レディスン=ホークランド
遂にラダルの器の鍵を握るレディスン=ホークランドの登場です。
「ようやく炎龍国かぁ〜。長かったなぁ〜」
深龍から3ヶ月……何ヶ所か村には立ち寄ったけど、泊まることも無くそのまま野宿とか良くやるよ!しかもコイツら平気な顔してやがるし!
「うむ、お前の行きたがっていた『無舞』から行くとシウハが言ってたぞ」
「ええ!!マジか??そりゃあ助かるわぁ!」
「アシュトレイがシウハに談判して、先に『無舞』でお前達を降ろしてから、俺達は炎龍国を回ってまた『無舞』に戻って来る。という事になった。期間は三ヶ月位にはなるだろう」
「そうだったのか。アシュのおっちゃんもやるなぁ〜」
「オレ達もお前達二人の戦力はこの先必要になるからな。強くなるなら尚更のことだ」
「ん?この先ってそんなにヤバいの?」
「炎龍国までは比較的戦闘が少ないからな。だがこの先は紛争地域を渡り歩いたり、危険な魔物が多い地域を通らないとダメなのさ」
なるほど……それでザルスは戦力が必要と言ってるのか。まあ、ここまではさほど戦争の地域を回らなかったからね。
「じゃあちょっくら強くなって来ますわ」
「……そんなに簡単に強くなれるとは思えないがな。まあ、とにかくオレ達が戻るまでには強くなっておけ。でないと置いて行くからな」
「へいへい……分かりましたよ……」
『無舞』に着いたらレディスン=ホークランドの事を聞いて回らないとな……。
「……後、お前達の探しているレディスン=ホークランドと言う奴は『無舞』の街の外れで『魔導塾』と言う学校を開いているらしい」
「ええ!!調べてくれたの??」
「当たり前だ。もし居なかったら無駄になるだろう?時間は有益に使わないと」
「まあ、昔から時は金なりって言うからねぇ〜」
「ほう……お前達の国ではそう言うのか?中々良い言葉だな」
まあ、前世の何ですけどね……それは良いとして塾を開いているとは……中々面白い事をしているんだなぁ〜。しかし、レディスンが俺の器をどうにかする術を本当に持っているのだろうか?精霊は俺達と同郷の者だと言っていた……ならば何故向こうに居る時に器の厚みとかの話が出てこなかったのだろう?そこら辺も会ってみないと分からないな。
それから1週間後に国境の街『自来也』に到着した。特に国境越えに困った事も無くすんなりと炎龍国に入る事が出来た。市場を少し回ったが、名産の塩は良い物が無かった。
そのまま直ぐに『自来也』を出発する。
それから二週間後……ようやく目的地『無舞』に到着した。
無舞の街はかなり大きい。シウハに聞くと炎龍国でも三本指に入る大きな街らしい。
「しっかりと強くなって来な!その為に時間を掛けてるんだからね!!」
「分かってるよ、シウハ。必ず悪い様にはしないさ」
「期間は三ヶ月だよ!それ以上は待てないからね!」
「まあ、なる様になるさ。縁が有る事を祈ってくれよ!」
「……このガキは……相変わらず喰えないガキだよ!」
「じゃあ行ってくるよ!」
「シウハ、無理を言って済まんな……」
「そう思ってんなら小僧の尻を叩いて修行させな!お前だけが頼りなんだからね!アシュトレイ!」
「うむ、善処しよう」
「じゃあ行くよ!!」
すると後ろからタヒドがやって来て情けない声を出す。
「旦那ぁ〜一人じゃあ心細いでさぁ……」
「ブツは預けるからしっかり稼げよ!持ち逃げしたら地獄まで追いかけるぞ!」
「そ、そんな事しねぇでさぁ!!信用してくダセェよ!!」
「まあ、後は任せるよ。また三ヶ月後な!」
タヒドはイマイチ信用ならんが……まあ、奴も商人の端くれだし、何とかするだろうよ。それに最悪タヒドが失敗してもソコソコの金やらミスリル等もまだ有るしな。幾らでも巻き返せるさ。
シウハ達と別れた俺たち二人は街の者に『魔導塾』の場所を聞いてそちらに向かう。聞いた時に何やら微妙な顔をしているのが気になったが……。
しばらくして到着したその建物はかなりボロボロである。門の横には『魔導塾』と汚い字で書いてある。どうやら目的地に到着した様だ。
「すみませ〜ん!どなたかいらっしゃいますかぁ〜??」
しかし、その建物に反応は無い。誰がいるのは分かっているのだが……仕方ないので俺は向こうの言葉で話し掛けた。
「レディスン=ホークランドさんに会いに来たのですが、いらっしゃいませんか??」
するとこちらに誰かがやって来る気配がある。そして建物の中から出てきたのは、ボサボサの茶髪に長い貧相な髭を生やした眼鏡の男であった。
「そ、その言葉……向こうの大陸の人間か??」
「ええ、俺は王国のカルディナス侯爵領の人間でラダルと言います」
「おお!カルディナスか!しかし今侯爵領と言ったな?カルディナス家は確か伯爵のはずだが??」
「ああ、伯爵から侯爵家になったのですよ。では、まだ伯爵家の頃にこちらに来たんですね?」
「恐らくそうだね。私は王国の魔導師学院に居たんだが、卒業して直ぐにローレシアを抜けてバレルハル神国から船を使ってこの大陸までやって来たんだ」
「そうか……バレルハル神国から船が出てたのか……んで、この大陸の何処に船は着いたの?」
「闇龍国……この大陸の極東に位置する国だよ。但し、そこまで行くには相当に苦労する事になるよ」
「覚悟はしてるけど……そんなにキツいの?」
「うむ、隣の土龍国は内戦勃発中でな……黄龍国に加担する者と青龍国と同盟を結ぶ者とでな。樹龍国は亜人達が多く住む地域で人間は毛嫌いされるお国柄だ。今は闇龍国とやり合っている。そして闇龍国は現在鎖国中だから中々入れぬぞ」
「げっ……マジかよ……鎖国中って……」
「しかし君らは転移の罠で飛ばされて来たのだろう?良く生きてたな?」
「俺は戦争中だったからね。まあこのリュックに助けられたんだけどさ。アシュのおっちゃんは怪我したんだよね?」
「ああ、先制攻撃は食らってしまったからな。何とか魔物は倒したが、たまたま旅人に手当てして貰わなかったら危なかったな。運が良かったんだ。挨拶が遅れた、オレはアシュトレイ、冒険者だ」
「私はレディスン=ホークランド、王国では男爵家の次男だった。魔法の真理を追い求めてここまで来てしまったよ」
「実は精霊の助言で貴方に会いに来たのです。俺の器を強くしてもらう為に……出来ますか?」
「精霊??君らは精霊に会ったのかい?」
「ええ、一度目は山脈の向こう側で。二度目は黄龍国の山の麓で」
「なっ!君らは山脈の向こう側から来たのか!あのアマモの試練を通って来たんだな??」
「理の試練の事ですね?何とか大丈夫でした……あと二人仲間も居ましたし……」
「そうか!では詳しい話を聞こうじゃないか!いやいやコレは面白いことになったな!フハハハ!!」
何やらレディスンはご機嫌である。恐らくは山脈の向こう側に興味が有るのだろうけど。
中に入ると道場の様な大きな場所があり、机がいくつが並べられている。その奥に案内されたが書斎の様な部屋なのか物凄い量の本が積まれている部屋の横を通り、やっと居間にたどり着いた。
話を聞こうと椅子に座った瞬間にレディスンはお腹を鳴らした……聞くとココの所三日間ほど飯を食ってないらしい……マジかよ。
仕方ないので俺が台所を借りて食事の用意をする。その前にパンに甘露の雫を塗った物を出すとあっという間に平らげた。
「こ、これは美味いっ!!」
「今から料理作るから待ってて下さい。そのパンなら後でナンボでも出しますから」
俺は魔導鞄にストックしてた薬草を使った料理を取り出した。それを先に出してから料理に取り掛かる。今回はオーク肉の薬草ポトフである。仕入れておいた野菜とオーク肉を魔導鍋で煮るのだが、旅先で仕入れた魔導鍋は圧力調理が出来る奴で時短料理が出来るのだ。
先に出した料理も殆どレディスンが食っちまったみたいだ……すげぇ食欲だな。俺はパンを出してナイフで切ってポトフと一緒に出した。当然、俺達も食う。
「これは美味いな!食べた事の無い味付けだよ!それにこのパンが美味い!」
「パンにこれ塗っても良いですよ。中身を空にしないで下さいね、空にしなければ翌日にまた増えてますから」
「何??まるで魔法の様だな……」
「精霊に貰ったんです。甘露の雫って言います」
「ほう!精霊か!会ってみたいものだなあ」
「まあ、運が良ければ会えなくないとは思いますが……」
レディスンは精霊に興味深々である。初日からこんな感じで大丈夫なのだろうか?
俺達が太陽国ギスダルをどうやってやって来たとか精霊や遺跡の話し、魔物達の話やロザリアやブリジッタとの冒険、そして、アマモの試練を4人で突破した事などを話した。
「なるほど……アマモの試練とはその様な試練なのか。フムフム……それならば何とかなりそうだな。その内行ってみようかなぁ」
随分と自信有り気だが……しかし不思議な魔力の感じ……いや、魔力というより何か他の力なのか?とにかく底が見えない感じだね。
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