ?知り合いなのか??
「コイツとは700年前位に会った事がある。まさかとは思ったか……やはりお前だったな」
「『眼』さん……どういう事なのかな??」
《我が居れば問題ないと思ったの》
「まあ、お前が鑑定してたのだろうが、この人間は適正な交換をしていたからな。むしろ好意的な交換だった。だから屋敷に招いたのだ」
「そうだったのか……」
袋の中身は『眼』の鍵だった。どうやら他の種族が物々交換で持って来てたらしい。
俺の人柄を見てから渡すかどうか決めようとしてた様だ。
「そう言えば名前を聞いていなかったな。私はこの里の長でカリシャスと言う」
「俺はラダル。魔法兵だよ」
「ラダルか……覚えておこう」
こうして俺はエルフの街で貴重な品を手に入れる事が出来たのだった。
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