8.〜【悲報】『異世界転生した俺イケメン天才魔道士で魔王の右腕ですが何か?〜悠々自適なファンタジーライフ〜』始まらない〜
前回までのあらすじ。
はじめてのおつかい終了。
はじめてのおつかい終了から早1ヶ月。
俺は引きこもっていた。
もちろん、訳がある。
きっと聴いたら誰もが悲しみに暮れる。でももしかしたらどこかでそうだろうと思うかもしれない。
手短にいう。俺は覚醒なんてしていなかった。
アレはナナがやったってさ。髪ゴム型の盗聴器でタイミングを合わせて魔法ドッカンてやったんだって。
「魔王の部下として最初にガツンとやったほうが舐められないじゃろ?」とか飄々とぬかしたんだ。ショックじゃないと言えば嘘になる。嘘。いや、マジですげーショック。
覚醒した訳じゃなかったからではない。
ナナに俺1人じゃ町なんて支配できないって思われてたのが、保険をかけられてたのが悲しいんだ。
ーー任せてもらったのに、結局何もできなかった自分の弱さも。
……………………………。
………嘘だ。正直に言う。
本当は魔法ドッカンした時、覚醒したと思ってた。確信までしていた。
何度でも言おう。
異世界転生と言えば、どこかの村に生まれて、生まれながらにしてなんかすげー魔力量、すげーレパートリーをチートばりに持ってて無自覚に使って「あれ?コレじゃダメだったのかな」とか言ってもっと凄い魔法ドッカンして周りをあんぐりさせてその様子を見て「やっぱり俺って何もできないのか」って贅沢な勘違いするものと決まっている。そして周りに集まってくる多種多様なさいつよ美少女。友人のイケメンは当然噛ませ。
それがだ。
イケメンではあるが、そんなに恵まれた魔力も無く性格も変わらずグダグダするだけしか出来ないなんて。
そんな風に落胆してた。
そんな時に覚醒イベ。何も起きないわけもなく。
いや、何も起きなかった。
それが悲しい。俺はこの世界でもモブだったのだ。顔のいいモブ。
顔面だけが取り柄のモブだ。
俺はチート主人公になりたかった。
「顔は普通よりだけど、まぁ可愛い」みたいな。
「はあぁあ……」
俺は大きくため息をついて、布団に包まる。やる気が出ない。
漫画もアニメも娯楽がないからただただ砂を指でいじりつつボーッとする。
ーーーーコンコン。
「何じゃ。まだ落ち込んどるのか」
扉越しにナナの声がする。
もうなんだよ。
「開けるぞ」
ナナはガチャガチャとドアノブを回す。残念だったな、鍵ならもうすでにかけたから。
カチャカチャ、ガッチャン。
簡単なチープな音を立てて簡単に鍵を壊された。
「入ったぞ〜」
無遠慮に部屋に入ってくる。誰にも会えない顔なのに、もう何だよ。
ナナは俺の隣にぼすんと座る。
「やれやれ。何をそんなにしょげておるのか」
「……」
俺は恨めしい目でナナを見る。
「確かに今回の爆発は我の力じゃった。それを隠していたのは悪かった」
「今回の目的は町の支配権の獲得じゃ。」
「じゃがなぁ、リュウジを初めて町を見せることが出来たのじゃ
ただの我のお付きだけじゃ、ちとアレじゃろ?退屈であろう?皆と触れ合って皆をビックリさせたいじゃろ?何せ、魔王である我の右腕なのじゃから!」
矢継ぎ早に話すナナ。
俺は何も言わず下を見る。このシーツ洗ったのいつだっけ。
「リュウジとて、鍛錬を積めばあのくらい出来るようになる!今は手元の砂を移動させたり硬める位じゃが絶対出来るぞ!な!な!な!」
何度も「な!」と執拗に連呼するナナをチラリと見る。
うるさいと言おうと思った時だった。
ナナは泣きそうな顔をしていた。
いつもは勝ち気な生意気そうな眉も下がって、涙目だ。
口角と口調はいつものように明るいが、口を閉じるとへの字のように口を結ぶ。
まるで居なくなる友達を必死に繋ぎ止めようとしているかの様だった。
「………はぁ」
俺はため息をまたついた。
ナナは、俺が次に何か言うのを口をつぐんで待つ。
「……俺は、今回みたいな凄い魔法が自分で使えるようになりたい。どうしたら良いんだ?」
「え、あっ、そっそうじゃな!
鍛錬としてはな、えーと使える魔法の粘度を上げて使い慣れるとこが大事と言えようぞ!」
「…まぁ、いつもやってる練習と同じだな」
答えてくれたことが嬉しいようでナナは明るく答える。
対する俺は、あまり気分が上がらない。
結局やるべき事はいつもと同じ。
これまで同じことをしていた自分としてはあまり成長を感じられないからだ。
「これじゃあずっと大した魔法は使えないだろうな」
自嘲気味に笑う。
「いやいや!それは違う!
町の木こりの倅はリュウジと同じくらいの年齢の先天性の植物使いじゃが、まだ動かしたりは出来ないと聞く!
リュウジの習得はかなり早いと言える筈じゃ!」
驚きと喜びの笑顔でナナは言った。まぁ我の右腕じゃしな〜と嬉しそうに足をバタバタ動かして。
子供みたいな行動に俺は思わず笑う。
それを見てナナはもっと笑顔になった。
そして、思いついたように
「そうじゃ!もしもっと鍛錬について聞きたいのであれば、マジナを尋ねれば良い!!」
「マジナ?」
「そうじゃ。マジナは“千里眼の魔女”。
遠くや次元を超えて見聞きできる凄い魔女じゃ。きっと色んな知見を持っているはずじゃ」
魔女…。やっぱりこの世界にもいるのか。
「どこに居るんだ?」
「後ろの小さい山を越えたところの森に居る」
我が家の後ろを少し行くと、広大な山や森が広がっている。
窓から顔を出してナナは指をさす。
「山までは遠いが、思ったよりは近いな」
「まぁな。我らの家に近いと言うより、町に近いと言える。
マジナは魔女であって悪者ではないが、町の者達からは気味が悪いと嫌煙されていた。しかし奴は町が好きなのじゃ。じゃから割合近くの森に身を隠して住んでいると言っておった」
「“言っておった”?もしかしてマジナと交流があるのか?」
「あるぞ。マジナは面白い奴とも言えるな。クセはあるが魔女なんてそんなもんじゃし、我はそんな事では差別をしたりはしない」
森よりも遠くを見つめる様な眼差しで言う。
ナナは時々見た目とは似つかず大人びた、いやそれ以上の苦しさや憂いを含んだ表情をする。何となくその表情の理由を聞いちゃいけない気がしてずっと言えないままだ。いつか聞けるんだろうか。
「そうじゃ!森までは看板が立っているから道のりも分かりやすい。折角じゃし、1人で行ってくるが良い」
「え?」
「我も忙しい身。幸いにも森までは凶悪な魔獣や動物は居らぬ。何かあっても魔法で自分の身くらい守れるじゃろう」
「んー。まぁ、危なくないなら行けるかな」
「マジナにお菓子を渡しといてくれ。
あ、そうじゃ。森には魔法使いもおる。水色の髪でかなり強いが敵意を示さなければ大丈夫じゃ」
「分かった」
そういうことになった。
次の日、幸いにも晴天だった。
「旅立ちには良い天気じゃ!」
「旅立ちって、大げさだろ…」
ナナの用意した多めのお菓子を鞄に入れ、出発の準備は出来た。
「???何をしてるんだ?」
髪を結い直すために腕を上げていると、俺のズボンのポケットに何か紙の様なものをナナがねじ込む。
「3枚のお札じゃ。リュウジの世界の絵本で見た」
「?」
「何か危機が迫った時に使うが良い。フフフ」
ニヤリと笑うナナ。よく分からないが使わない方が良さそうだな…。
「じゃあ行ってくるよ」
「ああ!気をつけるんじゃぞ!歩き疲れたら休むが良い!」
「フフフ」
今度は俺がナナに背を向けてニヤリと笑う。
実はナナにも言っていない技があるのだ。
ナナに手を振り、歩き出す。
歩いて程なくナナが見えなくなったのを確認する。
実は魔法で楽に移動できる方法を編み出していたのだ。
原理は簡単で、足の下に板を置き、その板の下に砂でローラーを作り動かすのだ。
分かりやすくいうと、ローラースケートみたいなヤツだ。
ただ問題がある。
これが靴なら足をホールドしているので安定しやすいのだが、俺の体ではなく板を動かすので常に板の上にバランス良く乗っている必要があるのだ。しかも早く回転させる上に精度がそんなに高いわけではないので揺れる。
これを解決する方法は、ただ1つ。
四つん這いになる事だ。
四つん這いになり、両手両足を四つの板に乗せることにより抜群に安定感が増すのだ。
しかし四つん這いでスーッと動く人間はかなり恥ずかしいので他人に見られる訳にはいかない。だから今回の旅は絶好の機会だった。
俺は鞄から板を出して四つん這いになる。そして
「“砂靴”!!!」
と叫ぶ。周りから見れば珍妙な光景だが俺はマジだった。
叫ぶと魔法の成功率が上がるのだ。多分、漫画の見過ぎのせいだな。
ちなみに砂靴の由来は将来的にはローラースケートみたいに二足歩行で走れる様になる予定だからだ。
ゴロゴロガタガタと体を揺らしながら進む。
4つに体重を分散させて、しかも粗く回転させて精度を落としているため魔法による負担は意外と少ない。
だけど、酔う。
ダイレクトに振動を感じるし頭も揺さぶられる。
吐きそうなのを堪えつつ砂を動かすことに集中する。
やがて頭を上げることもシンドくなり、地面を一心に見ながら必死に前に進ませる。
その時だった。
ゴガッ!ガガッ!!!
「おげぁあっ!!」
前をちゃんと見てないせいで、想像以上の凹凸に引っかかったらしい。
板から放り出された俺はゴロゴロと転がり木の根元にぶつかって止まった。
恥ずかしすぎるんだが。
しかし気持ち悪さから中々立ち上がれない。
情けなさすぎるんだが。
「うぶっ。……誰にも見られてなくて良かった…」
そう1人呟いた時だった。
「大丈夫か???」
俺に誰かが声をかけた。
「どっか痛いのか?」
心配そうにかけられた声にはなんとなく覚えがあった。
俺は恐る恐る顔を上げる
「あっ!」
「……ども」
そこにはキラキラしたアダシノ勇者の顔があった。
BUMPは青春
男性描けないので脳内補完お願いいたします…。
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