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7.〜はじめてのおつかい、後編〜

 前回までのあらすじ。

 詠唱破棄からのかしこま


「詠唱破棄!かーらーのー」

「かぁあしこまぁぁ!!!」


 手に力を込め、俺はありったけの声で絶叫する。

 勇者は腰を低くし、子供は懐から小さなステッキを取り出す。



 しーん。。。



 何も起きない。



 そりゃそうだ。大技出せるほどの魔力もないし、ブラフもいいところだ。

 恥ずかし。顔があげられないよぉ


「??」

「はぁ????」


 勇者組が混乱・呆れを示した

 子供はヤレヤレと首を振り、大袈裟に肩をすくめた。俺を見る目には嘲笑が含まれていた。


「なーんにも起こんないじゃん。おまe…」


 その刹那。




ドガァアァァンッッッ!!!!




 町のお城みたいなお金持ちの家が盛大に爆発した。そう、爆発だ。良くあるCGの様な噴煙と赤い炎が勢いよく飛び跳ねたという表現しか思いつかない。

 爆発は大きく、その数秒後こちらまで爆風が届く。皆、たなびく服や髪を押さえる。


 勇者は爆発に驚いたのち、周りの被害状況をすぐに目視で確認を行う。そしてこちらをゆっくりと見た。


「まさか…お前なのか???」

「えっ」

「まさか、これほどの魔力もがあるとは…」

「えっ」



ええええぇっ!?

俺?!俺の魔法!?

俺は砂の魔法はずじゃ…?もしかして窮地にたたされ能力目覚めちゃったとか?!じゅ、呪文を介することで魔力が増幅して何か化学反応的なことが起こったとか???ある!ワンチャンあるこれ!

砂粒を動かす程度の能力じゃなかった!

使い方をマスターすればチート級能力ばかすか打てんじゃねーのこれ!



「…ないっ。ありえないぃ!!!!!」


 ステッキを持ったままの子供が叫ぶ。

「こんなショボい鎧着た頭のおかしいどう見ても弱そうなやつがアレをやった?!ないね!」

「大体!今の呪文も聞いたことないし!絶対ありえない!」

 歯軋りが聞こえそうなほど俺を強く睨む。さっきまでの俺を馬鹿にした顔はもうどこにもない。


「そうだよな…」

 俺は小さく肯定する。たしかにさっきまで俺は無様と呼べるほどにビビリまくってた。

 そんな弱々しいやつが?実は?凄い魔力もってました?あり得ないよな。信じられないよな?


 でもな…



「残念でしたぁー!コレが現実!!!!!ありえない??ありえるんだなぁコレが!今の見ただろ俺の実力だよ!バーカ!聞いたことない呪文???ツクシちゃんの知識がないだけだろ人のせいにしてんじゃねぇ!馬鹿にしてた年上がトンデモ魔力持ってた上にトンデモ魔法使ってた気分はどーよ?最後まで呪文聞いとこうとか余裕ぶってたツクシちゃんはどーこだ??」


 自然と極上の笑みがあふれる。

 俺の人生始まったな。スクールカースト下部にいるモブキャラ生活は終わりだ。

 こっからは『異世界転生した俺イケメン天才魔道士で魔王の右腕ですが何か?〜悠々自適なファンタジーライフ〜』の始まりだな。

 笑みがこぼれまくる。


 煽られまくったツクシはブルブル震えている。バイブレーションモードかな?



「・・・・ツクシの非礼は代わりに詫びる。それぐらいにしてやってほしい」


 勇者アダシノがずいっとツクシを庇う様に前にでる。まじイケメン。


「まさか本当に魔王の部下だったとは。君には親近感を感じていたのに、残念だ」


 眉を下げ、本当に残念そうに顔を振る。



「まぁ。魔法で城を壊したことは悪かった」

 ちょっと罪悪感。人が住んでたかも知れないしな。


「……せっかくの縁だし友達になりたかったが、魔王の部下であれば捕まえなくてはならない」


 かちゃり。

 勇者は剣を構え直し、鋭くこちらを睨む。


 一難さってまた一難。

 さっきの呪文の内容なんて覚えていないし、こちらは丸腰。体術も習ってない。出来ることといえば砂で目潰しぐらいか。

 ツクシは悔しそうにコッチを見てるだけだし、現状戦う相手は勇者アダシノだけみたいだ。まぁよくアニメとかで主人公が初見で剣を上手くかわしてるの見るし何とかなるだろ。

 とりあえず、ファインディングポーズをとる。

 緊張の時間が流れる。

 最初に声を出したのは勇者だった。


「いくz」「待つのじゃっ!!」


可愛い声色で鋭い声が聞こえる。

 え。この声は。

 二人で見上げると、空から女の子ーもといナナーが降ってきた。


「勝負は終わりじゃ!」

しゅたっと華麗に着地し、どーんとポーズを決める。


「まだ勝負してないんですが」

「良いのじゃ。意味のない戦いほど意味のないものはないのじゃから」

「何で悟ってる風なんだよ…。ねぇ、てゆーかさっきの見た?大爆発。アレ俺ね」

「城のやつか?」

「そう。あのヤバいやつ。俺って追い詰められたら覚醒するタイプだと思う。そういうタイプの主人公っているし。王道パターンみたいなね。いやー自分の才能が恐ろしいね」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」


 勇者組を無視して話し始める俺たちをアダシノが止める。


「き、君は?」


 突然の少女の登場に困惑する勇者。

 その質問に、待ってましたとばかりにナナはドヤる。ふふん。ナナは鼻息を荒くする。


「我は魔王となるもの!

アーガイヴァンズ=バウルウッド=ナナ!じゃ!」


 ばぁーん、と効果音がつきそうな感じ。


「こちらが俺の魔王様です。本当です」

 一応補足しておいた。


 勇者組は揃ってぽかんとしている。

 そりゃそーだ。トンデモ魔法にちっこい魔王。怒涛の展開に今日の夜は寝れなそう。


「大体ナナ、何してたんだよ」

「ふふん。これじゃ」

 一枚の紙を出す。生後2ヶ月だから難しい文法のは読めない。

「おぬしらもちこうよれ」

 勇者組にも紙をぐいと印籠のように見せつける。




「本日をもってこの町は我の物となった!!

これはその証拠じゃ!!!!!」




「「「え?」」」




 俺たちは一緒に声を上げた。

 ツクシが読み上げる。


「『カウン=クルブシ(以下「甲」という)と

アーガイヴァンズ=バウルウッド=ナナ(以下「乙」という)の間で…』」


「待ってくれ。俺難しいの分からないから簡単に教えてくれ」

 少し困った風に勇者が言う。同感だ。ツクシは勇者に一瞥くれたあと、やれやれと言いたげに紙に目をとおす。


「あー。つまり、『町の重大な決定権をナナに移す。仕事内容などは後々決める』的な感じだね。ここのお偉いさんはドのつくクズで、絶対権限とか譲渡するタマじゃないと思うんだけど?」


「ふっふっふっ。なぁーに。優しくお願いしたら快く聴いてくれたぞ」

「それに決め手は、我の部下のリュウジのおかげじゃ。あの爆発!いやー盛大じゃったなー」


「いやぁ。まあね?ちょっとやり過ぎたかなーって思った部分もあるけど楽勝したwあれ、俺何かやっちゃいましたか的な?w」


 ちょっと早口でキモい感じになったがこんな褒められることがあまりないから仕方ない。



「まぁそういう訳じゃ!つまり我はこの町において絶対的魔王!次いでに部下のリュウジも偉い!よってパン屋での名乗りは脅し目的ではなくただの自己紹介じゃ!」


 無罪確定!ナナは不敵に笑みを浮かべた。

 俺はドヤるナナの隣でとりあえずヘラっておいた。

 それに対してツクシはステッキを向ける。


「怪しすぎるねー。町の人たちを怯えさせた事実は変わらない。そもそも魔王は悪しき者。魔王と名乗るならばそれ相応の対応を取るだけだよ」


「ほーう。チビっ子が吠えるのう」


 ツクシは苛立つように噛みつく


「お前も大して変わらないだろー!こっちはA級魔道士名乗ってんだよ。子供の魔王ごっこはココまでにしろ!!」


 力強くステッキを大きく振り上げる。

 掲げたステッキにキラキラとしたものが集まりだす。星のような結晶のようなものが集まり丸い光になる。



「ツクシ!やり過ぎだ!」

「二人とも、逃げてください!ツクシは俺がなんとかしますから!」

 勇者が焦ったように叫ぶ。

 これ、ヤバイんじゃないか?


「ナナ、ずらかるか?」

「ふふん。問題ない」

 ビビる俺の質問を一蹴すると、ナナは楽しそうにニヤニヤと丸い光を眺める。


 ドンドン丸い光はキラキラとしたものを吸い込みながら大きさと高度を増す。

 ナナ位はすっぽり収まりそうな大きさだ。眩しくて直視できない。

 アレを喰らったら一溜まりもないことくらいは理解できる。

 マジでヤバイ。

 俺は怖くなり、不敵に笑みを浮かべるナナの服の裾を掴む。ナナが怯える俺をチラリと見た気がした。


「ふむ。流石A級魔道士と名乗るだけはあるの。だがーーー」


 ついっと滑らす様に手を前に出して、ステッキに向かってデコピンのような仕草をする。

 その瞬間だった。




パキッーー。




 恐ろしく簡素な音と共にツクシの持つステッキが壊れた。


「っっっ!?!?!?!?」

 ツクシは驚きを隠せない。

 途端に、集まっていた光が行き場をなくしたようにグネグネと動きだす。集まった羽虫の様で気持ち悪い。

 その光に対して、ナナは光たちにどこかに行けと言わんばかりの手を払う仕草をした。

 その手に呼応するかの様に、ソレは一斉に散り散りに空気に溶ける。

 あっという間の出来事に誰も何もいえなかった。



「我にはその程度じゃ届かぬぞ」


 沈黙を破ったのは他ならぬナナだった。


「な、何をしたんだよ!」


「簡単じゃ。杖が耐えられない量の魔力を一気に流し込んだだけよ。それに、そんな大きな攻撃魔法だと町が壊れる」


 ナナは胸元から紅い石を取り出し放り投げる。


「杖ももっと良い物を買うが良い。それはリュウジの相手をしてくれた駄賃じゃ」


 泣き出しそうなツクシを隠す様に勇者が前に立つ。戦う意思はもう無さそうだ。

 アダシノは真っ直ぐな目でナナを見る。


「あなた達はこの町をどうするつもりですか」


「悪い様にはせん。この町は好きじゃ。クズな町長が町を汚していると知ったからな。それならばと我がもらったまで。我は魔王。魔王だが、良い魔王じゃ」


「この町を、町の人たちのために良くしてくれますか」

 

 アダシノの真っ直ぐな質問と視線をナナは正面から受け止める。

 ナナの表情には絶対的な自信が現れていた。


「無論じゃ。約束しようぞ」


「…ああ、約束だからな」


「ふむ、立派な男じゃな。リュウジ、今日は仕舞いじゃ。退くぞ」


 勇者と約束したナナは、俺の襟ぐりをガッシリ掴んで颯爽と飛び上がる。

 不安そうに集まって見ている町の人を見て


「恐るな!我は良い魔王じゃ!今日より明日が素晴らしく希望に満ち溢れる町にすると約束しようぞ!」


 そう高らかに告げると、来た時と同じようにナナと俺は町を飛び去った。


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