アサシンスナイパー十三
改造された十三の活躍のお話です。
武商旅団のアジトに戻るとシウハが俺を呼んでいるという。何だか良く分からんが何か嫌な予感しかしない。シウハの部屋に行くとザルスが控えていた。
「ラダル、ちょいと頼みたい事があるんだけどねぇ〜」
「謹んでお断りします」
「……まだ何も言っちゃいないよ……」
「言わなくても分かるよ……どうせ厄介事だろ?」
「まあ、そんなトコさ。実は仕事を頼まれた」
「仕事?誰に?」
「それは聞かない方が身の為ってもんさ」
「ほ〜ら、厄介事じゃないか。全部聞きたくないしやりたくない」
「報酬は弾むよ。コレが上手く行ったら直ぐに樹龍国に向かうよ」
「月影先生は?」
「オレはやると言ったんだがな……」
「万が一って事も有るからね……この仕事は失敗が許されないのさ」
「そんなモン俺にやらせるなよ!」
「う〜ん……お前と言うかね……『十三』に頼みたいのさ」
「はぁ??」
「頼みたいのは暗殺だよ。この国の宰相をね」
「うおおおおぉいいい!!言っちまってるじゃねーかよ!!キコエナイキコエナイ!アーアー!」
「まあ、落ち着きなよ!みっともないね!」
「コレが落ち着いて居られるかよ!何でそんな厄介事を引き受けるんだよ!」
「クックック……ソイツは色々なしがらみってヤツさ。それにお前の所の『十三』がかなりの使い手なんだろう?ザルスから聞いてるよ?」
「確かに改造した『十三』はそう言う能力に特化してるけどさ……」
「じゃあ見つからずに出来るだろう?」
「……出来るって聞かれりゃあ出来るんだけどさ……」
「おっ、コレで決まりだね!機会は二日後にやって来るからね、その時に殺っておくれよ!」
結局、シウハに押し切られてしまった……。まあ、確かに『十三』には持って来いの仕事だけどさあ……まさか、モデルになったスナイパーみたいな仕事を頼まれるとは思わなかったけどね!しかも宰相とか……スイスの銀行に口座作らなきゃってくらいの大口の仕事じゃねーかよ!ふざけんな!
今回ターゲットとなるその宰相が強硬派のトップらしいね。コイツが居るといつまで経っても内戦状態が終わらないんだとか……。しかも穏健派の連中は何度か暗殺を企てては失敗しているらしく、宰相サイドもかなり警戒をしていて中々チャンスも無いと言う。今回は国王に呼ばれて謁見しているので影武者は使えないのだという。どうやらその帰りを狙えという事らしい。
『十三』にはどっかの貴族の馬車に取り付いて城の庭まで入り込み、謁見を終えた宰相が馬車に乗り込む時を狙って殺せとの事だ……俺が「果たしてそんなに上手く行くのかねぇ……魔法障壁の魔導具かローブみたいのを持ってるんじゃね?」って言うと、国王との謁見ではそう言った武具の類の物は城に持ち込み禁止で罰せられるらしい。つまり馬車に乗るまでは必ず丸腰なのだとか。
まあ、『眼』も一緒について行かせるから宰相を一回見させれば確実に狙えるとは思うけどさ。
二日後……俺は『十三』と『眼』を城に向かわせた。俺は『眼』を通じて全てを見ている。
そして俺達『武商旅団』はそのまま首都を出てしまう。何故なら俺達が暗殺された時に門を通過していた事が記録に残るからだ。それで無関係だと装うのだ。その際に穏健派の貴族が門の前でシウハと偶然を装って一緒に出る事になっている。こうやって印象づける事も忘れずにやる事まで計画のうちらしい。
じゃあ『十三』はどうやって逃げるのか?それは城を出るまでは走って出て来て、街の外には城壁を駆け上って逃げるだけである。何せ『十三』は壁や天井を簡単に歩けるからね。まあ、重量が軽くなっているから最悪は『眼』に乗っかって空を浮きながら出てくれば良いさ。もちろん、その際は光学迷彩使いっぱなしだから誰にも見られる事も無い。
『十三』は強硬派の貴族の馬車の下にくっ付いて城に入り込んだ。そしてそのまま城の出入口が良く見える場所で待機する。『眼』は一緒に入り込み、出入口の上の方で浮きながら宰相を待つ。
それからしばらくして宰相の馬車が到着した。城の前に4台馬車が止まっている……つまりダミーの馬車を4台と本物の宰相が乗った馬車が1台と計5台用意してた訳だ……徹底してるねぇ……。『眼』には宰相を確認させる為にそのままついて行かせる。宰相が控え室に入り、謁見の時刻に出て来ると馬車から出て来た男と顔が違っていた……と言っても『眼』が判別出来ただけで普通の者では判別出来ないほどそっくりであった。恐らく馬車から出て来たのは影武者なのだろう……どうやら本人は従者にでも姿を変えていた様である。やはり『眼』に見させて正解だったな。
謁見が終わった後、控え室に戻った宰相に挨拶をしに来ていた貴族が再び出て来た時に『眼』がソイツを見て《コレが宰相なの》と言って来た!いやいや顔が違うぞ??と聞くと《魔力は誤魔化せないの》と言った。どうやら変装する魔導具でも持っているらしい……嘘だろ?すげぇ用心深い奴だな!!
『十三』はその貴族に化けた宰相が出入口に出て来た瞬間に狙撃して頭をぶち抜いた!倒れた貴族は顔が元に戻る……倒れたその男の顔は間違い無く宰相であった。
『十三』と『眼』は城内の騒ぎに乗じてそのまま速やかにその場を脱出し街の外に向かう。『十三』は屋根に駆け上がってそのまま屋根伝いに門まで走って行き、『眼』は上空に浮き上がりながら街の外に向かう。そして、宰相が暗殺された連絡を受けて封鎖される正門を尻目に『十三』は城壁を駆け上がってそのまま外に出て、俺達のいる場所までやって来た。
「『十三』ご苦労様、良くやったね」
すると『十三』はコクりと頭を下げる。何かひと仕事終えたみたいな感じでカッコイイな!!
「どうやら上手く行った様だね」
「ああ、それにしても用心深い奴だったな。最期は他の貴族に変装してたぞ」
「へぇ〜それじゃあいくら穏健派の連中がやろうとしても駄目だった訳だね」
《我にあの程度の目眩しは通用しないの》
「お疲れさん。お前を行かせて正解だったよ」
「……へぇ……お前も大したもんだね!」
《このくらいは朝飯前なの》
「フハハハ!お前飯食うのかい?」
シウハはご機嫌である。そしてザルスと一緒に先の方で待っている穏健派の貴族に報告に行っていた。
するとアシュのおっちゃんがやって来た。
「ラダル、終わったのか?」
「うん。流石は『十三』だよ。完璧だったね!」
《我の力もあるの》
「分かってるよ。『眼』と『十三』のコンビは最凶かもな。向こうに帰ったら暗殺専門で仕事をするか?」
《そんな事してる暇は無いの》
「へいへい……そうですか……」
まあ、俺もあまりやらせたくは無いけどね……余程の事がない限りは……ね。
シウハ達が戻って来た。どうやらその貴族から報酬を貰っていたようだ。直ぐに俺にその中から魔導袋を1つ手渡した。
「コレが今回の報酬だよ。袋も込みでね!」
「じゃあ遠慮無く。ただし、こんな仕事はもう受けないぞ。いいね?」
「分かってるよ。今回はどうしても必要だったからさ。コレでやっと樹龍国に行けるからね!」
「……どういう事?」
「樹龍国に行くには国王の許可が要るのさ。それを貰う為に色々やってたけどあの宰相が邪魔してて中々出なかったのさ。それで死んでもらう事にしたんだ」
「そう言う事なら最初から言って欲しいんですけど!」
「まあ、そう言うな……あまり簡単に喋れる事じゃないからな」
まあ、ザルスの言う事は判るけどさ……。それでも教えてくれても良いと思うわ。
「さあ、樹龍国に出発するよ!」
シウハは馬車に乗り込んだ。俺達も馬車に乗り込みそのまま出発した。この先の樹龍国には亜人達が居るという……果たしてどんな事が待ち受けるのだろうか?
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